「リアデイルの大地にて」~アニメ化を受けて、本作の『水車事件』から『なろう系』を語ってみる~


 今回は、小説家になろう発「リアデイルの大地にて」が書籍化、漫画化を経てとうとうアニメ化が決定したことを受け、紹介記事を書かせていただきたいと思います。

 まず最初にお断りしておくと、小説家になろう発の作品は一般に「なろう系」と呼ばれ、従来のライトノベルと比べて一段下に見られることが多いですが、筆者にそのような意識はありません。
 何故なら筆者自身も、なろうに投稿していた経験があるからです。

 しかし本作では、漫画化の際に「水車事件」という痛ましい事件が発生してしまい、「なろう系」はこれだから、と言う人がいるのも事実。

 今回は、なろう系作品の抱える課題と魅力を、「リアデイルの大地にて」の紹介を通じて語らせていただこうと思います。

「リアデイルの大地にて」のあらすじ(若干ネタバレ注意)

 事故で寝たきりとなっていた少女、各務桂菜はVRMMORPG「リアデイル」のトッププレイヤー。

 ある日彼女が目を覚ますと、そこは病室ではなく異世界。自分がプレイしていたリアデイルの200年後の世界でした。
 そして自分自身はリアデイルでのアバター「ケーナ」となっています。

 ログアウトもできず、ケーナとして過ごす日々。やがて彼女は、サポートAIから各務桂菜が死亡したという事実を告げられます

 しばし落ち込んでいたケーナですが立ち直り、各地を旅してまわることとなります。その旅の中で数々の騒動を引き起こしながら。

※なろうで定番となった「異世界転生」「VRMMO」ものの先駆け
 最強要素も踏まえた、一昔前のスタンダードな「なろう系」と言えるでしょう。

 最近流行りの「ざまぁ」要素はないので、それが苦手な方でも大丈夫なスタンダードなファンタジーですね。


「リアデイルの大地にて」の主な登場人物

ケーナ(各務桂菜)
主人公。元は半身不随で「リアデイル」のトッププレイヤーだった少女。
アバターは、ハイエルフの可憐な少女。通常のキャラクターのLV限界は1,000だが、ケーナは特殊クエストを経てLV1,100となっており、ゲーム内でも隔絶した存在だった。
ちなみに『銀環の魔女』という痛々しい二つ名を持つ。
作中では、転生したものの、特に目的らしい目的もなくふらふらと各地を旅している。
未婚だが、ゲーム中の「里子システム(注)」で3人の子供を持つ

(注)里子システムとは、サブアカウントなどで作成されたものの、プレイされることのなくなったアバターを他プレイヤーが引き取り、活用するシステム。

<3人の里子>

スカルゴ
長男として扱われるエルフ。大司祭を務めており、とてつもないマザコン

マイマイ
長女として扱われるエルフ。王立学園の校長を務めており、既婚者。
スカルゴほどではないがやはりマザコン

カータツ
次男として扱われるドワーフ。ドワーフらしく職人で、3人の中では一番まとも。
しかしやはりマザコン

 基本的に、序盤は常識がないケーナと、ケーナが関わると比較的常識のない里子3人が中心となって物語が繰り広げられます。
 ケーナの場合、この世界の常識がないだけでなく、単純に常識がない部分も散見されますので、そこはあまり突っ込まずにスルーするのが吉です。

 ちなみに、里子たちはケーナが200年間ケーナが持つ塔に引きこもっていたと思っている様子。
 200年の引きこもりって……種族的にはおかしくないんでしょうが、豪快な設定だなぁ。


「リアデイルの大地にて」の感想と「なろう系」

水車事件とは?

 水車事件とは、この作品を一躍有名にした革新的なデザインの水車に端を発する事件です。

 ケーナは井戸での水くみに難儀する少女を見かねて、ある意味画期的な装置を開発します。
 その結果が「井戸の真上に水車を設置して水を汲む」というシュールな光景。

 ……ええ、なろう系によくある、現代知識によるイノベーション的なものだったのでしょう。
 小説版では実際のイメージがわかずスルーされていましたが、漫画で画になるとその意味不明さに読者から総ツッコミが。

 慌てて修正がかけられましたが、それでも丸い水車がキャタピラー式になっただけで、本質的な改善にはなっていないという。
(文字で説明しても伝わらないと思いますので、是非ご一読を!)

 普通に手押しポンプでいいじゃん
 誰もがそう思ったことでしょうが、既に小説版では水車と書かれており、今更変更できない。
 漫画家の方の苦労が偲ばれますね……

「なろう系」の問題と本作の魅力

 「なろう系」作品にはこのような矛盾や問題が残されたまま書籍化されることがしばしばあります(某8男貴族で、騎士に継承権と領地が認められていることとか)。しかし、だからと言って「なろう系」作品のレベルが低い訳ではありません。

 「なろう系」は元々ネット小説。短い時間で気軽に楽しめる作品が求められており、細かな設定よりも物語全体の面白さ、勢いが重視されます。
 本来であれば書籍化されるタイミングで出版社がきちんとチェックして、書籍にあった形で再構成すべきなのですが、「なろう系」は消耗品のように扱われることが多く、売れなければ即打ち切りの憂き目にあうだけ。チェック体制も正直ずさんです。

 できれば出版社も、もう少し作家を長い目で育てていただけるとなぁ……

 本作は、様々なハードルを乗り越えて無事にアニメ化まで到達しました。
 決して斬新な設定があるわけではなく、可愛らしい少女が異世界で過ごす日々をストレスなく読者に楽しんでいただける、良い意味で「なろう系」らしい作品です。

 是非一度、先入観なく穏やかな気持ちで本作を手に取っていただければ。

 



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