今回は「モーニング」で連載中、元PL学園野球部だった作者の「なきぼくろ」氏が実体験をモデルに描くリアル高校野球漫画「バドルスタディーズ」について紹介します。
PL学園野球部と言えば誰もが知る名門ではありますが、その歴史は数々の暴力事件、不祥事とともにありました。
2015年から連載が開始された「バドルスタディーズ」ですが、翌年の2016年にはPL学園野球部そのものが廃部となっています。
本記事では、そんなPL学園野球部のヤバめなリアルを真っ向から描いた「バトルスタディーズ」の魅力について深掘りしてまいります。
「バトルスタディーズ」あらすじ(ネタバレ注意)
DL学園野球部、そこは理不尽な規則と体罰が支配するヤバすぎる場所だった
中学野球全日本代表で世界制覇の原動力ともなった主人公の狩野は、憧れのDL学園野球部に特待生として入部を果たします。
しかし、DL学園の大ファンで高校野球への希望に胸を躍らせる狩野たちを待ち受けていたのは、時代錯誤とも言える厳しい上下関係と理不尽な規則、体罰の嵐だったのです。
DL学園の理不尽な洗礼に心を折られそうになる新入生たちですが、狩野はそれに怯むことなく自由気ままに振舞います。
そして入学直後の紅白試合でも狩野はしっかり結果を残したものの、その失礼な態度が上級生たちに問題視されてしまいました。
狩野に厳しい罰を与えようとする上級生たちでしたが、主将の烏丸は口頭で責したのみで体罰を加えることなく狩野たちを解放します。
烏丸は体罰を問題視する世間の風潮、有望な中学生から敬遠され10年間全国制覇から遠ざかっている現状を踏まえ、体罰を禁止し部を改革したいと考えていたのです。
しかしその考え方は、「厳しいDL学園の規則があったからこそ強い精神力が養われた」と考える3年生たちには受け入れられません。
新チームは早々に分裂の危機を迎えていました。
クズ男鬼頭の不祥事によりチームは出場停止へ、DL学園は終わったと言われるが……
4月下旬に入ると、一軍は春季大阪大会へ、狩野たち1年生は二軍として私学大会へ出場します。
危ない所はあったものの、私学大会を制覇した二軍。
圧倒的な実力で近畿大会への出場を決めた一軍。
近畿大会には春の選抜決勝でDLを下した京都の兵安高校も出場しており、一軍メンバーは雪辱に燃えていました。
エース金川がオーバーワークで故障するなどトラブルがあったものの、3年生たちの奮起により近畿大会を制覇したDL学園。
1年生の自主練が許可されるなど、少しずつ部の雰囲気も良い方向に変わっていきます。
そして夏本番を迎え、1年生ながらレギュラーの座を勝ち取る狩野と檜。
一回戦では途中出場ながら試合を決める大活躍を見せます。
しかしその日、周囲からのプレッシャーに負けた1年生の鬼頭が、なんと自動車の飲酒無免許暴走事故という不祥事を起こしてしまいます。
DL学園野球部は大会出場辞退と首脳部の総退陣を決定。
最強と呼ばれた烏丸達世代の夏は、まともに戦うこともできず終わりを告げたのです。
また、この事件をきっかけにDL学園野球部の暴力的な体質が明るみとなり、積極的に報道されたことで有望な中学生はDLを避ける様になり、周囲からDLはもう終わったと認識されるようになります。
年が明けて再び表舞台に姿を現したDL学園。
そこには2年生ながら新主将となった狩野の姿がありました。
そしてDL学園はかつてと同じ、あるいはそれ以上の圧倒的な強さを周囲に見せつけ、大会を勝ち上がっていくことになるのです。
「バトルスタディーズ」主な登場人物(ネタバレ注意)
狩野 笑太郎(かのう しょうたろう)
本作の主人公。
中学時代はボーイズリーグで活躍し、全日本代表として世界制覇にも貢献した有名選手。
ポジションは捕手だが、2年生になってからは主に一塁を守っている。
外見は白髪で猿顔のやんちゃ坊主。
非常に明るく自由気ままな性格で、大のDL学園オタク。
勝つためなら何でもありな行動で周囲を振り回し、トラブルを引き起こす。
非常にバカっぽい雰囲気ではあるが、映像記憶能力の持ち主であり、野球に関する頭脳は優秀。
「鉄の掟」「付き人制度」といったDLの古い体質を刷新すべく、不祥事件後1年生ながら自ら新主将に志願する。
檜 研志(ひのき けんし)
1年生投手。
中学時代は全日本代表で狩野とバッテリーを組んでいた。
狩野と一緒に野球をするためDL学園への進学を希望する。
非常に才能豊かで実力はあるが、それ以上に尊大な性格の自信家で、なかなか自分のミスを認めないという欠点もある。
洗濯が苦手でついたあだ名は「洗濯王子」。
ユミという頬骨のはった幼馴染の彼女がいる。
花本 走太(はなもと そうた)
1年生遊撃手。
走攻守揃った中学日本代表の一番で、特に走力に優れている。
まんまるとした頬っぺたが特徴の気の優しい男。
2年次は打撃が低迷し、ベンチ入りメンバーから外れてしまう。
丸井 優平(まるい ゆうへい)
1年生遊撃手。
