今回はワールドトリガーの作者、葦原先生が2009~2010年に少年ジャンプで連載されていた名作「賢い犬リリエンタール」について紹介させていただきます。
本作は、喋る不思議な力を持った犬(?)リリエンタールを中心に描かれたSFコメディ漫画であり、当時のジャンプの読者層には合致しなかったのか32話と比較的短命で打ち切られた作品です。
しかしたくさんの個性豊かで優しいキャラクターとその作風は、今の荒んだ世の中でこそ読んでいただきたい紛れもない名作。その魅力について今日は語らせていただきます。
ちなみに、読み方は「かしこいいぬ」ではなく「かしこいけん」ですので、お間違えなく。
賢い犬リリエンタール、ってどんな話?(あらすじ、ネタバレ含む)
ある日、日野兄妹のもとに、海外で暮らす研究者の両親から一通の手紙が届いたところから物語は始まります。
その手紙には弟と一緒に日本に帰ると書かれていました。弟ができることを楽しみにする日野兄妹。しかし両親は急用で帰ってこれず、日野兄妹のもとに弟として送り込まれてきたのはなんと喋る犬(?)。
リリエンタールと名乗る犬(?)のことを普通じゃないと拒絶する妹のてつこと、あっさりと受け入れる大らかな兄(兄の名前は不明です)。
実はリリエンタールは犬ではなく(当たり前だ)、人の心に反応して不思議な現象を引き起こす力を持った人造生物だったのです。
リリエンタールの力を狙う謎の(というか意味不明で間抜けな)組織と、リリエンタールの力によって現れた意味不明な謎生物たち。
リリエンタールの力で日野家に巻き起こされる数々の騒動。
果たしてリリエンタールは無事に日野家の『弟』となることができるのか!?
とまあ、不思議な力を持ったマスコットキャラクター(リリエンタール)と、それを中心とした騒動を描いた、ある意味ドラえもん的な作品です(リリエンタールはあまり役には立ちませんが)。
日野妹のてつこは、色々と問題を抱えていて不登校(詳細は後述)。リリエンタールは別に、てつこが抱える問題を解決してくれるわけではありませんが、ただただその優しい在り方が結果的に物語を良い方向に運んでいきます。
印象的なのは、リリエンタールが第1話で、自分を狙って襲ってきた黒服を我が身を顧みず助けるシーン。
何故、と問われてリリエンタールは不思議そうに答えるのです。
「くらいところにおっこちるのは、こわいですぞ?」
ただただ優しく純粋だということが、世界を良い方向に変えていく、これはそんな優しい物語です。
賢い犬リリエンタールの主な登場人物(?)
リリエンタール
本作の主人公で日野家の弟。
海外で暮らす日野家の両親から送り込まれてきた謎の人造生物。謎の組織から「RD-1」と呼ばれて狙われている。
てつこに弟として認めてもらうべく必死に頑張る4歳児(?)。
外見は二足歩行する犬。黙っていればただのぬいぐるみ。
性格はとても素直で優しく、真面目。知能も並の4歳児以上にはある。
人の心に反応して不思議なことを引き起こす力を持つ。その引き起こされる現象は、謎の生命体(イメージ体と呼ばれる)を生み出したり、謎の空間を作り出したりと様々。
表層意識で願ったことは何人もの人間が同じことをイメージしなければ何も起こらないが、深層意識で願ったことは一人でも不思議なことを起こせる(ただし制御できず、暴走する)。
日野 てつこ(ひの てつこ)
日野家の妹で11歳の少女。気難しい年ごろだが、根は優しい。
外見は二つに結わえた長い黒髪と鋭い目つきが特徴。
カンフーの達人で、レンガに指で穴を空けられる。ただし、学力はちょっと残念。
幼い頃は海外で両親と共にジャングルでサバイバル生活をしていた。日本に来てからしばらくは普通に学校に通っていたが、サバイバル生活時代の癖でうっかりカブトムシの幼虫をクラスメイトの前で食べてしまい、ドン引きされる。
