今回は長月天音先生原作のヒューマンドラマ「ほどなく、お別れです」について解説します。
この作品は霊感のある大学生・美空が葬儀場を舞台に小さな奇跡を起こす物語。
長月先生ご自身の葬儀場でのバイト経験、五年にわたってご主人の闘病生活を支え死別した経験が詰め込まれた作品です。
本記事では物語のあらすじや主な登場人物の解説を踏まえ、その魅力を深堀してみたいと思います。
「ほどなく、お別れです」あらすじ
見送りの場所
大学生の清水美空は、4年生の秋になっても就職が決まらずにいました。
そんな時、葬儀場・坂東会館からヘルプの連絡があり、半年ぶりにバイトに復帰した美空は、フリーの葬祭ディレクター漆原と出会います。
後日、漆原が担当する式の案内係を務めていた美空は、大きなバッグを持った妊婦の女性に頼まれ、バッグを持って会場まで案内しますが、会場へ着くと妊婦の姿は消えていました。
妊婦は式の当事者、故人となった女性の幽霊だったのです。
美空は妊婦に託されたバッグを漆原に渡し、事情を説明します。
そして喪主であるご主人の前でバッグを開けると、そこに入っていたのは大量のおむつでした。
泣き崩れるご主人に「奥様は天国でお子さんを産み、立派に育ててみせると伝えたかったのではないか」と伝える漆原。
亡き妻の想いを受け取ったご主人は、少しだけ前を向いて彼女を見送ったのでした。
降誕祭のプレゼント
霊感を持っていることと遺族への姿勢を気に入られ、クリスマスイブの式に漆原からスタッフとして入ってほしいと要請された美空。
その式の故人は五歳の少女。
生まれた時から疾患があり、入院期間も長かったそうです。
自分が死んだことも理解できず、無邪気に両親たちの周りではしゃいでいる故人の比奈ちゃん。
美空は漆原から頼まれ、何とか比奈ちゃんが納得して天国へ行けるように説得を試みます。
しかし両親から離れて一人で天国へ行くのは寂しいと泣く比奈ちゃん。
そんな時、比奈ちゃんを一人じゃないと抱きしめたのは、美空が生まれる直前に死んだ姉の美鳥でした。
美鳥に慰められた比奈ちゃんは泣き止み、笑顔で天国へと旅立っていきます。
「ほどなく、お別れです」主な登場人物
清水美空
本作の主人公で大学4年生の女性。
強い霊感を持ち、父親の紹介で大学1年生の時から葬儀場・坂東会館でバイトをしている。
生まれる直前に美鳥という姉が亡くなっていて、美空に霊感があるのは守護霊としてそばにいる姉の影響。
どちらかと言えば気弱で引っ込み思案な性格。
就職が決まらず思い悩んでいたが、漆原と出会い葬祭ディレクターとなることを決意する。
漆原礼二
独立したフリーの葬祭ディレクター。
まだ若いが優秀で、とても優れた観察力を持つ。
霊感はなく、美空の力を見込んで協力を求める。
元々は坂東会館の社員で、独立した後も坂東会館から仕事を回してもらっており、実質支店のような扱い。
仕事中はとても物腰丁寧だが、そうでないときはざっくばらんな態度をとる。
里見道生
強い霊感を持つ若き男性僧侶。
坂東会館と契約している光照寺の僧侶で、和尚の四男。
兄三人も優秀な僧侶らしく、普段はあまり坂東会館には来ないそうだが、漆原とは親しく、彼の式にはしばしば僧侶として参加している。
朗らかで思いやりの深い人格者であり、霊感を持つもそれを活かせていない美空にとって、一つの理想像のように描かれている。
赤坂陽子
坂東会館の若き女性社員。
美空ととても仲が良い。
バイト上がりから社員になっており、その意味でも美空の先輩。
元々は短大を出たら保育士になるつもりだったらしく、とても朗らかで細やかな心遣いのできる女性。
「ほどなく、お別れです」感想
死を巡る様々な思いが詰め込まれたヒューマンドラマ
霊感を持った女性と葬儀場の組み合わせというと非常にファンタジーな設定ですが、この作品は死者と生者のバランスが非常に良いな、というのが第一印象。
故人の霊は登場するものの、そこに物語が偏り過ぎることなく、死者側を美空が、生者側を漆原が受け持ち、双方をつなぎ合わせて葬儀という物語が進行していく形です。
死んだという事実は変わらないし、その悲しみは結局遺族が自分で癒すしかないのだけれど、死の受け止め方を変えて少しでも遺族の悲しみを和らげる。
そのための言葉を紡ぐ美空と漆原の姿が描かれています。
こんな人におススメ
タイトル通り、読めばちょっとウルッときて、根底には温かさのあるこの「ほどなく、お別れです」。
ストーリーも絵もキレイで男女問わず読みやすい作品ですが、テーマがテーマなのであまり若年層には受けないかもしれませんね。
活字をしっかり読む体力はないけれど、原作小説には興味があったという方にはおススメです。
漫画アプリで連載していますが、隙間時間に軽く読むより、休みの日に自室でティッシュを準備して読んでほしい作品ですね。
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