「新九郎、奔る!」感想(ネタバレ注意)~ゆうきまさみ先生が描く、戦国大名のはしり「北条早雲」~


 今回はゆうきまさみ先生が現在ビッグコミックスピリッツで連載中の本格歴史漫画「新九郎、奔る!」を紹介します。

 この作品は織田信長ら戦国大名が活躍する一昔前、後に「戦国大名のはしり」と呼ばれた「北条早雲」の若かりし頃を描いた作品です。

 北条早雲は出自や年齢など諸説存在する人物ですが、この作品では最新の通説に基づき、従来のイメージとは異なる北条早雲が描かれていることも特徴の一つです。

「新九郎、奔る!」のあらすじ(ネタバレ注意)

序盤のあらすじ(ネタバレ注意)

 物語の冒頭は1493年、伊勢新九郎盛時(後の北条早雲)が室町幕府の命を受け、伊豆の堀越御所に討ち入りをかけるシーンから始まります。

 幕府の、主の命令に翻弄される新九郎ですが、この時彼は一つの決意をしていました。

「ここまではやる!」
「だが、明日からは俺の主は俺だ!」

 そして物語は27年前、新九郎が11歳、まだ千代丸と呼ばれていた頃に遡ります

 この頃の千代丸は父、伊勢備前守盛定の部下である大道寺右馬介の下で育てられていましたが、元服に向けての教育のため、伊勢宗家に呼び戻されることとなります。

 当時の伊勢家は伯父であり当主である伊勢伊勢守貞親が足利義政の側近として幕府の重職を務める有力な家柄でした。

 しかし、その権力を疎んだ諸大名たちの反発により、貞親(伯父)と盛定(父)は追放されてしまいます。

 伊勢家は貞親(伯父)の嫡男、伊勢兵庫助貞宗が新たな当主となり、諸大名との関係改善を図っていくことなり、千代丸もその手伝いをしながら様々な重要人物たちと知り合っていきます。

 その後、幕府内の対立が激化し、京の都を東西に引き裂く応仁の乱が勃発
 戦火の中で千代丸は元服し、名を伊勢新九郎盛時と改めます。

 戦況は次第に東軍が不利となり、東軍大将であった足利義視は新九郎の兄、八郎とともに都を離れ伊勢の国へと逃れていきました。

 一方で、貞親(伯父)と盛定(父)はこの機に乗じて復権し、都への帰還を果たします。

 そして応仁の乱発生から1年が経過し、義視は京へ帰還しますが、その立場は極めて危ういものとなっていました。

 貞親(伯父)らは八郎(兄)に義視を捨てて伊勢家へ戻ってくるように言いますが、義視に忠誠心を抱いていた八郎(兄)はそれに反発。

 そして義視を巡る逃亡劇の中で、八郎(兄)は貞親(伯父)に討ち取られてしまいます。

 悲劇から数年後、16歳になった新九郎は盛定(父)の名代として備中国荏原へ向かい、現地の問題を解決するよう命じられます。

元ネタとなった戦国大名のはしり、北条早雲とは?

 北条早雲というと、関東に一大勢力を築いた北条家の祖で、古くは「下克上の素浪人」というイメージが強い人物です。

 しかし、最近の通説では名門伊勢家の出身であるとされており、「新九郎、奔る!」ではこの最新の通説に基づいて若かりし日の早雲が描かれています。

 早雲が登場する以前の大名は守護大名、室町幕府の公権力に基づいて各地を治めていましたが、早雲は幕府とは一線を画し、独自の権力体制を確立したと言われています。

 これが、早雲が「戦国大名のはしり」と呼ばれる所以ですね。

 ちなみに、北条早雲とは後世にそう呼ばれるようになっただけで、早雲の時代は伊勢家を名乗っていたそうです。


「新九郎、奔る!」の主な登場人物

伊勢新九郎盛時(いせしんくろうもりとき)
本作の主人公であり、後の北条早雲、幼名は千代丸。
正義感の強い少年で、理屈っぽく、理想や正論に偏ったところがある。
傅役(教育係)曰く、教育と環境次第でひとかどの武士にも学者にも職人にもなれるが、気の利いたことが言えないので商人にはなれないだろう、とのこと。
伊勢家当主の妹婿である父の側室の子供で、伊勢家本流の血を引いているわけではない。
礼儀正しく頭の回転も良いため、作中では様々な人物と知己を得ていくこととなる。
趣味は鞍づくり。

