今回はあの「鬼灯の冷徹」の作者、江口夏実先生が「モーニング」で連載中の話題作「出禁のモグラ」について紹介します。
「出禁のモグラ」とは現代日本を舞台に、”あの世から出禁をくらった”自称仙人の男、モグラを中心として描かれるオカルトギャグストーリー。
江口先生独特のあのシュールな世界観が今度は現代に移植され、非常にポップで馴染みやすい作品となっています。
「出禁のモグラ」あらすじ(ネタバレ注意)
地獄から出禁をくらった自称仙人の男、モグラ
大学で児童文学論を専攻する真木(21歳♂)と八重ちゃん(20歳♀)は、ある日広辞苑が脳天に直撃して倒れている男、モグラに出会います。
(ちなみに容疑者は同じゼミの”バチクソ陽キャ体育会系マッチョ”の藤村、筋トレ代わりに振り回した広辞苑が直撃した模様)
真木たちは救急車を呼びますが、モグラは頭から血を流しているにも関わらず、救急車はまずいと走って逃げ出してしまいます。
モグラを追いかけてついていきますが、モグラが元気そうなこともあり、いったんは帰る真木たち。
しかし翌日、やはり気になってモグラが住む「もぐら湯」という銭湯を訪れるのですが、そこで何とモグラと関わったことで霊が見えるようになっていることに気づきます。
実はモグラは罰を受けてあの世から出禁をくらってしまった仙人(自称)。
普通の人は魂に蓄えられた”鬼火”によって死ねばあの世に行けるのですが、モグラはお天道さんに鬼火を持つ権利を剥奪されており、死んでもあの世に行けません。
そのため、彷徨う幽霊を見つけてはその鬼火の一部を頂戴し、あの世に行くための鬼火を貯めているのだと言います。
成り行きからモグラがあの世に行くための手伝いをすることに
モグラは真木と八重ちゃんに、鬼火を貯めたいので幽霊に遭遇したら自分に教えて欲しい、と協力を依頼します。
成り行きから協力することになる二人。
そんな中、八重ちゃんのバイト先に犬飼という少女が新人として入ってくるのですが、何と彼女はとんでもなく幽霊に憑かれやすい体質(ただし霊感無し)。
犬飼のことをモグラに伝えますが、幽霊の中には厄介なのもいるわけで、モグラ一人で”はい解決”とはいきません。
しかしそんな厄介な幽霊もモグラの知り合いで祓い屋の猫附梗史郎が処理してくれます。
かくして、幽霊が見える真木と八重ちゃん、幽霊を引き寄せる犬飼、危ないのを祓える梗史郎と、モグラにとって理想的なメンバーが集まり、鬼火を貯めてあの世へ行く望みが現実的なものとなっていきます。
モグラにとっては都合の良い展開ですが、そもそも何故モグラは罰を受け、あの世から出禁をくらっているのか。
そしてモグラとは一体何者なのか。
物語の核心はまだまだ謎に包まれています。
「出禁のモグラ」主な登場人物(ネタバレ注意)
百暗 桃弓木(もぐら ももゆき)/モグラ
本作の主人公であり、自称仙人であの世から出禁をくらった男。
外見はもっさりした雰囲気の青年で、普段は青い甚平姿で縄で括ったカンテラを手にしている。
性格はマイペースで図々しいが、根は善人。
永く生きているせいか少し病んでおり、話し相手に飢えている。
本名は「百暗桃弓木」で、「桃弓木」は厄を払うとされ縁起が良いが、「百暗」は天照大神の真逆のようで不吉とされる。
あの世で罰を受け、誰しも魂に持っているはずの鬼火を持つことをお天道さまに禁じられている。詳細は次の通り。
①モグラはあの世から出禁をくらっている=この世で生き続けなければならない。
ただし措置が一つ設けられている→②へ。
②カンテラには亡者の出す火の玉(魂のカス灯)が貯められる。
③カンテラの灯は貯まりきればあの世へ導く「灯」となるが、一方で飲めば延命作用がある。
どのくらい貯めればいいのか、さて。
④例えば体が一瞬にして爆散して細切れになる等の事態になったら、はたして。
→それでもあの世には逝けない(どうなるかは現在不明)。
⑤モグラは要するに、ポジティブな意味で「早く寿命が来て欲しい」。
かつては金を払って戸籍を作ったこともあるが、そのせいで1942年に徴兵されてしまい、それ以降は戸籍を作っていない。
徴兵された際、どうも八重ちゃんの曾じいさんをカンテラの灯で救ったらしい。
あの世に行けないだけで普通にお腹はすくし、怪我もするし老ける。
それをカンテラの灯で調整しているので、全然灯が貯まらない。
また金もないので、病気などになれば余計にカンテラの灯を消費してしまう。
誰が考えたかは不明だが、よくできた(=性質の悪い)刑罰。
元々は「オオカムヅミの弓」という名の神様。
オオカムヅミとは日本神話に登場する桃で、イザナギノミコトがその桃の実を投げて黄泉の住人を退散させたことに由来する。
真木 栗顕(まぎ くりあき)
本作の狂言回しで、大学で児童文学を専攻する21歳の青年。
外見はメガネに顎ヒゲの暗い雰囲気の陰キャで、あまり明るい青春を送っていないタイプではあるが、非常にお人好しで面倒見がよい。
