今回は「響~小説家になる方法~」で有名な柳本光晴先生が週刊少年サンデーで連載中の将棋漫画「龍と苺」について紹介します。
この作品は天才的な才能を持った女子中学生が将棋界に殴り込みをかける物語で、将棋版「響」とも言われる、非常に柳本先生らしい作品です。
人気作ではあるのですが、一部の読者からは「つまらない」「ひどい」「不快」などと叩かれており、本記事ではその理由について考察していきたいと思います。
「龍と苺」のあらすじ(ネタバレ注意)
「響」を彷彿とさせる天才少女による快進撃
「命がけで何かをしたい」
14歳の女子中学生、藍田苺は生温い日常に不満を感じ、鬱屈した日々を過ごしていました。
ある日苺は、いじめをしていた生徒を椅子で殴り飛ばし、生徒指導を受けることになります。
生徒指導の宮村は将棋を指しながら話を聞くことを提案し、将棋を知らない苺にルールを教えて対局を始めます。
しかし苺はその対局に命を懸けようと言い出し、宮村も「子供の気持ちを受け止めるため」とでも思ったのかそれを了承。
初めて将棋を指す苺に負けるはずはないと思っていた宮村でしたが、苺は天才的なセンスでコツをつかみ、宮村を追い詰めます。
しかし、最後はルールを知らないが故に「二歩」を指してしまい反則負け(正直、これで勝ったと主張する宮村はちょっと……)。
窓から飛び降り死のうとする苺と、辛うじてそれを食い止める宮村。
苺の圧倒的な才能と渇望を目の当たりにした宮村は、翌日、市の将棋大会に苺を出場させます。
苺を見て子供、女と馬鹿にする参加者に、負けん気の強い苺は激怒。
圧倒的な才能で、アマチュア四、五段相当の実力を持つ相手に見事勝利を勝ち取ります。
しかし、彼らは苺を認めようとしません。
宮村はその理由を三つ語ります。
「初心者だから、子供だから、そして女だから」
将棋界に女性プロは一人もおらず、多くの人は「女は将棋を指せない」と思っている。
宮村は苺の才能を目の当たりにして、苺がどこまで行けるのか見てみたいと思ったのです。
苺はそんな宮村の思いなど知ったこっちゃありません。ただ、
「売られたケンカは買う」
プロではなくアマチュア枠で「竜王戦」に挑む
苺は圧倒的な才能だけで大会を勝ち進んでいき、とうとう準決勝。
相手は元奨励会員で大会運営に携わっている須藤。
初戦で相手とトラブルを起こしていた苺に注意してきた男性です。
負けたら自分の指導を受け、目上の人間への口の利き方を学べという須藤でしたが、苺は休憩時間に学んだ定跡を使って見事勝利、須藤を黙らせます。
決勝の相手は名人の娘であり苺と同い年の大鷹月子。
序盤こそ月子有利で進みますが、苺が将棋歴二日目であることを知って月子は動揺し、雑念が入ったのか徐々に劣勢になっていきます。
最終的に見事勝利し優勝した苺。
しかし、それを見ていたプロ八段の伊鶴は、月子が投了した局面から苺と対局を始めます。
圧倒的劣勢から逆転勝利をおさめる伊鶴。
苺の財布を奪い、「返してほしけりゃプロにこい」と言って去る伊鶴でしたが、苺はすぐに伊鶴に挑戦状を叩きつけます。
しかし、プロである伊鶴との対戦は叶わず……
すぐに伊鶴と再戦したい苺はプロになるのではなく、もっと早く戦う方法を探します。
そして「竜王戦」であれば、アマチュア枠から勝ち上がっていけばプロとの対戦も叶うということを知り、アマチュアのまま伊鶴との再戦を目指し、ばく進するすることとなるのです。
「龍と苺」の登場人物(ネタバレ注意)
藍田 苺(あいだ いちご)
本作の主人公で14歳の女子中学生。
外見は色素の薄い髪をショートカットにした目つきの鋭い少女。
性格は生意気で負けん気が強く、頑固。
日常に退屈し、命を懸けて何かを成し遂げたいと考えていた。
元々将棋には興味がなかったが、宮村につれられていった将棋大会や伊鶴との因縁を経て、徐々にのめり込んでいく。
宮村(みやむら)
苺の通う中学校の元校長で現在はスクールカウンセラーをしている老人。
将棋好きで実力はアマ四、五段相当。
苺の才能を見出し、彼女を将棋の世界に引きずりこむ。
伊鶴 航大(いづる こうだい)
