「私の息子が異世界転生したっぽい」感想(原作ネタバレ注意)~タイトルからは想像できない展開、結末(その後)に泣ける~


 今回は「スピリッツ」でフルver.が連載中の話題作「私の息子が異世界転生したっぽい」について紹介したいと思います。

 もともとこの作品は「伝説のお母さん」などで知られる「かねもと」氏による自主製作漫画。

 それがSNSなどで爆発的な反響を呼び、「だから私はメイクする」で知られる「シバタヒカリ」氏作画で内容を膨らませフルver.として連載されています。

 タイトルだけ見ると”なろう系”にも思えますが、実際はとても切なくて泣ける内容となっています。

「私の息子が異世界転生したっぽい」あらすじ(ネタバレ注意)

息子を亡くした母親が「異世界転生」にすがり、受け入れるまでの鎮魂の物語

「だから電話でも言ったけど」
「わたしの息子が異世界転生したっぽいんだって」

 典型的なオタクで非リア充のサラリーマン・堂原智太(35歳)は、17年ぶりに会ったろくに話したこともない元同級生から第一声そう告げられます。

 意味不明なその言葉を発したのは葉山美央(35歳)。

 高校時代から美人で人気者、堂原とはまるで縁のなかった女性です。

 彼女から詳しく話を聞くと、葉山さんの息子の大我君(17歳)が数か月前交通事故で亡くなってしまったそうです。

 そして葉山さんは息子さんの本棚にあった異世界転生モノのラノベを読み漁り、こう思うようになりました。

「私の息子が異世界転生したっぽい」

 葉山さんはもう一度息子さんに会うため転生方法を探そうとしますが、彼女はそうした知識がありません。

 そんな時、高校時代、教室の隅でラノベを読み漁っていた堂原のことを思い出し、実家に連絡して堂原の連絡先を聞きだし、彼に異世界転生方法を見つけ出せと要求したのです。

 もちろん葉山さんも心から異世界転生を信じているわけではありません。

 ただ、突然の息子の死を受け入れられず、息子はきっと異世界に転生して幸せに暮らしていると信じたいのです。

 そんな葉山さんの言葉に戸惑いながらも、彼女に寄り添って異世界転生方法を探す堂原。

 これは一人の母親が息子の死を受け入れるための物語なのです。

番外編~その後、二人はコミケへ行く~

 非常に切なく、涙なしには読めない本編とは別に、原作ではその後の二人の後日談も描かれています。

 明らかに場違いな雰囲気の葉山さんが堂原とともにコミケに参加しており、本編とはまた違った雰囲気の内容となっています。

 ここでは物語のちょっとした休載が描かれており、番外編とはなっていますが、この番外編ありきの物語、という印象すら受けました。


「私の息子が異世界転生したっぽい」主な登場人物

堂原 智太(どうばら ともた)

 本作の主人公でラノベ好きのオタク会社員、35歳独身。

 メガネに無精ひげの冴えない雰囲気の男で、恐らくは女性と付き合った経験がない。

 学生時代には本人もラノベを執筆しており、出版社から声がかかったこともあったが、結局デビューは出来ずじまい。

 ある日、高校時代の同級生、葉山さんに突然呼び出され、彼女が「死んで異世界転生しているはずの息子に会う方法」を一緒に探す羽目になる。

 性格は極めて押しに弱く、基本的には善人。

 葉山さんと一緒に過ごす中で、少しずつ彼女に惹かれていくことになるが、同時に「異世界転生なんてない」と彼女に告げられない自分を嫌悪していく。

葉山 美央(はやま みお、旧姓:古橋)

 交通事故で息子を亡くし、その事実を受け入れられず「息子が異世界転生したっぽい」と思うようになった女性。

 華やかな雰囲気の美女で35歳。

 堂原の高校時代の同級生で、当時から人気者で彼女の周囲にはいつも人が集まっていた。

 高校を卒業してすぐに息子を出産している。

 夫との仲は冷え切っており、息子が亡くなる前から家庭崩壊状態。

 そのことが余計に死んだ息子への罪悪感へ繋がっている。

 夫は息子の死にもあまり関心がないようで、妻が息子のことで家を空けている間に他の女性を家に連れ込んでいる。

葉山 大我(はやま たいが)

 葉山さんの息子で享年17歳の男子高校生。

 物語が始まる3か月前に交通事故で死亡している。

 両親に似ず、ラノベ好きのオタク。

 生前両親とはあまり折り合いが良くなかった。

 異世界転生モノのラノベを愛読しており、そのことが母親の美央に「息子が異世界転生したっぽい」という発想を抱かせることになる。


「私の息子が異世界転生したっぽい」感想&評価

良い意味でのタイトル詐欺、とにかく切なくて泣ける

 タイトルを見た時は、恐らく「異世界転生した息子が母親と何らか連絡をとって、現世と異世界でほのぼのやり取りする物語なのかな」と思っていました。

 しかし読んでみるととんでもないタイトル詐欺。

 死んだ息子が異世界転生していると思い込むことで必死に自分の心を保っている母親と、それに寄り添う恋人でも夫でもない男の物語だったのです。

「『異世界転生』なんてあるわけないでしょ?」

 そう言い切ってしまえれば楽なのでしょうが、それを心のよりどころにしている葉山さんに軽々しくそんなことを言えるはずがありません。

 主人公の堂原も、突飛な葉山さんの発言に戸惑いながらも決して「異世界転生」を否定することなく、そっと彼女に寄り添っていきます。

 そして彼女に寄り添うことで、堂原自身も自分と少しずつ向き合っていくことに。

 ラストでは葉山さんが無事に息子のいない現実を受け入れており、ホッとしつつも思わずウルッときてしまう結末でした。

こんな人におすすめ

 異世界転生モノに否定的な人、気持ち悪さを感じている人にこそ読んでいただきたい物語です。

 何故人が「異世界転生」という言葉に惹かれるのか、単なる現実逃避だと言えばそれまでなのでしょうが、それだけではない「異世界転生」と人の心の奥深さが描かれています。

 単に否定するだけでは得られない何かが、この物語にはあるように感じます。

 そしてかつて異世界転生モノを愛読した大人たちにも是非読んでいただきたい。

 僕自身もそうですが、非常に当時の思い出とか感情とか色んなものにブッ刺さる内容となっています。

 当時の異世界転生に抱いていた感情を良い意味で消化できたような気分になる作品でした。

 



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