そのせいで不登校になり、「普通」に強くこだわるようになる。
日野兄(ひの あに)
日野家の兄で15歳の少年。名前が「兄」なのではなく、単純に名前が明かされていないだけ。
細目の穏やかな雰囲気の優しい少年で、リリエンタールのこともすぐに受け入れた。
実はこの年齢で既に大学を卒業済み、働いている。
天才的な物づくり(及び解体)の才能を持ち、日野家の家系は彼の発明の特許料によって支えられているとか。
家事万能で敵にご飯を振舞うほどのおおらかさを持つ、まさに大物。
日野父(ひの ちち)
日野家の父で海外で研究者をしている。
学者であり科学者であり冒険野郎、らしいが回想シーンでしか登場しない。
研究施設からリリエンタールを奪って日本に送り込んだ。
日野母(ひの はは)
日野家の母で海外で研究者をしている。
学者であり科学者であり天才発明家、らしいが回想シーンでしか登場しない。
春永 雪(はるなが ゆき)
日野家の隣に住む双子の姉。てつこの同級生。
てつこを怖がらせることに情熱を傾ける小悪魔ガール。
日野兄に好意を持っている様子。
春永 桜(はるなが さくら)
日野家の隣に住む双子の弟。てつこの同級生。
クールで物静かな少年。姉とはあまり似ていない。
宇佐美 文(うさみ あや)
てつこの同級生の少女。
桜に片思いしており、桜とてつこの仲を誤解し、嫉妬からてつことその家族を罵るが、後に和解する。
実家は書店を経営しており、料理上手。
なお、ワールドトリガーに登場する宇佐美栞の妹である可能性が高い。
<謎の組織>
リリエンタールを狙う黒服たちの組織。
白服の首領をトップとし、サングラス組、エリート組、紳士組、神堂組など、アクの強い幹部とその配下たちが存在するイロモノ軍団。
葦原先生らしく、モブっぽい敵にも一人一人設定があってキャラが立っているため、説明しだすとキリがないためここでは割愛する。
ただ一言、私は紳士組のよく分からない紳士理論が好きです。
賢い犬リリエンタールの魅力
ワールドトリガーとも世界観を共有(宇佐美栞の妹、唐沢克己は悪の組織出身)?
本作はワールドトリガーで有名な葦原先生の前作ということもあって、そこから読んでみたという方も多いはず。
そんなワールドトリガーファンが思わずニヤリとしてしまう設定が、星座と宇佐美文というキャラクター。
葦原先生はキャラクターの誕生日による星座に関して、通常の黄道12星座とは異なる独自のものを設定しており(ぺんぎん座、ねこ座、はやぶさ座など)、その設定はリリエンタール、ワールドトリガー双方で共有されています。
また、リリエンタールに登場する宇佐美文は、恐らくワールドトリガーでオペレーターを務める宇佐美栞の妹である可能性が高く(宇佐美栞の実家が書店で、料理上手な妹がいると明かされている)、世界観が繋がっていることが示唆されています。
さらに言うなら、ワールドトリガーでボーダー営業部長の唐沢克己は表紙裏で元悪の組織出身であることが明かされており、それは恐らくリリエンタールの……
まあ、作品のイメージが崩れるのであくまでネタ、ワールドトリガーに実際にリリエンタールが登場することはないでしょうけどね。
優しく平和な物語、こんな人におすすめ
今の社会や人間関係に疲れた方に是非読んで頂きたい、癒される物語です。
本作は冒頭でも述べた通り、打ち切られた作品ではありますが、それは決して面白くないからというわけではありません。
あくまで当時のジャンプ読者層には合わなかっただけだと断言します。
悪人をただ悪人として描くのではない、優しい物語。
きっと今の荒んだ社会にこそ必要なものじゃないかなと思うのです。
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