「天国大魔境」感想&考察(ネタバレ注意)~楽園と崩壊した世界、二つの視点で描かれる謎に満ちたポストアポカリプス~


 今回は月刊アフタヌーンで連載中、崩壊した近未来の日本で生きる少年少女を描いたSF漫画「天国大魔境」について紹介します。

 この作品では、「このマンガがすごい!2019」でオトコ編第一位を獲得した期待作。
 外界から隔絶された謎の施設と、大災害により崩壊した近未来の日本、二つの物語が並行して描かれ、重なり合う、謎に満ちたSFミステリ作品となっております。

 まだまだ物語どころか世界の全容も見えていない状態ですが、その謎と魅力について考察していきましょう。

「天国大魔境」のあらすじ(ネタバレ注意)

天国編(side:トキオ)

 物語の舞台は、壁に囲まれた謎の施設。

 そこでは不思議な力を持つ少年少女たちが大人やロボットに監督されながら共同生活を送っています。

 主人公はそこに暮らす少女、トキオ

トキオはある日抜き打ちテストの問題に「外の外に行きたいですか?」という謎の質問を見つけ、困惑します。

 そして予知能力を持つ少女、ミミヒメの言葉を聞き、外の世界に興味を持つようになります。

「僕が外に出たいなーと思っていると、外から二人の人が来て僕を助けてくれるの」
「その一人の顔が、トキオにそっくりなんだ」

 トキオは園長先生に外の世界のことを聞くのですが、

「外の世界はあさましい怪物がうごめく汚れた世界」
「地獄です」

 一見すると楽園のような施設。

 しかし、立ち入り禁止区域で育てられている「顔のない赤ん坊」、不思議な力を持つ子供たちと彼らを蝕む謎の病、死んだ子供たちの行く末と、次々に混沌とした事実が明らかとなっていきます。

 そして判明するトキオの妊娠

 この楽園の真実は、果たしてどこにあるのでしょうか。

魔境編(side:マル)

 もう一つの物語の舞台は、大災害により崩壊した2039年の日本

 文明は破壊され、生き残った人々は残存する施設を利用して細々と生活を送っていました。

 主人公はマルという「トキオと同じ顔をした」少年です。

「天国で同じ顔をした人間を探し、薬を打て」

 ミクラという女性から託された遺言に従って、マルはキルコというボディガードの少女と共に「天国」を探して旅をしていました

 しかし、「天国」という曖昧な言葉を頼りにした旅の行方はようとして知れず、崩壊した世界には人食い(ヒルコ)と呼ばれる怪物が跋扈しています。

 危険な旅の中で、次第に明らかとなっていくマルの能力とキルコの過去、そして天国の世界とのリンク。

 二つの物語は、やがて一つへと収束していきます。


「天国大魔境」の登場人物(ネタバレ注意)

天国編(side:トキオ)

トキオ
主人公の一人で、外界から隔絶された施設で暮らす少女。
外見は色素の薄い髪をショートカットと中性的な顔立ちが特徴。
一人称は「僕」で、言葉遣いもまんま男。
その男性的な名前と顔立ちから、ほとんどの読者が途中まで男だと思い込んでいた。
同じ施設のコナに好意を持っており、彼と男女の仲
後に妊娠が発覚する。

ミミヒメ
トキオと同じ施設で暮らす、のんびりとした雰囲気の少女。
勘が鋭く、不思議なビジョンを見ることができる上、予知能力を持つ。
髪で隠しているが、実は隠れ獣耳。
自分のヌード写真を自分に好意を持つシロに送り付けたりしている。

コナ
トキオと同じ施設で暮らす最年長の少年。
しばしば不思議な生き物の絵を描いており、それが後に魔境編で人食いとして登場する。
同期で自殺したとされているアスラに好意を持っていた。

タラオ
トキオと同じ施設で暮らす少年で、ミクラと同じ病気を患っている。
病気になる前は岩を投げ飛ばせるほど異常な怪力を持っていた。
トキオに「ここから逃げて」と告げた後、病死する。

