今回は浅野いにお先生がビッグコミックスピリッツで連載中の「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」、通称「デデデデ」について紹介します。
長くて意味不明なタイトルに釣られて手に取ったこの作品、当初はシュールでかわいいキャラクターと独特の世界観に惹かれて読んでいましたが、物語が核心に近づくにつれその印象は一変。
理解した上で読み返すと、ただただ「凄まじいSFサスペンス作品だなぁ」と。
本記事ではこの作品の魅力について、若干のネタバレも交えて語っていこうと思います。
「デデデデ」あらすじと用語解説(ネタバレ注意)
あらすじ(ネタバレ注意)
物語の始まりは3年前の8月31日、突如東京都の空に巨大な円盤が現れ、宇宙からの侵略者によって多くの死傷者を出す大事件が発生しました。
後に、この事件は「8.31」と呼ばれることとなります。
人類はそのまま滅びてしまうかと思われましたが、アメリカ軍の攻撃で侵略者の母艦は動きを止め、散発的な攻撃はあるものの自衛隊などによって逐次迎撃され、危ういながらも一先ずの平穏がもたらされていました。
この物語の主人公は、そんな空に宇宙船が浮かぶ光景が日常となった東京に住む二人の少女、小山門出、中川凰蘭。
高校卒業を控えた彼女たちは、侵略者の存在に不安を抱えながらも友人たちとともに青春を謳歌していました。
しかしある日、侵略者の中型船の墜落によって友人の一人を無くし、喪失感を抱えたまま大学へと進学することになります。
この時すでに、人類終了までに残された時間は僅かしか残っていませんでした。
過激な侵略者狩りが行われる一方で、侵略者たちの目線で語られる真実。
侵略者たちにも家族や幸せがあって、決して現状は彼らにとっても望んだものではありませんでした。
そんな中、大学に進学した門出たちはアイドルだった大葉圭太の姿をした侵略者と出会い、何故か同居を始めることとなります。
そして門出たちが所属しているミステリー研究会の夏合宿で、大葉の口から実は凰蘭が並行世界から来たタイムトラベラーであることが語られます。
並行世界で門出は人類に先んじて侵略者と接触し、そこで得た力を切っ掛けに自分が信じる正義を歪んだ形で振りかざし、そのことを悔やんで自殺。
凰蘭はそんな門出を救うために過去に戻り、現在の世界で独り奮闘していたのです。
様々な秘密が次々と明かされる中、迫る人類終了のタイムリミット。
果たして少女たちはどんな結末を迎えることになるのか……
世界観・用語解説(侵略者、A線、イソベやん)
侵略者
宇宙船(通称:母艦)によって地球にやってきた宇宙人。
小柄で人間の子供にヘルメットを被せたような外見をしている。
侵略目的は不明で、一部の例外を除いて人類とは互いに意思疎通が取れていない。
迎撃態勢が整った今ではほとんど人類の脅威とはならず、一方的に虐殺されている。
A線
3年前にアメリカ軍が侵略者の母艦に放った「A」という爆弾、そこから放たれる有害物質のこと。
所謂、放射能的なもの。
イソベやん
作中で登場する国民的漫画。
所謂、ドラえもんのパロディと思われる。
ただし、内容的にはかなりシニカルでひねくれたものとなっている。
「デデデデ」主な登場人物(ネタバレ注意)
主人公①小山 門出(こやま かどで)
本作の主人公の一人で、外見は黒髪ショートカットでメガネをかけた地味な雰囲気の少女。
中川凰蘭とは小学校時代からの友人で、ともにFPSをプレイする戦友。
小学校時代は小柄で無口だったことからいじめられており、名前をもじった「デーモン」というあだ名をつけられていた。
高校の担任、渡良瀬に片思いをしていたが、渡良瀬には「卒業したらセフレに」などとかわされ続けている。
中川凰蘭の兄とは幼い頃に結婚の約束をしたが、現在は「デブは無理」とあっさり拒否している。
「イソベやん」の愛読者であり、そのグッズなども身に着けている。
主人公②中川 凰蘭(なかがわ おうらん)/おんたん(正体はタイムトラベラー)
本作の主人公の一人で、太めの眉と黒髪ツインテールが特徴の少女。
妄想癖が激しいボケ担当で、発言も行動も非常にバカ。
実家は「中川自動車」という会社を経営しており、母親は政治家をしている。
門出からは「おんたん」と呼ばれている。
