今回は、ドラマ化された「テセウスの船」の作者でもある東元俊哉先生の新作「プラタナスの実」について紹介したいと思います。
プラタナスの実は風変わりな小児科医、鈴懸真心(すずかけ まこ)が、子供たちとその親、小児医療に関わる人々にそっと寄り添う物語です。
過酷な小児医療の現場をリアルに、様々な人物の視点から描いており、思わずほろりとしてしまう作品ですので、読む前に是非ハンカチのご準備を。
プラタナスの実のあらすじ(ネタバレ注意)
物語の主人公は理化学研究所に所属する小児科医にして売れないユーチューバーという風変わりな青年、鈴懸真心(すずかけ まこ)。
第一話は彼がバイトをする病院の小児科から始まります(ちなみに鈴懸は、画では分かりづらいですがしっかり男です)。
子供たちの病気は診断が難しく、一人当たりの負担もとても重い過酷な現場。そんな中、ゆっくりと一人一人子供たちと向き合っていく鈴懸に、疲弊した同僚医師は愚痴をもらします。
モンスターペアレンツ、診療報酬低下、少子化、病院内での小児科の肩身の狭さ。
「子供は好き」だけどそれだけでやっていくには「小児科医は心のコスパが悪い」。
同僚は善良な人間ですが、ただそれだけでやっていくには過酷な小児医療の実情がここで吐露されています(愚痴を言われた鈴懸は自分のユーチューブに夢中で話を聞いていませんでしたが)。
そんな同僚が問題ないと診断した子供とその母親。鈴懸は偶然その子供が体調を悪くしている場面に出くわします。
鈴懸はその子供の本当の病気を見抜き、子供の危機を救うのですが、この作品の素晴らしいところはここからでした。
子供の異状を見抜けなかったと悔やむ母親に、鈴懸は彼女が仕事や子育てで忙しい中でもちゃんと子供と向き合って子供の症状を記録していたからこそ病気を見抜けたのだと告げます。
母親の大変さ、その中で精一杯子供と向き合っていた努力を、鈴懸はきちんと認めます。
そして子供を誤診して謝罪する同僚に、鈴懸は何も言いませんでした。
ミスを仕方ないと認めるわけではありません。ただ、本当に精一杯やって、きちんと反省している人間を責めるようなことはしませんでした。
そして物語は春。鈴懸が所属する理化学研究所との契約が切れ、故郷の父親からの手紙を切っ掛けに舞台は北海道北広島市に移ります。
新しく設立する小児科で働かないかという父の誘いに答えを出せないまま、母の墓参りに帰郷する鈴懸。
父親はかつて不採算だという理由で母親が勤めていた小児科を潰した過去があり、鈴懸とは絶縁状態にありました。
そんな父親が何故、今更小児科を設立しようというのか鈴懸は困惑します。
しかしあるピアニストの少女と出会った鈴懸は、それを切っ掛けに疎遠だった父親とともに、故郷の北海道北広島市を舞台に小児科医を営んでいくこととなります。
(攻撃的な社会の中で、こういう作品は本当に癒されますね……)
プラタナスの実、タイトルの意味と感想
タイトルになっている「プラタナス」とは作中でも冒頭で語られていますが、古代ギリシャの医師ヒポクラテスがその木の下で弟子に医学を教えたことに由来しているそうです。
他にもプラタナスの花言葉は「天才」「好奇心」などですから、小児医療漫画のタイトルとしてはピッタリかもしれませんね(和名は主人公の名字の「鈴懸」の木というのもあります)。
さて、この物語の主人公の鈴懸は、風変わりな独特のキャラクターをしていますが、これはある意味医療漫画の定番ですから、特に珍しいことではありません。強いて言うならユーチューバーとしての人気の無さに笑ってしまうぐらいでしょうか(登録者数22人って何?)。
この作品の特徴は、医療現場だけでなく、それぞれの立場、それぞれの事情にきちんと向き合い、スポットを当てているところでしょう。
誰かを悪者にするのではない、一人一人に寄り添う主人公の在り方こそが、この作品の最大の魅力なのだと感じました。
疎遠だった父親や兄との関係性も含めて、今後が非常に楽しみな作品です(ドラマ化するかな?)。
ちなみに私、北広島市をずっと広島県だと思ってました。広島県にあるのは北広島「町」ですよね。広島なのに北海道って……いえ、脱線しました。
プラタナスの実はこんな人におすすめ
作者が非常に丁寧に医療現場を取材した作品ですので、医療関係者の方には当然おすすめです。きっと共感する部分があるんじゃないでしょうか。
また、小さなお子さんを持つ親御さんにも是非読んで頂きたいですね。
自分のことを上手く伝えられないお子さんの心情とか、ホロリときちゃうはずです。
あとは……少し心がささくれだっているな、と感じる疲れた方。
一生懸命頑張っているのに上手く行かない、分かってもらえない、そんな方にも読んでいただきたい。きっと伝わるものがあると思います。
多分、この作品もストックが溜まったらドラマ化されるんだろうな~。
今から楽しみです。
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