今回は「闇金ウシジマくん」の作者・真鍋昌平先生が「ビッグコミックスピリッツ」で連載中のリーガルサスペンス「九条の大罪」について紹介します。
この作品は、法律と道徳を分けて考え、半グレやヤクザを中心に依頼を受ける弁護士・九条の視点で人間の葛藤や心の揺れ動きを描いた物語。
闇金業者の視点から物語を描くことに限界を感じた真鍋先生が、足かけ5年の取材を経て世に送り出した大作です。
本記事ではそのあらすじや登場人物の紹介を交え、その魅力を解説してまいります。
「九条の大罪」あらすじ(ネタバレ注意)
片足の値段
法律と道徳は別物。
道徳上許しがたいことでも、依頼者を擁護するのが弁護士の使命。
この物語の主人公は、半グレやヤクザなど厄介な人間ばかりを相手にする弁護士・九条間人。
そんな彼の元には今日も腐った依頼人がやってきます。
依頼人は飲酒運転の上、運転中にスマホゲームをしていて人を轢いてしまったクズ男。
事故の隠ぺいをしようとしていましたが、知人に隠しきれないと忠告され、九条を紹介されました。
話を聞いた九条は冷静に飲酒とゲームの証拠を抹消し、余計なことは一切喋らないよう指示した上で男を出頭させます。
その結果、懲役10年の可能性があった事件で、見事執行猶予付きの判決を勝ち取った九条。
しかしその裏で、事故の被害者は悲惨なものでした。
轢かれたのは35歳の父親と5歳の息子の2人。
父親は死亡し、息子は左足切断。
しかも親子は弁護士をつけていなかったため保険会社にいいように言いくるめられ、7000万円はとれる保険金を1000万円そこそこで受理してしまっていました。
執行猶予付きの判決を聞いて呑気に喜ぶクズ男と憤怒の表情を浮かべる被害者の妻。
しかしそんな彼らを見ても、九条は「思想信条がないのが弁護士だ」と顔色一つ変えていませんでした。
弱者の一分
軽度の知的障害を持つ青年・曽我部は、金本という半グレの男にずっと支配され、利用されていました。
かつては金本の犯した強盗致傷の罪を被せられ、懲役5年の実刑判決を受けて刑務所にはいっていたこともあります。
今も金本の指示で麻薬の配達や保管をさせられ、いいように使われていました。
ある日、曽我部の部屋にガサ入れがあり、曽我部と金本は麻薬の所持で捕まってしまいます。
そこで2人の上役から弁護を頼まれたのが九条。
九条は前科者で実刑を免れない曽我部に全ての罪を被らせ、その上で罪の軽い単純所持(営利目的の方が罪が重い)とすることで事態を決着させます。
立場の弱い曽我部に全てを押し付け、釈放された金本。
しかしそんな金本も、安全な刑務所の中から行った曽我部の密告によりヤクザから裏切りを疑われ、上役に処分されることになります。
すべてを俯瞰する九条は「法律の世話はできるが、人生の面倒は見られない」と平常運転でした。
「九条の大罪」主な登場人物(ネタバレ注意)
九条 間人(くじょう たいざ)
本作の主人公。
弁護士だが、依頼人を善悪や貴賤で選別しないため、結果的に半グレやヤクザ、前科者など訳アリの弁護ばかりを行うことになり、悪徳弁護士として叩かれている。
弁護士としては極めて有能。
道徳と法律は別物と割り切り、依頼人がどんなクズでも、その利益が最大となるよう行動する。
非常にマイペースかつ冷静で、どんな状況でも取り乱すことがない。
相応に稼いでいるはずだが、別れた妻に全財産を分与し(揉めるのをめんどくさがった)、子供の養育費を支払っているため生活に余裕がない。
知人から家賃1万円で借りたビルの屋上の部屋があまりに生活環境が悪いため、結局屋上でテント暮らしをしている。
烏丸 真司(からすま しんじ)
九条の法律事務所で働くイソ弁(居候弁護士)。
まだ若く、クールなイケメン(風)。
九条の弁護方針に異を唱えることはないが、九条ほど割り切れてはいないようで、クズな依頼人に対しては時折毒を吐くことがある。
実は東大法学部を主席卒業した天才で、かつては四大ローファームの東村ゆうひ法律事務所に勤めていたが1年も経たず辞めている。
九条法律事務所で働いている理由は「九条先生面白いから」。
壬生 憲剛(みぶ けんご)
有力な半グレのリーダーで、表向きは自動車整備工場を経営している青年。
九条の有力なクライアントの一人で、九条とは「先生」「壬生くん」と呼び合う仲。
上には伏見組が付いており、主にその汚れ仕事を請け負っている。
背中にはびっしりタトゥーが刻まれており、中心に描かれているのはかつての愛犬「おもち(=パグ)」。
非常にクールで合理的。
九条に対しては一目置いており、非常に礼儀正しい。
ただし裏切りや失態には容赦がなく、躊躇いなく人を処分する。
「九条の大罪」感想&評価
残酷で悲惨……けれど読まずにいられない麻薬のような作品
第一印象は残酷で悲惨なクソのような物語。
けれど何故か目が離せず、読まずにはいられない麻薬のような作品です。
法律は、少なくとも建前の上では弱い立場の人を守るためにあるわけですが、この「九条の大罪」ではまるで真逆。
法律を上手く扱えるものが利益を得て、そうでない弱い立場の人間にはそのしわ寄せが行くことになります。
漫画なので大げさに表現されているのだろうと思う一方で、これがこの国の実態なのかもしれないとゾッとすることも。
その残酷さと悲惨さに思わずウッとくることもありますが、そこに生きる剥き出しの人の在り方や葛藤は人を惹きつけずにはいられない。
「九条の大罪」とはまさしく「人間」を描いた作品です。
こんな人におススメ
こういう世界・人間もいるのかもしれない、フィクションと割り切れる方であれば、男女問わずおススメできる作品です。
主人公の九条は決して悪人ではありませんが、弁護をする上で全く道徳や善悪に頓着しないため、感情移入し過ぎてしまうタイプの方は、嫌悪感を感じることもあるかもしれないので注意が必要です。
「闇金ウシジマくん」が大丈夫だった方であれば、まず間違いなく大丈夫でしょう。
こういうことを書くと反発があるかもしれませんが、個人的には未成年には読んでほしくない内容ですね。
個人差はありますし、未成年という括りが適切でないのは分かっているんですが、若い感受性豊かな方がこうした剥き出しの人間模様を読むことは……なんと言うか「怖さ」があります。
紹介しておいて矛盾しているかもしれませんが、ある程度作品と距離を取れる方にこそ読んでほしい作品です。
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