伊勢備前守盛定(いせびぜんのかみもりさだ)
新九郎の父。備前守は役職なので、実は作中でコロコロ変わる。
伊勢家の支流、備前伊勢家に生まれ、宗家に気に入られて婿入りする。
伊勢家では当主貞親の妹婿という立場で、当主の右腕として重用される。
ただその結果、貞親と一蓮托生となり、二度にわたって失脚することとなる。
実家から備中国荏原に領地を貰っていたが、全く運営に関わっていなかったため、財政問題を抱え後に新九郎が苦労することになる。

伊勢伊勢守貞親(いせいせのかみさだちか)
新九郎の伯父にして伊勢家の当主。
足利義政の傅役だったこともあり、幕府内で絶大な権力をふるう。
義政に跡継ぎがいなかったため、義政の弟、義視を還俗させ将軍の跡継ぎとしたが、義政に子が生まれると邪魔になった義視を排除しようとしたり、典型的な黒い権力者。
やり過ぎで周囲の反発を買い、二度にわたって失脚。
再起を図り京の都にのぼろうとして病死する。

伊勢兵庫助貞宗(いせひょうごのすけさだむね)
新九郎の義理の従兄弟であり貞親の嫡男。
柔和な性格と高い知性、整った顔立ちを持つ、作中屈指のイケメンキャラ。
コロコロ失脚する貞親の後を継いで、伊勢家の当主となる。
何故か父親や叔父からの評価は厳しい(多分イケメンだから)。
新九郎との仲は良好で、新九郎の烏帽子親も務めた。

伊勢八郎貞興(いせはちろうさだおき)
新九郎の兄で、正室腹の嫡男。
義政の弟、義視に仕え、応仁の乱で不利な立場となった義視に付き従って出奔する。
義視に深い忠誠心を抱き、義視を見限った伊勢家に反発する。
義視の逃亡に付き従い、追手となった新九郎らの前に立ちふさがり、叔父の手にかかって亡くなる。

伊都(いと)
新九郎の兄で、正室腹。
勝ち気な性格の美少女で、新九郎たちのことを非常に可愛がっている。
駿河の今川氏のもとに嫁ぎ、子をもうける。

須磨(すま)
新九郎の義理の母。貞親の妹で盛定の正室。
非常に厳しい人物で、新九郎との距離感は微妙。
ただ、血の繋がらない息子、新九郎の窮状に援助を行うなど、情の深い女性でもあった。


「新九郎、奔る!」の感想と評価

 戦国ものというよりは、北条早雲という男の生き様とそれを取り巻く人々を丁寧に描いた作品、といった印象を強く受けました。

 ガチャガチャ戦だなんだのと、そちらに傾倒していないところが非常にリアルで良いですね。

 歴史を丁寧に描いているので、情報量そのものは非常に多いのですが、展開が速いのでストレスはあまり感じません。
 このあたりは、小説にはない漫画の長所と言えるでしょうね。

 歴史好きの方には太鼓判を押しておすすめできる作品です。

 応仁の乱のグダグダ感とか、幕府や朝廷、地方の距離感とか、とてもリアルで史実に忠実。

 その上で、漫画らしくところどころにクスッと笑ってしまう演出が散りばめられていて、歴史に詳しくない私でも思わず引き込まれてしまいました。

 こんな面白い時代、面白い男がいたのか。

 信長たち後の戦国大名も、新九郎がいなければ生まれていなかったかもしれません。

 歴史に興味のある方もない方も、是非、ご一読を。



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