「ペリリュー 楽園のゲルニカ」感想(ネタバレ注意)~太平洋戦争のリアルを描いた名作、完結と同時にアニメ化が決定!~


 今回は2016年から約5年に渡って「ヤングアニマル」で連載され、とうとう完結した傑作戦争漫画「ペリリュー 楽園のゲルニカ」について紹介したいと思います。

 この作品は太平洋戦争末期、実際に日本軍とアメリカ軍とで苛烈な戦いが繰り広げられた南国の島ペリリュー島(現パラオ共和国)で起こった出来事を、田丸一等兵という架空の人物の目線で描いた物語です。

 デフォルメされたかわいい作風でありながら、正面から戦争のリアルを描いたこの作品の魅力について、若干のネタバレやアニメ化などに触れつつ語っていきたいと思います。

「ペリリュー 楽園のゲルニカ」あらすじと背景(ネタバレ注意)

あらすじ(ネタバレ注意)

 終戦間近の昭和19年夏、南国のペリリュー島に、本作の主人公であり漫画家志望の田丸一等兵はいました。

 ペリリュー島には約1万人の日本兵が駐留していましたが、この島をフィリピン攻略の足掛かりとすべく約4万人もの米国兵が攻めよせてきます。

 物語冒頭では、サンゴ礁に囲まれた美しい景色の中、どこか間の抜けた田丸一等兵が塹壕を掘っているのですが、いざ戦いとなるとその和やかな空気は一変。

 日本兵はあっと言う間に追い詰められ、守備隊本部は米軍に突撃して玉砕してしまうのです。

 その事実を知らぬまま、残された田丸一等兵らは何とか生き延び、米軍の食料を奪取して立て直しを図ろうとしますが、劣勢は変わらず、とうとう終戦の日が訪れます。

 終戦から一年以上が経過して、潜伏していた田丸一等兵らは米軍の新聞などからようやく終戦の事実を悟ります。

 そして田丸一等兵と仲間の吉敷上等兵は、事実を確かめるため、病気の仲間を救うため米軍への投降を決意するのですが、仲間に見つかり監禁されてしまいます。

 潜伏していた日本兵をまとめていた島田少尉は、日本人が笑顔でアメリカ人と写真に写っている新聞は偽物だと、終戦を信じようとはしなかったのです。

 終戦を確信した田丸一等兵と吉敷上等兵は投降を諦めず、脱走を図りますが、吉敷上等兵はその途上で味方の筈の日本兵に撃たれ……

 時は流れ現代。最終巻では無事に生還した田丸の孫が当時のことを漫画で描こうと、当時を知る人々に取材をしている様子、そして田丸の最期が描かれ、エピローグを迎えています。

作品の背景・モデル(フィクションだが実話がモデル、タイトルの由来)

 大前提として、この作品は史実を基にしたフィクションです。

 作者の武田先生は元々戦争には詳しくなく、2015年の天皇陛下によるペリリュー島慰霊訪問のニュースを見て初めてペリリュー島について知りました。
 そして白泉社の戦争作品の特集を切っ掛けに読み切り漫画を描くのですが、これがこの作品の原型。

 その後、武田先生がペリリュー島に興味を持ち、自ら希望して連載が始まりました。

 当時を知る方々のこの作品に対する反応は様々で、好意的な方もおられれば、

「戦争を体験していないあなたがなぜ戦争を描けるのか」
「漫画というのは軽いと思う」

 と否定的な方もおられました(最終巻(11巻)の当時を知る方々への取材の様子でも、こうしたリアルな反応が描かれています)。

 武田先生本人も、インタビューに対し「戦争作品を書くこと自体が不遜ではないかとの想いはある」との考えを隠すことなく吐露しておられました。

 ちなみに、サブタイトルである「楽園のゲルニカ」は、戦争の悲惨さを描いたピカソのゲルニカが絵的に戦争を想起させるものとしてつけられたそうです。


「ペリリュー 楽園のゲルニカ」主な登場人物(ネタバレ注意)

