「図書館の大魔術師」感想&評価(ネタバレ注意)~壮大なビブリオファンタジー、打ち切りが心配されたその理由など~


 今回は「good!アフタヌーン」で連載中の壮大な異世界ビブリオファンタジー「図書館の大魔術師」について紹介します。

 「図書館の大魔術師」は書物が特別な力を持つ世界で、混血で迫害されていた主人公の少年・シオが、全ての本が存在するとされる中央図書館の司書(カフナ)を目指し、成長していく物語。

 登場人物一人一人の言葉や振る舞いに深い意味があり、非常に緻密に世界観が構築された上質なファンタジーストーリーとなっています。

「図書館の大魔術師」のあらすじ(ネタバレ注意)

あらすじ(第1章・1巻~3巻部分)

 「書」が何より重要とされる世界。

 アムン村に住む混血児の少年はシオは、その耳の長い特異な外見によって周囲から迫害されていました。

 シオの心のよりどころは優しい姉のセドナと森に棲む獣の友人、そして本。

 しかしシオは混血を理由に差別され、図書館にも入れてもらうことができません。

 そんなシオの前に表れたのは本の都アフツァックから訪れた「書」を守る4人の司書(カフナ)。

 その司書の1人、セドナと親しくなったシオは、セドナの言葉に感銘を受け、自分も物語の主人公になろうと決意します。
 そして魔術書の暴走からセドナの大切な書を守ったシオは7年後、司書(カフナ)を目指して村を旅立つこととなるのです。

 同じく司書を目指すミホナやアルフ、不思議な小動物のウイラと出会いながら本の都アフツァックに辿り着いたシオ。

 司書試験でシオは一次の筆記、二次の面接を突破し、三次の実技試験へ。

 実技試験の課題はナチカ、オウガという少女たちとある本の素性を突き止めろというものでしたが、シオたちは協力して見事に本の素性を突き止めます。

 後日、いったん村に戻っていたシオのもとに司書試験の合格通知が届きました。

 シオは姉セドナに見送られ、司書としての一歩を踏み出すこととなるのです。

用語解説(カフナ、中央図書館、種族、七人の魔術師、黒の書)

カフナ
本の都アフツァックの中央図書館の司書を指す言葉。
「英知の専門家」という意味を持つ。
物語の舞台であるアトラトナン大陸は男尊女卑の思想が根強く、司書は女性が就ける数少ない職業であるため、男女比は1:9と圧倒的に女性が多い。

中央図書館
アフツァックに存在する巨大な図書館で、書を貸し出すだけでなく、あらゆる書を保管し、守り抜くことを使命とする。

種族
ヒューロン族、ラコタ族、ホピ族、カドー族、ココパ族、クリーク族、セラーノ族の七種族が存在し、ヒューロン族が最も数が多く、勢力が大きい。

七人の魔術師
かつて「ニガヨモギの使者」と呼ばれる災厄を退けた偉大な魔術師。
七種族から一人ずつが参加しており、何人かはまだ存命している。
「理の大魔術師」と呼ばれたホピ族の魔術師だけは戦いの中で殉職している。

魔術書
魔術師の魔力を閉じ込めた特別な力を持つ本。
危険なため製造が禁止され、中央図書館が回収を行っている。

黒の書
民族大戦争という争いを引き起こした本で、何の力もない普通の書物。
しかしその内容がヒューロン族によるホピ族の虐殺を引き起こした。


「図書館の大魔術師」の主な登場人物(ネタバレ注意)

