今回はモーニングKCで田素弘先生が連載中の「紛争でしたら八田まで」について紹介したいと思います。
この作品は、地政学の専門家、八田百合が最新の国際情勢に鋭く切り込み、世界中で発生している紛争を「チセイ」とプロレス技で解決していく、読めば海外のことがちょっと楽しくなる作品です。
やや物騒なタイトルですが、決して紛争を助長する側のお話ではありませんので、まずそこはご安心ください。
「紛争でしたら八田まで」あらすじ(ネタバレ注意)
物語は「地政学リスクコンサルタント=紛争解決屋」の八田百合が、その「チセイ(=地政、知性)」と得意のプロレス技で以って、世界各地の紛争を解決していくというものです。
八田が最初に降り立ったのはブレグジットの影響を大きく受けるイギリス。
そこではEUという接着剤が取れて、北アイルランドを中心にイギリスとアイルランドの対立が顕在化していました。休暇中の八田もイザコザに巻き込まれてしまいますが、彼女はそれを華麗な「ジャイニングトライアングル(プロレス技)」で撃退します。
そんな八田のもとに、雇い主である企業「セントポールズアシスタンス」から一本の電話がかかってきます。
内容はミャンマーに工場を出す日本企業からの依頼で、地元住民のデモを解消してして欲しいというもの。
準備のため、一週間でミャンマー語や現地の歴史、宗教、政治などあらゆる情報を詰め込む八田。
ミャンマーに飛んだ八田が見たものは、環境破壊の恐れがあるとして工場の撤退を求めて座り込みを行う、現地工場の元従業員たちの姿でした。
しかし、工場はきちんとした環境基準をクリアしており、従業員たちに支払っていた賃金水準も良く、トラブルになるような要素はありません。
不審に思った八田が調べてみると、その原因は縄張りの違う「カレン族」が「シャン族」中心の村の工場で働きだしたことによる民族紛争でした。
元従業員たちは「カレン族」をこの村で働かせることはトラブルの原因だと社長に訴えていたのですが、民族問題に疎い日本人の社長は「同じ社員で同じミャンマー人なのだから、いずれ理解し合えるはずだ」と取り合わなかったそうです。
(民族紛争の根深さは、日本人には正直ピンと来ないものがありますね)
事情を把握した八田は事情を社長に説明しますが、社長はそのあたりの民族の違いの感覚が理解できないだけでなく、会社の技術を身に着けた「カレン族」という人材が失われることを嫌い、話を聞き入れてくれません。
その間にも「カレン族」と「シャン族」のトラブルはますます激化してきます。
そしてその中で判明する、ミャンマー民主化の影響。
実は「カレン族」は、ミャンマー民主化の影響で国内の最低賃金が上昇し、外国企業が撤退したことで職を失い、「シャン族」の縄張りに入り込んできていたのです。
そうした裏の事情まで正確に理解した八田は、問題解決のため大胆な提案を行います。
その提案とは、工場を「カレン族」の縄張りに移転するというもの。
移転コストはかかりますが、これにより紛争は解消され、会社も従業員の教育にかかったコストを損なわずに済みます。
そして「シャン族」には現地での営業部門を担わせることにしたのです。
いや、実にダイナミックな解決方法ですね。
ミャンマーでの民族紛争を解決した八田は、新たな紛争解決のために、再び世界を飛び回ることとなるのです。
「紛争でしたら八田まで」、八田百合ってどんな奴?
地政学リスクコンサルタント、八田百合
八田 百合(はちた ゆり)
本作の主人公で、「チセイ」を武器に世界各地で紛争解決屋を営む美女。
正式にはセントポールズアシスタンスという企業契約する地政学コンサルタント。
国際情勢に堪能なだけでなく、ミャンマー語を僅か1週間でマスターするなど、並外れた知性の持ち主。
また荒事にも慣れており、作中では銃を持った相手に得意のプロレス技で対抗している。
一方で、銃器の扱いは全く不得意であり、当たる当たらない以前に、普通に構えているだけで落としてしまうぐらい下手くそ。
美女には間違いないが、作中では「ビッチ」呼ばわりされることが定番となっている。
一応、「ビッチ」ではないので、本人は「ビッチ」呼ばわりされると普通にキレる。
また、美人ではあるが寝るときに目が開いていたり根本的に色気がないので、男の気配はない。
世界各地を訪れては、よく分からない現地料理を依頼前にもきゅもきゅと食すという、グルメ好きの女性らしい一面もある。
妹がいて、八田は重度のシスコン。
人から受け継いだ広大な土地があり、そこに自分の国を作るために危険な仕事を受けてお金を貯めようとしているらしい。
地政学ってそもそもなんなの?(詳しくはwikiを読んでね)
さて、八田の職業でもある地政学リスクコンサルタントですが、そもそも地政学ってなんなの、というところから。
要は「地理的な環境が国家に与える政治的、軍事的、経済的な影響を、巨視的な視点で研究する学問」らしく、歴史学、政治学、地理学、経済学、軍事学、文化学、文明、宗教学、哲学などの様々な見地、知識が不可欠な学問だそうです。
非常に分かりにくいのですが、つまり国や民族の成り立ちや抱えている問題を、多面的な観点から正確に把握する、学問ということなんでしょうね。
例えば日本だったら、その島国という閉鎖的な環境から、外敵の脅威に鈍感で宗教的な影響力が小さいとか、そういうことなんじゃないかな、と。
何て言うか、国際感覚に疎い日本人には特に苦手な分野ですね。
「紛争でしたら八田まで」の感想と評価
読んでいて新しい視点や考え方が発見でき、自分の中の価値観が広がるような感覚を覚える作品です。
もちろん、文句なしに面白い。
でもそれだけじゃなくて、学びの楽しさを再発見させてくれるような魅力があるんです。
テーマ的にどうしても難しい内容とはなりますが、画やキャラクターが非常にポップなので、読んでいて堅苦しさを全く感じない点も良いですね。
紛争ということで、人が争うシーンもありますが、グロい描写はないのでそこは安心してください。
紛争と、それにまつわる事情が知れるだけでも面白いですし、それを八田という堂々たる女性が解決していく様はスカッとしてなお良いです。
実際はそんな簡単に解決するような問題ではないのでしょうが、それでも八田なら解決してしまうのかも、と思ってしまえる魅力が、彼女にはあるんですよね。
まずは実際に手に取って、読んでみてください。
男女年齢を問わず引き込まれる名作だと思います。
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