「ベー革」感想&評価~『ドラフトキング』のクロマツテツロウが贈る新時代の高校野球漫画、モデル高校はどこ?~


 今回は「ゲッサン」で連載中の新時代の高校野球漫画「ベー革」について解説します。

 「ベー革」は「ドラフトキング」など名作野球漫画の作者として知られるクロマツテツロウが実在する高校野球部をモデルに描いた作品。

 短い練習時間という制約の中でどうすればより野球が上手くなり、甲子園へ行けるのかというテーマをとことんロジカルに突き詰めた内容となっています。

 本記事では「ベー革」のあらすじや登場人物の解説、モデルとなった広島県私立武田高校の解説なども踏まえ、その魅力を解説してまいります。

「ベー革」あらすじ

 全国高校野球選手権神奈川県大会決勝戦。

 主人公の入来ジローは兄の入来一郎が率いる横須賀隼人高校の応援に行きましたが、横須賀隼人高校は敗北。

 兄の甲子園出場の夢は断たれてしまいました。

 弟のジローは兄の仇を討って甲子園へ行ってやると胸に誓い、兄と同じ横須賀隼人高校への進学を希望します。

 しかしその決断に家族は大反対。

 「横須賀のリッキー」と呼ばれ幼い頃から怪童として知られてきた兄でさえ無理だったのにジローに甲子園なんて行けるわけがない。

 成績は良いんだから進学校へと行ってくれ、と。

 納得いかないジローでしたが、兄が「お前には頭を使ってやる野球が向いている」と進学校の強豪・私立相模百合ヶ丘学園への進学を勧めたことで、進学校で甲子園を目指すことを決意しました。

 しかし私立相模百合ヶ丘学園へ進学したジローが監督の乙坂から伝えられたのは、それまで彼が高校野球に抱いていたイメージとは真逆の内容。

「平日の練習時間は一日実質50分」

 そんなんで甲子園なんて行けるわけがないと反発するジローでしたが、乙坂は「重要なのは練習量じゃなく練習の質」、「アタマを使え。アタマを鍛えろ」とジローの固定観念を否定します。

「オレと、ベースボール革命を起こさないか?」

 古典的な野球を愛するジローはその言葉に反発していたものの、乙坂監督が示す野球理論に徐々に魅了されていくようになり……

「ベー革」のモデル高校は私立武田高校

 「ベー革」は実在する高校がモデルとなっています。

 モデルとなっている高校は広島県の私立武田高校。

 立地的な問題で練習可能時間が限られており、徹底的に科学的な練習に拘った結果、中学時代は普通の選手ばかりだった部員の中から150キロ投手が誕生したことで話題となっていました。

 私立武田高校を率いる岡嵜監督の考えはシンプル。

「全員が140キロの球を投げ、ホームランを打てるチームになればいい」

 また選手が伸びないのはヒューマンエラーではなくシステムエラーであると考え、指導者も常に成長し、良いものを取り入れていかなくてはならない、と。

 さらに監督が目指しているのは甲子園出場ではなくプロに行く選手の育成。

 1チーム9人プロに行ける選手がいれば、勝手に甲子園には行くだろうという発想は明快かつ痛快でしたね。

https://project.nikkeibp.co.jp/mirakoto/atcl/sports/h_vol1/


「ベー革」主な登場人物

入来ジロー(いりきじろー)

 本作の主人公。

 神奈川の進学校で野球の強豪「私立相模百合ヶ丘学園」に進学した野球少年。

 「横須賀のリッキー」と呼ばれ幼い頃から怪童として名をはせてきた兄・一郎に憧れ、兄の果たせなかった甲子園出場を目指す。

 ポジションはピッチャーで、中学時代は一応エースだった。

 野球のスキルは兄より劣るが、足だけは兄より速く、成績も良い。

 地頭やモノの見方は悪くないのだが、古典的な根性論、練習量至上主義者で乙坂監督の提唱する「ベースボール革命」に当初反発していた。

乙坂真一 (おとさかしんいち)

 私立相模百合ヶ丘学園野球部の若き監督であり「ベースボール革命」の提唱者。

 非論理的な練習を嫌い、大切なのは練習量ではなく練習の質だと選手たちに指導する。

 フィジカル至上主義で、球速を軸とした明快で分かりやすい指導が特徴。

 高校時代はピッチャーで実力的には全国区だった。

 しかし3年連続決勝戦まで一人で投げ抜いたものの、夏の甲子園には一度も出場できなかった過去を持つ。

星竜真(ほしりゅうま)

 ジローの寮の相部屋で、スポーツ推薦で野球部に入った同級生。

 ポジションはピッチャー。

 ジローとは対照的に根性論で暑苦しいタイプの指導者が嫌いなので、乙坂監督とは相性が良く、「ベースボール革命」にも比較的すんなり馴染んでいる。

 ジローとは正反対だが、気が合うのか普通に仲が良い。

甲本虎(こうもとたいが)

 私立相模百合ヶ丘学園野球部の3年生エース。

 150キロオーバーの剛速球を投げるチームの柱だが、力を抜いて投げるのが苦手で精神的にむらっけが多い。

 負けん気が強い野獣のような男で、監督にもしょっちゅう噛みついて指示を無視している。

 乙坂監督のエース論に基づき、先発投手ではなく8・9回をパーフェクトに抑えるクローザーへと転向する。


「ベー革」の感想&評価

野球を知らない人間にも分かりやすい明快な解説

 「ベー革」の特徴であり魅力は、とにかくその論理が野球を知らない人間にも明快で分かりやすいことです。

 例えば作中で「私立相模百合ヶ丘学園野球部」にはピッチャー経験者が多く集められており、監督はピッチャーだけでなく全てのポジションで球速を非常に重視しています。

 ピッチャーを多く集め球速を重視する理由は、試合中に起きるエラーの大半が「送球ミス」だから。

 送球ミスが少なく150キロを投げられる野手が揃っていたら、相手選手にとってはとんでもないプレッシャーだろう、と。

 そしてとにかく圧縮したフィジカルトレーニングで野球に必要な瞬発力を鍛える。

 素振りとか走り込みとか、野球を知らない人間からすると具体的にどう上達に繋がるのか分かりにくい部分があるのですが、「ベー革」で行われている指導は全てその効果が明快に説明されている点が良いですね。

こんな人におススメ

 野球好き、クロマツテツロウ好きは勿論ですが、個人的には野球に良いイメージを持っていない方にこそおススメしたい作品です。

 これは個人的な所感が大いに混じりますが、野球って他のスポーツと比べても桁違いに練習量が多く、ちょっと近寄りがたい世界だなぁ、と昔から感じていました。

 それは単純にキツそうだな、というのもあるのですが、走り込み(必要なのは持久力より瞬発力では?)とか素振り(目的は何? スイングスピード目的ならウェイトの方がいいのでは? フォームの確認なら何百回も振る意味あるの?)とか、どうも傍から見てると非効率に思える部分が目立つんですよね。

 しかしやったことのない身でそうした練習を非効率だと否定するのもおかしな話ですし、その結果野球に対して壁みたいなものを感じることに。

 それがこの「ベー革」では一つ一つの練習の意味と効果が明快に説明されていて、野球を少し身近に感じることができました。

 一概に従来の野球を否定しているわけではないので、色んな野球の見方、捉え方がある点も非常に学びがあって良かったです。



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