日本代表の経験はなく、同じチームの1年後輩の有力選手のバーターとしてDL学園に入学した。
DLの体罰に関する噂に怯えていて、実際にそれを目の当たりにしたことで何と入寮初日に脱走。
その後、DLへの想いを捨てきれずチームへ復帰を果たす。
2年次の夏が終わった際、周囲をよく見ているということで新チームのキャプテンに選ばれる。
鬼頭 一(きとう はじめ)
1年生左翼手。
レギュラーを取るために様々な汚い手を使って周囲を蹴落とそうとするクズ男。
しかし実際にはレギュラーを取ることは叶わず、父親からのプレッシャーに耐えかねて暴走。
記者に付き人ノートをリークした上で、無免許飲酒運転事故を起こしてチームを出場停止に追い込む。
本人は責任を取って退学。
毛利 阿黙夢(もうり あだむ)
1年生中堅手。
外見にコンプレックスがあり、プロになってハーフモデルと結婚することを夢見てDL学園に進学する。
実際、実力や才能や豊かで試合でも活躍したものの、活躍しても変わらない雑用係という現状に不満を持ち、最終的に鬼頭に唆されて脱走、退学となる。
烏丸 学(からすま がく)
狩野たちの2年上の主将。
遊撃手で、小柄ながら俊足と高打率でチームをけん引する。
外見はスキンヘッドで眉毛がなく、異様な貫録を持ち、寮内では和装で過ごしていることからまるきり修行僧。
DLの将来を憂いて改革路線を打ち出しているが、中々周囲に受け入れられず苦悩している。
卒業後はドラフト1位でヤクルートにプロ入りし、新人王争いをしている。
金川 春馬(かなかわ はるま)
狩野たちの2年上の代のエース。
非常に尊大な性格で下級生には厳しいが、それも強き良きDL学園を愛するからこそ。
自分も過去に理不尽な仕打ちを受けたが、だからこそ強い精神力が養われたと信じており、烏丸の改革路線には反対している。
卒業後はドラフト1位で楽点にプロ入り、一軍でも登板するが初勝利が遠く、苦悩している。
藤巻 香(ふじまき かおる)
狩野たちの2年上の世代の三塁手であり、卒業後はDL学園に残って監督に就任する。
非常に偉そうな態度を取っているが、あまり実力には恵まれず、本人も自分が実力不相応に偉そうな態度を取っているとの自覚はある。
その為、試合に出るのが怖いとの本音を吐露する場面も。
監督になってから打撃の才能に目覚め、プロ入りを夢見るようになる。
「バトルスタディーズ」感想&評価
あの「ヤバすぎるPL学園野球部」での実体験をモデルとした挑戦的な作品
高校野球漫画は数あれど、基本的には爽やかな高校球児たちの青春が描かれたものばかり。
暴力、理不尽な規則、嫌な先輩、不祥事etc……そんなヤバイ野球部を真っ向から描いた作品というのは「バトルスタディーズ」以外にないでしょう。
しかもまんまPL学園とか、普通だったら描けないですよね。
作者の「なきぼくろ」氏は実際にPL学園野球部に在籍し、ライトのレギュラーとして甲子園にも出場した経験のあるOB。
だからこそPL学園というブラックな世界を描くことができ、またそれが許されたのでしょうが……
物語は狩野の明るいキャラクターもあってコミカルに描かれていますが、内容そのものはかなりブラックです。
いや、高校野球経験者なら「こういうもんだよ」と肯定されるかもしれませんが、一般社会から見るとまるきり異世界。
しかしそれでもPL学園を負の集団ではなく、きちんと前を向く集団として描くことができているのは、やはり「なきぼくろ」氏の実体験あってこそでしょう。
登場人物の多くは「なきぼくろ」氏の当時の仲間がモデルとなっており、実際に氏の2年上の世代は不祥事により甲子園への出場が叶いませんでした。
色々と問題ばかりのPL学園でしたが、その光と闇から目を背けることなく、真っ向から描いたこの作品は、「なきぼくろ」氏以外には決して描けない作品です。
鬼頭ら退学組のクズっぷりが印象的な一方、腐らず前を向く部員たち
序盤は鬼頭ら退学組のクズっぷりが非常に印象的でした。
特に鬼頭によってDL学園はどん底に落とされたわけですし、その行為そのものは決して許されることではありません。
ただ一方で、鬼頭たちはまだ15歳の少年。
理不尽な暴力や人間関係に耐え切れず、彼らのように暴走してしまう人間が出てくるのは、ある意味では必然とも言えるでしょう。
皆が皆、それに耐えて強い精神力を、何ていうのは無理があります。
別に鬼頭たちを庇うわけではありませんが、それも含めてDL学園の体質の問題だったのだろうと思います。
逆に、だからこそそんな環境でも腐ることなく前を向く狩野たちの在り方こそが、この「バトルスタディーズ」という作品の魅力です。
どんな環境でも腐ることなく自分のやり方を貫く。
そういう当たり前のことをとことんやり切ることのできる部員たちの姿は、私の目にはとても魅力的に映りました。
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