文系オタクでそっち方面は色々詳しいが、オカルト関係は大の苦手。
ただそれ以上にマイペースで自分勝手な陽キャが嫌い。
同じゼミの八重ちゃんとはよく一緒に行動しているが、(今のところ)付き合ってはいない。
レッサーパンダの霊とコンビを組むこととなる。
桐原 八重子(きりはら やえこ)/八重ちゃん
真木と同じゼミの20歳の少女。
外見は外側に跳ねた色素の薄い髪を肩のあたりで切り揃えた小柄な少女で、中学生ぐらいに見られることもある。
性格は基本は明るく優しい普通の少女だが、あまり馴れ馴れしい陽キャは好きではない様子。
また、かなりの貧乳であり、そのコンプレックスを刺激されると途端に卑屈で面倒くさくなる。
真木のことはまんざらでもない様子。
割とガチでヤバい一族に支配された田舎の島の出身。
犬飼 詩魚(いぬかい しお)
八重ちゃんのバイト先(喫茶店)の新人ウエイトレスで15歳の女子高生。
外見はゆるふわのロングヘアを二つに結んだ非常にスタイルの良い少女。
性格は非常に明るく天然で、物事を深く考えないパワフルなタイプ。
非常に霊に憑かれやすい体質で、その影響で常にお腹が空いていて大食い。
ただし霊感は全くなく、幽霊は見えない。
かなりの筋肉であり、筋肉業界ではかなり有名な一族の娘さんらしい。
猫附 梗史郎(ねこづく きょうしろう)/化け猫:ナベシマ
祓い屋で犬飼と同じ高校に通う3年生。
外見は非常に鋭い目つきをした眉毛が薄めの少年でひょろい。見た目通り物言いはキツイが、何だかんだ面倒見は良い。
猫附家は元々化け猫憑きの血筋で、それを祓い屋として稼ぐ手段に変えている。
彼らの除霊方法は、御幣を模した猫じゃらしでひたすら化け猫の機嫌を取り、上手く化け猫に猫パンチをお見舞いしてもらうというもの(たまに幽霊が喰われることも)。
梗史郎は巨大な黒猫(鼻の頭と腹は白い)のナベシマに憑かれており、普段はナベシマにじゃれつかれて結構ストレスを溜めている。
ちなみに、梗史郎は未成年なのでタダでお祓いをしてくれる(それをモグラが都合よく利用している)。
猫附 藤史郎(ねこづく とうしろう)/化け猫:イケブクロ
梗史郎の父親で真木と八重ちゃんが専攻するゼミの顧問。
外見は息子の梗史郎そっくり。
幻想文学論の教授で自身も幻想小説家だが、実はそれは実体験を物語に落とし込んだもの。
巨大な白猫のイケブクロに憑かれており、そのせいで肩が凝っている。
猫附家の当主で一流の祓い屋。依頼料はお高い。
猫附の一族は従来短命で、モグラの力によって寿命を永らえており、実はモグラには頭が上がらない。
猫附 杏子(ねこづく きょうこ)
藤史郎の妻。
まだ37歳と若く、明るく陽気。
藤史郎のことが大好きで、自分のことを構えと全身全霊で主張している。
EQが極めて高いためか、見た人の未来の可能性を幻視することがある。
浮雲(うきぐも)
モグラと仲の良い駄菓子屋のお姉さん。
謎めいた雰囲気の美女で、罪人であるモグラの看守役。
もの選びに関しよくわからないこだわりがあるが、ゲームのセンスは良い。
「出禁のモグラ」感想&評価
「鬼灯の冷徹」の作者が描く新作はここが面白い!
まず主人公のモグラが「仙人(?)=あの世から出禁」という発想が非常に秀逸で、思わず「そうきたか……」と笑ってしまいましたね。
舞台が現代日本ということで、読む前は霊能力者系のお話なのかな、と思っていたんですが、モグラ自身は「あの世に行けない」だけで何ら特別な力はありません。
鬼火をチャージして生命力に転換できるカンテラは持っていますが、本当にただそれだけ。
幽霊を見つけてもぶん殴るぐらいしかできないし、ちょっとヤバめのストーカー幽霊が相手だと全く歯が立たず逃げ回ることしかできません。
そんなダメ男でやけに人間臭いモグラが、何とか「ちゃんと死にたい」と四苦八苦する様子は「鬼灯の冷徹」とはまた違った魅力があって面白いですね。
ちなみにまだハッキリはしませんが、「鬼灯の冷徹」とは世界観が繋がっていそうです。
こんな人におすすめ~「鬼灯の冷徹」よりも一般受けしやい?~
まず「鬼灯の冷徹」が好きだった人には間違いなくおすすめ。
基本的な作風は変わりませんから、まず期待を裏切られることはないでしょう。
加えて「出禁のモグラ」は舞台が現代日本に移っていますから、前作の独特の世界観(地獄とか人外キャラ)が苦手だった方にも、比較的馴染みやすいものとなっているのではないでしょうか。
逆に、主人公のモグラが基本ダメ男なので、最強無敵系の主人公がお好みの方には向かないかもしれませんね。
まあそもそもがギャグ作品なので、そんなものを求める人はいないとは思いますが。
主人公のモグラや世界観はまだまだ謎に満ちており、今後の展開が非常に楽しみな作品となっていますので、是非是非皆さま今のうちにご一読を。
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