「ツワモノガタリ」感想&評価(ネタバレ注意)~流派にリアルな新選組剣術バトル、”強さ”が丁寧に描かれていて面白い~

 今回は週刊ヤングマガジンで連載中、強さに一番リアルな新選組漫画「ツワモノガタリ」について解説します。

 この作品は有名な新選組の隊士たちが幕末最強の剣客は誰かについて語り合う剣客バトル漫画。

 ただ誰それが強い、天才だ、ではなく、彼らが背負う剣術流派に関して非常に丁寧な取材がなされており、強さの描写が非常にリアルな作品です。

 本記事ではあらすじや登場人物の解説なども交え、この「ツワモノガタリ」の魅力について語っていこうと思います。

「ツワモノガタリ」のあらすじ(ネタバレ注意)

 ある夜、新選組の宴席で局長の近藤勇が一つの疑問を口にします。

「最強の剣客は誰か?」

 多くの遣い手を斬ってきた新選組隊士。

 その中で最も強かった剣客について皆で論じるのはどうだろうか、と。

 最初の口笛をきったのは、天才剣士・沖田総司でした。

一の段:沖田総司VS芹沢鴨(コミックス1巻)

 沖田総司が最強の剣客として名を挙げたのは、新選組初代筆頭局長・芹沢鴨。

 芹沢鴨は素行に問題があり、新選組の評判を落としていたことを理由に、1863年に新選組の隊士により暗殺された男です。

 当時暗殺のために終結したのは、土方歳三、山南敬助、沖田総司、原田左之助の4名。

 内、土方と原田は逃げ出した芹沢派の隊士を追ってその場を離れ、沖田と山南の2名が芹沢鴨に襲撃を仕掛けることになります。

 襲撃を見抜き、迎え撃つ芹沢鴨。

天然理心流 沖田総司

VS

神道無念流 芹沢鴨

 山南は二人の剣客の戦いに割って入ることができず、傍観者となってしまいます。

 圧倒的な速さを持つ沖田を、その膂力と神道無念流の守りの堅牢さで圧倒する芹沢鴨。

 沖田は彼の資質が膂力を必要とする天然理心流にかみ合っていないことを指摘されてしまいます。

 しかし戦いの中で沖田は彼独自の天然理心流を体得。

 最終的に沖田が芹沢を上回り、辛うじて戦いに勝利したのでした。

二の段:藤堂平助VS田中新兵衛(コミックス2巻)

 続いて語り出したのは藤堂平助。

 彼が挙げたのは薬丸示顕流の使い手にして幕末四大人斬りの一人とされる田中新兵衛の名前でした。

 藤堂平助と田中新兵衛は、剣の技巧より何より、人斬りとしての才能に恵まれいていた男たちです。

 いくら稽古で腕が立っても、実戦ともなれば死の恐怖や緊張で実力を十全に発揮することは難しいもの。

 しかし藤堂平助は恐怖心の無い性格、田中新兵衛は圧倒的な胆力により、実戦でもその剣が鈍ることはありませんでした。

 佐幕派・新選組に所属する藤堂平助と尊王派の土佐勤王党・武市半兵太に心酔する田中新兵衛。

 二人の戦いは、新選組を武市の敵と見做した田中が、偶然見かけた藤堂に襲いかかるという偶発的なものでした。

北辰一刀流 藤堂平助

VS

薬丸示顕流 田中新兵衛

 藤堂の北辰一刀流は敵の攻撃に的確に対処し反撃する応戦反撃戦型。

 対する田中新兵衛の薬丸示顕流は蜻蛉という自分を押し通す先制攻撃戦型。

 蜻蛉という「一」の圧倒的な強さに苦戦する藤堂。

 何とか対処していましたが、斬り合いの末に互いの刃が半ばから折れてしまいます。

 しかし藤堂は動じることなく、折れた刀で得意の連撃技「木の葉落とし」を繰り出し、田中を滅多切りに。

 それでも田中を仕留めきることはできず、田中は蜻蛉で反撃してきますが、戦いの最中に武市が襲撃を受けたという知らせが飛び込んできます。

 田中は戦いを切り上げ武市の元へ駆けつけ、東堂と田中、二人の戦いは決着つかずで幕を下ろしたのでした。


「ツワモノガタリ」の主な登場人物(1~2巻)

沖田総司(おきたそうじ)

 言わずと知れた新選組一番隊隊長にして新選組最強と名高い天才剣士。

 昨今では美少女だったり、取り敢えず病弱で血を吐いていたり様々なイメージが世に蔓延っていますが、「ツワモノガタリ」における沖田総司は爽やかで中性的な美青年。

 その言動の端々に強者と戦いたいという願望が見え隠れしています。

 流派は近藤勇らと同じ天然理心流。

 速さを武器とする沖田にとって、シンプルを旨とする天然理心流はあまり相性の良い流派とは言えませんが、貧しい家に生まれた沖田の場合、学べる流派が限られていたという経緯があります。