アスラ
コナの同期生で故人。自殺したとされている。
生前の姿はどう見ても人間ではないが、誰も気にしていない。
予知能力や治癒能力、浮遊といった様々な力を持っていた。

魔境編(side:マル)

マル
もう一人の主人公で、トキオと同じ顔をした少年
ミクラにキルコと引き合わされ、キルコとともに「天国」を探して旅している。
武術の心得があるらしく、それなりに戦える。
マルタッチ(キルコ命名)と呼ばれる力を持ち、人食いの「致命的な何か」を握りつぶして倒すことができる。
キルコに好意を持っている。
絵ではよく分からないが、キルコ曰く「びっくりするぐらい美形」らしい。

キルコ
ミクラの依頼を受け、マルのボディーガードとして共に天国を探して旅をする便利屋の少女。
茶色の長い髪を持つ、マルよりやや年上の美少女。
ミクラの形見の銃を持ち、射撃やサバイバル能力に長ける。
ネーミングセンスが欠片もない。
一見すると普通の少女だが、実は脳手術により姉(竹早桐子)の身体に弟(竹早春希)の脳が移植されており、精神的には男。

ミクラ
マルに人食いを倒す能力を教え、キルコのもとに連れてきた女性。
「天国」を探すように遺言を残し、謎の病気で死亡した。

稲崎露敏
キルコが探している青年で、キルコ(というか竹早春希)と同じ孤児院で育ったリーダー的存在。
現在行方不明。災害で妹を亡くしているらしい。


「天国大魔境」の感想と考察(ネタバレ注意)

世界が崩壊した理由は天災?

 謎に満ち、世界観が複雑な「天国大魔境」ですが、そもそもこの世界が崩壊したのは2024年(マルたちが旅する世界の15年前)に起きた大災害によるものだと言われています。

 作中では今のところ大災害の詳細は明らかとなっていませんが、キルコの過去編にあった(大天災から10年)という記述から、戦争などではなく天災だとされているようです。

 とは言え、世界が崩壊するような天災って何なの、という疑問は残ったまま。

 あるいは、世界中の人が天災と思い込んでいるだけ、という可能性もあります。

 人食い(ヒルコ)の存在、天国編での儀式の存在を考えると、天災というより人災の可能性の方が高そうな気がしますね。

トキオとマルの関係は?(親子?) 二つの世界の時間軸は?

 そして物語の鍵を握る同じ顔を持つ二人の主人公、トキオとマルはいったいどんな関係なのでしょう。

 マルが人食い(ヒルコ)を倒す特別な力を持っていることを考えれば、マルも施設(高原学園)と何らか関係のある存在であるとは推察されますが、単に生き別れの双子というのは安直な気がします。

 そもそも、二つの世界は同じ時間軸に存在しているのでしょうか?

 外の世界が西暦2039年、施設が天栄17年であることは分かっていますが、この二つがイコールとは限りません。

 と言うより、敢えて違う表記を使っている以上、別の年代であることをぼかしている、と考えた方がいいでしょうね。

 個人的に一番可能性が高いと思っているのが、天国編は魔境編の過去であり大災害前の世界、マルはトキオの息子、というものですね。

 園長が施設の壁の外を「地獄」と言ったのは作者のミスリード。

予知夢は、将来息子であるマルが施設の人間を救いに訪れる、というものなのではないのかな、と。

分かりづらい性別、複雑な男と女、伏線……面白い!

 こうした複雑な二つの世界のリンクに加えて、この物語が秀逸だなと感じるのは分かりづらい登場人物たちの性別ですね。

 男のような名前と雰囲気を持った少女であるトキオ。

 女の身体と男の脳を持つキルコ。

 そんなキルコだからこそ、彼女に惹かれるマル。

 これが普通の少年少女なら単なる恋模様で終わってしまうのでしょうが、男女複雑な彼らだからこそ、それについて読者が思考し、想像し、没入してしまう。

 ちょうどバランス良く作中に伏線が散りばめられていることも含め、読者が物語にのめりこめりやすい絶妙な作品と言えるでしょうね。

 正直、この物語をただ言葉で説明するのは勿体ないとさえ思っています。

 是非、ご一読を! 決して読んで損のない作品です!



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