田丸均一等兵

 本作の主人公であり、(物語当初)21歳の漫画家志望の青年

 外見はメガネをかけた朴訥そうな男で、色んなことに一喜一憂しあたふたしている。

 実家は食堂を営んでおり、戦争に来る前は一度だけ雑誌に漫画が載ったこともある。

 非常にどんくさく、戦闘開始前は塹壕堀り、荷運びと担当をたらい回しにされ、最後は漫画家の経験を見込まれて戦死者の最期を脚色して伝える功績係に任命されていた。

 臆病ではあるが、いざという時は人のために動ける男で、大切な親友となった吉敷を庇って囮となったこともある。

 終戦後は、吉敷の妹と結婚している。

吉敷佳助上等兵

 本作のもう一人の主人公であり、田丸の相棒となる青年。

 田丸の同期だが、優秀だったため同期の中で一人だけ上等兵に抜擢されている。

 実家は米農家で、母と妹がいる。父親は心臓病で亡くなっており、妹は父親と同じで心臓に病気がある。

 非常に勇敢で優秀な男ではあるが、戦いには向かない繊細なところがあり、瀕死の米兵に同情して吐くような場面もあった。

 生きて故郷に帰りたいと強く願っており、田丸とともに投降を試みる。

 恐らく、作中で最も読者の心を掴んだ男。

島田洋平少尉

 田丸たち第2小隊の隊長で(物語当初)22歳の青年。

 非常に優秀で頼れる模範的な上官。

 軍人一家に生まれ、出征前に親が連れてきた嫁と結婚している。

 情に厚く仲間の死の上に生き延びていることを恥じながら、それを無駄にしないためにと忠実に命令を遂行する。

 本部陥落後は残った仲間を束ね、米軍基地を襲撃して食料を奪って潜伏を続ける。

 終戦が書かれた新聞を見ても、祖国が破れて国民がこんな笑顔を浮かべているものかと、敵の策略だと断定して信じなかった(それが本心だったかは不明)。

 その結果、投降を試みる田丸たちと対立することになってしまう。

小杉伍長

 田丸たちと同じ部隊の副分隊長で、20代の青年。

 メガネと顎髭が特徴の飄々とした態度の男で、常に冷静かつ上手に立ち回ろうとする。

 生き延びることを第一に考え、逃げ出したり食料を持ち逃げしたりと色々やらかす。

 一方で、怪我をした田丸と吉敷を助けたり、投降をすすめたりと、色々手助けもしてくれる。

 最終的には監禁された田丸と吉敷の脱走を助け……

 故郷に妻がおり、一人息子は既に亡くなっている。


「ペリリュー 楽園のゲルニカ」感想

メッセージ性を敢えて排除した戦争漫画、最終巻・最終回ではその想いが滲む

 こうした戦争ものの作品は、往々にして作者のメッセージや感想、安易な戦争反対が語られがちなのですが、「ペリリュー 楽園のゲルニカ」は、そうしたメッセージ性を排し、取材した内容を忠実に漫画に落とし込んだ作品と言えます。

「話を聞けば体験していなくても描けるとお考えですか?」

 最終巻で、当時を知る方々にインタビューしている際、告げられた言葉がこれです。

 当時の方々に畏敬を払い、自分の主観やフィルターで内容を歪めてしまうことがないよう最大限の注意を払いながら書かれた作品。

 「ペリリュー 楽園のゲルニカ」からは、そんな誠実な武田先生の人柄と想いが伝わってきます。

 誰が良いとか悪いとか、戦争がどうだとか一言では語れない。

 私もとてもこの文章だけで魅力を伝えられませんし、それではもったいないと感じる作品です。

 是非是非実際にその目でご一読を。

アニメ化はどうなる? どこまで表現できるのか……

 完結と同時にアニメ化が発表された本作ですが、現時点でその時期や内容については一切わかっておりません。

 放送は早くとも2022年以降でしょうから、今後の発表を楽しみに待つことにしましょう。

 本記事も、情報が入り次第随時更新してまいります。

 ……というか、単純な戦争のグロ描写もそうだけど、この作品をアニメ化するとなると、あの集団〇慰シーンとかどうなるんだ?

 流石にカットされるだろうけど……



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