 それ故に作中では芹沢鴨相手に苦戦を強いられますが、彼との斬り合いを経て、独自の剣理へと至っていました。

 また、とんでも剣術の代名詞として知られる三段突きも、この作品ではある程度理論立てて説明がなされています。

芹沢鴨(せりざわかも)

 新選組初代筆頭局長であり、新選組の評判を落とす存在として同志たちから排除された男。

 力士に喧嘩を吹っかけて殺害し、酒席で暴れて店を破壊し、強引に金を借りては踏み倒すなど、質の悪い逸話に事欠かない人物です。

 「ツワモノガタリ」ではそうした問題行動はそのままに、同時に武力・知力・胆力全てを併せ持った侍として描かれていました。

 見た目はワイルドで色気漂う悪くてイイ男。

 流派は神道無念流で、その恵まれた体格から放たれる剛剣と、敵の意を読み取る無念無想による鉄壁の守りにより沖田総司を苦しめていました。

 単なる暴君というわけではなく、数々の問題行動も彼なりに新選組を導こうとしてのことだったようです(少なくともこの作品においては)。

藤堂平助(とうどうへいすけ)

 新選組8番隊隊長であり、二の段のメインキャラクター。

 とにかく人を煽るのが大好きな嫌味な青年で、登場するなり一瞬で新選組隊士から疎まれまくる様子が描かれていました。

 生まれついての合理主義者であり人斬りの天才。

 幕末に蔓延っていた御座敷剣術を見下していました。

 流派は北辰一刀流。

 後に近藤らが所属する天然理心流の道場、試衛館に入門し、その縁で新選組に入隊していますが、「ツワモノガタリ」ではあくまで北辰一刀流の遣い手として描かれています。

 剣の技量そのものは「目録(3段階で上から2番目)」と決して最上位というわけではありませんが、殺し合いの中でこそ本領を発揮する人斬りの天才。

 敵の攻撃に的確に対処する合理的な剣の遣い手です。

 田中新兵衛とは互角の戦いを繰り広げたものの、決着つかず仕舞い。

 本編では描かれていませんが、藤堂は後に佐幕派から尊王攘夷派に鞍替えし、新選組と袂を別つことになります。

 この決断の背景に尊王攘夷派の田中新兵衛との戦いが影響しているのか、などと空想するのはこの作品の楽しみの一つ。

田中新兵衛(たなかしんべえ)

 幕末四大人斬りの一人、田中新兵衛。

 「ツワモノガタリ」では尊王攘夷派・土佐勤王党の党首・武市半兵太に心酔する寡黙で愚直な青年として描かれていました。

 武市への心酔ぶりたるや凄まじく、武市に「斬れ」などと無粋なことは言わせず、ただ邪魔者を尋ねては首を狩ってくる狂気の人斬り。

 流派は薬丸示顕流。

 細かな技巧などは一切なく、蜻蛉と呼ばれる上段の構えから剣を振り下ろし、剣諸共敵の頭蓋を粉砕する単純な一撃が全て。

 それ故に対処が難しく、応戦型の藤堂を苦しめました。

 最終的に戦いの最中に武市のピンチが伝えられ、藤堂との戦いを放棄して即座に武市を救出。

 裏切り者を抹殺し、その責を負って自害しています。


「ツワモノガタリ」の感想&評価

実在する剣術流派への拘りがリアルで面白い!

 「ツワモノガタリ」はとにかく剣術流派が丁寧に描かれている作品です。

 通常、こうしたバトル作品となると、剣客や達人といった「個人」にスポットがあてられ、流派はおざなりになりがち。

 流派云々というより、個人の特異さ、特殊技能が前面に押し出されるのが一般的です。

 しかしこの「ツワモノガタリ」では、剣客の戦いは個人だけものでなく、彼らが背負う流派と歴史の戦いとして描かれており、その攻防の一つ一つが非常に流派に忠実でリアル。

 作者の細川忠孝先生が実在する剣術流派の使い手に何度も、丁寧に取材を繰り返したというだけあって、その強さの一つ一つに説得力があります。

 単にキャラクターを「強い」と表現するだけの作品は数多くありますが、「ツワモノガタリ」の強さはそうしたバトル漫画とは一味も二味も違いますよ。

こんな人におすすめ

 この作品はリアリティーのあるバトルが好きだという方にお勧めです。

 またシンプルに、歴史好き、新選組が好きという方にも自信をもってお勧めできます。

 歴史的に見れば戦場の主力は刀剣ではなく槍や弓。

 戦争ではなく斬り合いが横行した幕末は、ある意味最も剣客が活躍した時代と言えるかもしれません。

 それぞれの剣客が背負った流派と歴史がぶつかり合い、最強の剣客を論じる「ツワモノガタリ」。

 胸昂らせずにはいられない良作です。



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