八段のプロ棋士で、若手の実力者。
市の将棋大会で見かけた苺の才能に目をかけ、彼女に敗北を味わせた上でプロになるよう誘う。
が、苺はそんな思惑知ったこっちゃねぇ、と言わんばかりにプロではなくアマチュア竜王という別ルートからのリベンジを狙う。
滝沢 圭太(たきざわ けいた)
苺と同じ学校に通う中学三年生の少年。
将棋部の部長で、ただ一人の部員。プロを目指しており、後に奨励会に入会する。
才能はあっても知識のない苺に基礎を教え、互いに切磋琢磨していく。
大鷹 月子(おおたか つきこ)
苺と同じ14歳の少女で、現役最強と呼ばれる名人の娘。
外見は長い黒髪が特徴の純和風の美少女。
プロを目指しているが、当初は父親に反対されていた。
後に、滝沢らとともに奨励会に入会する。
水沢 蒲公英(みずさわ たんぽぽ)
17歳の少女で、女流タイトルホルダー。
滝沢と共に幼い頃から将棋教室に通っていた。
外見はショートカットの活発そうな少女で、性格も見た目通りサッパリしている。
プロを目指して滝沢らとともに奨励会に入会する。
「龍と苺」の感想~「面白い」「つまらない」評価が分かれる理由~
「龍と苺」は非常に人気のある作品で、個人的には面白いと思うのですが、人によって大きくその評価は分かれます。
どうしてここまで評価が真っ二つに割れるのか、その理由となるポイントを整理してみましょう。
ポイント①主人公のキャラクターを「不快」「ひどい」と感じるか
一つは間違いなく主人公の苺のキャラクターでしょう。
苺はある意味非常に生意気な性格で、目上の人に対して無礼とも異常ともとれる行動を作中でとっており、これが人によっては「不快」と感じるようです。
悪く取れば、才能をかさにきて、偉そうな態度をとっている、と。
まあ素直に読めば、別に苺は偉そうな態度をとっているわけではなく、子供だから、女だからと自分を舐めている相手に反発し、周囲と自分との温度差に不満を持っているだけ。
そういうキャラクターが世間や常識と真っ向から立ち向かっていくのがこの作品のテーマですから、ここで好き嫌いが分かれるのは致し方ないことでしょうね。
ポイント②画風を「クセ」ととるか「下手」ととるか
画力は正直、あまり高くありません。
綺麗な絵を期待している方には、受けないだろうなと思います。
第一話で苺が逆さづりになっているのにスカートがめくれていない所とか、色々とツッコミどころはあります。
絵よりもキャラクター性、ストーリーで売っている作品だと思うので、個人的には許容範囲内ではあるのかな、と。
しかしこれが「下手」だと受け入れられない方は一定数いるようです。
ポイント③将棋に深さを求めるかどうか
将棋好きからすると、全くの初心者が才能だけで経験者を圧倒するなんていうのは、違和感を覚える展開だと思います。
恐らく作者もそれほど将棋に詳しいわけではなく、経験者からすると盤面なども「浅い」と取られることが多いようです。
まあ、ここはあくまでマンガ、フィクションと割り切れるかどうかでしょうね。
将棋を題材に選んだのは、「女性プロがいない」という現状を突き破るキャラクターを描くためであって、将棋そのものを深掘りしたいわけではないでしょうし。
とは言え、全く将棋界にリスペクトがないかと言えばそんなことはなく、苺も経験を積んだ実力者には何度も敗北し、将棋の奥深さを学んでいます。
後は、展開を感覚的に受け入れられるかどうか、でしょうね。
結論:万人受けはしない、が叩かれているほどひどい主人公でもない
結論としては、どう考えても万人受けはしないものの、ネットで言われているほどひどい主人公でもない、というのが素直な感想です。
叩きたいタイプの人からすると、かっこうの題材なんだろうな、と。
個人的には、なかなか現代にない熱量を持った作品だと好感を持っています。
「サンデーうぇぶり」で試し読みもできますし、まずは合うかどうかだけでも試してみてはいかがでしょうか。
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