シオ=フミス

 本作の主人公。

 ホピ族とヒューロン族の混血の少年で、ホピ族の特徴である長い耳を持ち、迫害されていた。

 アムン村では学校に通いながら石工として働き、13歳の時に司書を夢見て司書試験に挑む。

 体力と身体能力に優れ、水のマナを大量にため込む魔術師として高い素質を持つが、今のところ魔術師としての技術は持っていない

ティファ=フミス

 シオの9歳年上の姉でヒューロン族。

 彼女が9歳の時、シオを連れて旅路の果てにアムン村に辿り着いた。

 村では混血を育てる変人として扱われているが、惜しみない愛情をシオに注ぐ。

 ティファとシオの両親やシオとの血縁、関係については今のところ不明。

サキヤ=メネス

 シオの一歳年上の幼馴染の少女。

 シオに想いを寄せ、迫害されているシオのために、こっそり本を貸していた。

オセ=メネス

 サキヤの父親でアムン村の図書館の館長。

 名誉欲が強く、シオを差別して図書館への入館を禁じていた。

 悪人というわけではなく、娘のサキヤを溺愛している。

セドナ=ブルゥ

 シオが6歳の時に村を訪れた4人のカフカの一人。

 シオの11歳年上のラコタ族の男性で、「風の魔術師」と呼ばれる守護室期待の新人。

 振舞いこそがその人物を形作ると、常に芝居がかった仕草を好んで行う変人で、シオが司書を目指す切っ掛けを作る。

アンズ=カヴィシマフ

 シオが6歳の時に村を訪れた4人のカフカの一人。

 シオより27歳年上の女性で6児の母。

 遠征隊のリーダーで普段は穏やかで優しいが、怒らせると非常に怖い。ほんとに。

ピピリ=ピルベリィ

 シオが6歳の時に村を訪れた4人のカフカの一人。

 シオより16歳年上のココパ族(特徴として、身体が妖精のように小さく羽がある)の女性。

 修復室所属で修復技術は非常に高い。

ナナコ=ワトル

 シオが6歳の時に村を訪れた4人のカフカの一人。

 シオより11歳年上の女性で本への愛情は極めて強い。

 その反面、対人関係は非常に不愛想。

ミホナ=クォアハウ

 シオと同い年のヒューロン族の少女。

 カフナを目指しており、シオとともにアフツァックへ旅する。

 頭は良いが見栄っ張りで天然気味。

アルフ=トラロケ

 シオ=フミスと同い年の少年。

 カフナを目指しており、シオとともにアフツァックへ旅する。

 背が低く子供に見られることが多いが、本人はまったくそれを気にしていないかのごとくふるまっている(が、実は密かに大きくなることを夢見ている)。

ナチカ=クアパン

 司書試験の三次試験でシオたちと同じ班になった少女。

 シオより2歳年上で高慢な性格の持ち主で、当初はシオとトラブルを起こしそうになる。

 非常に心配性。

オウガ

 司書試験の三次試験でシオたちと同じ班になった少女。

 クリーク族とヒューロン族の混血の少女でケモ耳。

 非常に明るく楽天的。

ウイラ

 シオが旅の途中で出会い、相棒としたフルアと呼ばれる希少な小動物。

 実は砂漠の魔術師によって獣の姿に変えられた存在。

 元の姿は女性で、シオに誑し込まれている。


「図書館の大魔術師」の感想と評価

とにかく世界観と人の描き方が緻密

 第一印象はとにかく壮大で緻密。

 凄いファンタジーが出てきたな、というのが感想です。

 オリジナリティのある世界観が非常に丁寧に描かれているのは勿論ですが、何より凄いのは登場人物一人一人の思想、背景の描き方。

 とかくこうしたお仕事ものの作品は作者の思想が物語に投影されがちで、登場人物の主観もそれに引きずられ易いのですが、「図書館の大魔術師」の登場人物はフラットで公平。

 一つ一つの行動に彼らなりの行動原理がきちんと存在し、何か問題提起がなされた時も、誰かが一方的に答えを決めつけて終わりではなく、多面的に問題をとらえようとしているのが見てとれます。

 また登場人物の見せ方も非常に上手いですね。

 物語序盤では主人公の名前は明かされず、ただ少年とだけ表記されているのですが、その名前が明かされるのは彼が主人公として生きることを選んだ瞬間。

 思わず物語に引き込まれてしまう演出が至る所に散りばめられた名作です。

打ち切りが心配されていた理由? アニメ化はされる?

 「図書館の大魔術師」を検索すると「打ち切り」のワードが至る所で散見されるのですが、調べて見た限り具体的な「打ち切り」の話はどこにも存在しません。

 もちろん、つまらないから打ち切れ、なんて話もないですね。

 打ち切りが心配されていた理由は、第二章に入って以降連載ペースが遅くなり、コミックス新刊の発売ペースが遅れたことから、ファンが心配して検索した、というのがその理由のようです。

 一方で気になるのはアニメ化。

 人気作ではありますし、ストーリーのストック的に1クールぐらいは十分作れそうなので、そろそろそんな話が出てきてもおかしくはありません。

 今のところ公式から発表はありませんが、これだけの作品ですから、どこかではアニメ化されるでしょうね。

 ……ただまぁ、非常に謎と伏線に満ちた作品なので、半端な形で区切ってアニメ化されると、独自解釈とかで後々原作と齟齬が出てくる恐れもあります。

 アニメ化はして欲しいんですが、個人的にはもう少し物語や世界観の全容が原作で描かれてからでもいいのかなぁ、と……(悩ましい!)。



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