実は自殺した門出を救うために過去へ遡ったタイムトラベラーであり、ただのバカではなかった。
大葉圭太の姿を偽装した侵略者と知り合い、想いを寄せていく。
その他(大葉圭太、田井沼マコトなど)
大葉 圭太(おおば けいた)
アイドルグループ「LOVE♡無限大」のメンバーだった少年……の姿を借りた侵略者。
本物は既に死亡者認定されている。
大学に進学した門出たちと知り合い、門出や凰蘭の秘密を明かしていく。
出元 亜衣(でもと あい)
門出たちの高校時代の同級生で仲良し5人組の1人。
メガネと三つ編みが特徴のとても小柄な少女。
卒業間近に告白してきた男を、いい人過ぎて辛いといってふっている。
平間 凛(ひらま りん)
門出たちの高校時代の同級生で仲良し5人組の1人。
長い黒髪と長身、三白眼が特徴の少女。
所謂腐女子で、BL的なものを愛している。
出元亜衣とは幼稚園の頃からの親友。
栗原 キホ(くりはら きほ)
門出たちの高校時代の同級生で仲良し5人組の1人。
太めの眉とボブカットが特徴の少女で、5人の中で1人だけ高校に入ってからの友人。
仲間たちに先んじて彼氏を作るが、その彼氏も思想的に色々問題があり、別れる。
高校卒業を間近にして、侵略者の中型船の墜落に巻き込まれあっさり死亡。
田井沼 マコト(たいぬま まこと)
門出たちの大学に入ってからの友人。
一見するとあか抜けないロングヘアの少女だが、本体は丸坊主で出っ歯の少年。
要は女装癖のある男。
別に同性愛者とかではなく、単に周りに愛されるかわいい自分でありたいという願望が歪んだ結果。
竹本 ふたば(たけもと ふたば)
門出たちの大学に入ってからの友人。
マコトとは中学時代の同級生でもある。
大学入学後は侵略者を擁護する団体「SHIP」に参加し精力的に活動しており、それを切っ掛けに人間関係が悪化していく。
門出と同じイソベやんの愛読者。
中川 ひろし(なかがわ ひろし)
凰蘭の兄で、現在は引きこもりニートのデブ。
昔は細身の美男子でったが、今は顔のパーツを除いて見る影もない。
アフィリエイトでそれなりの収入を得ているため、厳密にはニートではない。
渡良瀬(わたらせ)
門出たちの高校時代の担任で、メガネをかけた無気力な感じの男性教師。
学生時代から付き合っている女性がいたが、門出たちの卒業後に分かれた模様。
「デデデデ」の感想&評価
序盤は「浅野いにお」の独特の世界観とキャラクターに引き込まれる
まず序盤は、侵略者という非日常の存在が日常に溶け込んだ独特の世界観と、アクの強いシュールなキャラクターたちに引き込まれていきました。
最初の印象は実の災害とか原発とか、そういう社会問題を風刺している作品なのかな、といったものでしたが、「おんたん」たちが非常にぶっ飛んだ良いキャラクターをしているので、「そういう要素もある」ぐらいのものでしたね。
とにかく宇宙船や侵略者、街の細かな描写など、画力が非常に高く、それが少し崩した間抜けな雰囲気の登場人物たちとマッチして、不思議な魅力を発しているところが非常に良かったです。
おんたんの正体を知ってから何度も物語を読み返す、タイトルの意味
作品の印象がガラッと変わったのは「おんたん」の正体がタイムトラベラーだと判明したところでしょうか。
それまで、ただただ間抜けな馬鹿という印象しかなかった「おんたん」にこんな過去があったんだと驚き、そしてそれまでの物語を再び読み返す。
同じ作品を読んでいるはずなのに、そうだと理解して読むとまるで違った作品に感じられるから不思議ですね。
クソ長いタイトルも、意味が分かってくると「なるほど」という感じ。
デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション
デッドは死んだ門出、デーモンが複数形なのは門出と「おんたん」、デッドも両方にかかっているのかな。
デデデデは最後のデストラクションを強調しているのでしょうが、それは物語の結末に繋がっていくのでしょうね。
様々な伏線が散りばめられた、壮大でシュールな世界観。
こんなSFがあったのかという内容ですので、是非是非皆さんもご一読を。
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