今回は「やわらかスピリッツ」で連載中のデッドボール系異世界転移ファンタジー「異世界失格」について解説します。
「異世界失格」は、どう見てもモデル太宰治なとある文豪が愛人と入水自殺を図ったところ、異世界トラックの乱入により異世界転移。
チート付き異世界転移者が跋扈するファンタジー世界で、自殺願望モリモリのダウナー系文豪が、心中相手の「さっちゃん」を探して旅をしながら、その独特の価値観で異世界に変革をもたらしていくという物語です。
本記事では「異世界失格」のあらすじや主な登場人物の紹介を踏まえ、その魅力について深掘りしてまいります。
「異世界失格」あらすじ(ネタバレ注意)
昭和23年6月13日のある雨の日、ある文豪が愛人と玉川上水で入水自殺を図ろうとしていました。
しかしその直前、異世界トラックが乱入し、二人は異世界ザウバーベルグへと召喚されてしまいます。
愛人のさっちゃんとは別々に転移することになる文豪。
彼は異世界転移者の案内役を務めるエルフの女神官アネットから、自分が世界を救う勇者として召喚されたことを告げられた文豪こと「センセー」は、心中を邪魔された不満からそれを無視。
愛人のさっちゃんが同じこの世界にいることを気配で感じ取った「センセー」は彼女を見つけ出し、心中を果たすべく旅立つことになります。
しかしこの「センセー」は異世界転移者なら誰もが持っているはずの「神授の力(ギフテッド)」と呼ばれるチート能力を持っておらず、今すぐにでも死んでしまいそうな貧弱ステータス。
加えてこの世界には「センセー」以外にも多数の転移者が召喚されており、そのチート能力を使って問題行動ばかり起こしていました。
魔王を倒し、ザウバーベルグを理想世界へ作り変えることを宣言した七人の強力な転移者「七堕天使」。
そして「七堕天使」と相対し、裏で世界を操ろうとする、数多の転移者を召喚・管理してきた「世界教団(ヘルゼーエン)」。
そして殺された憤怒の魔王の残党。
混沌とする世界で、「センセー」は自由気ままに「さっちゃん」を探しながら自殺願望と作家としての執筆願望を満たすべく旅を続けていきます。
そしてその旅の中で、図らずも転移者をはじめとした世界の闇と対峙することになるのですが……
「異世界失格」主な登場人物
センセー(太宰治とは明言されていない)
本作の主人公。
作中では本名不詳の文豪で周囲からは「センセー/先生」と呼ばれているが、もはや隠すつもりのない太宰治。
マイペースでダウナー系、自殺願望モリモリのダメ人間で、同じく異世界に転移している愛人の「さっちゃん」を探しだし、心中を果たすべく旅立つことになる。
催眠剤の「カルモチン」を常用し「もうどく」状態がデフォルト。
薬が切れて健康になると落ち着かなくなるほどの筋金入りのジャンキー。
自殺願望は強いが、実はそれ以上に作家としての執筆願望が強く、興味のある題材を見つけると危機として執筆を始める。
当初、チート能力は持っていないと思われていたが、特定条件下(恐らく執筆願望が高まった時)でスキル「執筆(ストーリーテラー)」が発現。
転移者を元の世界に送り返すことも可能であり、この世界の鍵を握る存在として騒動の中心に巻き込まれていく。
アネット
異世界に召喚された「センセー」の案内役を務めたエルフの女神官。
次々とやってくる我儘なテンプレ異世界転移者の相手を務めている内に心を閉ざし、定型文を繰り返すだけの煽て役となっていたが、劇薬そのものの「センセー」と遭遇したことで強い衝撃を受ける。
何故か「私はこの方が来るのを待っていたんだ」と思い込み、「センセー」に尽くし、共に旅をすることに。
元々アネットがダメンズ好きだったのか、「センセー」がそういう女性を惹きつける資質があったのか……恐らく両方。
世界教団では司教の地位にあったが、センセーのためにあっさり退職している。
タマ/マチルダ
猫耳獣人の武闘家の少女。
デスツリーなる魔物に襲われていたところを偶然「センセー」に助けられ、成り行きで一緒に旅をすることになる。
「センセー」から「タマ」と呼ばれ当初本名が不明だったが、後に亜人の国「グリューン」の王女「マチルダ姫」であったことが判明する。
まだ未熟だが武闘家としては才能は一流。
名前が判明した後も仲間からは「タマ」と呼ばれ続ける。
ニア
「センセー」たちが旅の途中で出会った孤児で剣士見習いの少年。
「センセー」たちから金をだまし取ろうとしたが、逆に「センセー」に助けられ、彼らの旅に同行することに。
まだ幼く、戦闘能力は低いが鍵開けなどの技術は中々のもの。
また彼が持つ剣は凄まじい力を秘密が隠されている。
ウォーデリア
転移者「七堕天使」に殺された憤怒の魔王の娘。
龍族でリュカというドラゴンを従えている。
強力な力を持つが無闇に周囲を攻撃するようなことはなく、基本的には心優しい少女。
ただし父を殺した転移者には強い恨みを持っている。
さっちゃん
「センセー」の心中相手だった女性。
「センセー」とは別の場所に、早いタイミングで召喚されていた。
「七堕天使」の一人として活動しており先生を探していた。
チート能力は「傲慢不遜(プライド)」で、精神支配系。
モデルは太宰治の心中相手である山崎富栄と思われる。
「異世界失格」感想&評価
異世界転移テンプレなろう系ではあるのだが……
まずタイトルと表紙を見た時の第一印象は「よくある異世界転移テンプレなろう系」かな、というもの。
転移者を太宰治にして、インパクトと変化を付けようとしているのだろうけど、まあ軽いノリの話なんだろうな、と思っていました。
実際に読んでみると、確かに異世界転移テンプレなろう系ではあるのですが、世界観やキャラクターがしっかり作り込まれていて意外にしっかりしているな、というもの。
メインキャラクターはテンプレでざっくりした印象が強いのですが、脇を固めるそれ以外のキャラクターにしっかり物語があって、読みごたえがある作品。
浅くてすいすい読み進められる部分と、読みごたえがあって考えさせられる部分が両方あって、その二つが並存している印象です。
こんな人におススメ
とっかかりが”なろう系”なので、基本的にはそういった作品に抵抗が無い方におススメの作品です。
ただそれだけの一発ネタ作品ではないのですが、やはり異世界ものに抵抗がある方にはキツイ内容だと思います。
その上で、テンプレの量産型”なろう系”に食傷気味の方には是非読んでいただきたい良作。
良い意味で”なろう系”らしい魅力にあふれた作品と言えるでしょう。
序盤はネタ多めですが、後半に行くにしたがってどんどん良くなっていくので、できれば離脱せずに読み進めていただきたい。
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