「さよなら私のクラマー」感想&評価(ネタバレ注意)~打ち切り(?)完結済でも読んで損なし、アニメ化・映画化済~


 今回は月刊少年マガジンで連載され、2021年1月号をもって完結済の女子サッカー漫画「さよなら私のクラマー」について解説します。

 この作品はアニメ化、映画化もされており、当然原作漫画も人気は高かったのですが、最終回の内容から打ち切り説が流れ、ファンからの批判をかった問題作でもあります。

 しかしながら内容そのものは非常にクオリティが高く面白い良作。

 本記事では打ち切り説の真相やあらすじ、タイトルの意味、アニメや映画の概要なども含め、その魅力を語ってまいります。

「さよなら私のクラマー」あらすじ(ネタバレ注意)

女子サッカーの現実と少女たちの情熱を描いた物語

 物語の舞台は蕨青南高校女子サッカー部、通称「ワラビーズ」

 元女子サッカー日本代表の能見奈央子がコーチに就任したワラビーズに、元U-15代表の曽志崎緑やそのライバル周防すみれ、男子サッカーでならした恩田希といった才能あふれる少女たちが入部するところから物語は始まります。

 ですがワラビーズは元々弱小チーム。

 能見のコネで高校女子サッカー界の頂点、久乃木学園と練習試合を組むも「21対0」で惨敗を喫してしまいます。

 しかし挫けることなくワラビーズは練習を続け、高校総体の埼玉県予選に出場し、なんと決勝トーナメントに進出。
 そこで埼玉県王者の浦和邦成相手に「2対0」で敗退こそしたものの、恩田たちが中心となって好ゲームを繰り広げます

 さらに勢いを増して、今度はJKFBインターリーグに出場するワラビーズ。

 そこで彼女たちは、かつて久乃木学園を破った栄泉船橋に激闘の末勝利し、IHを制した興蓮館相手に「5対4」での惜敗という大躍進を遂げます。

 その後、顧問である深津が情熱を取り戻したことで、さらに戦術面を強化し、万全の体制となるワラビーズ。

 彼女たちはかつて敗北した埼玉県王者、浦和邦成へのリベンジに挑みます。

タイトルの意味「クラマー」って何なの?

 タイトルがサッカーに詳しくない人間には分かりにくく、「『クラマー』って何?」と疑問に思った方も多いのではないでしょうか。

 クラマーとは人名で、日本サッカー界初の外国人コーチで「日本サッカーの父」とも称されたデットマール・クラマー氏のことを指しています。

 クラマー氏は日本サッカー界の裾野を広げることに特に尽力した人物で、この「さよなら私のクラマー」は、女子高生たちがサッカーに打ち込む物語であると同時に、女子サッカー界を取り巻く現実に悩む指導者たちの物語でもあります。

 女子サッカー界には将来が無いと悲観する顧問の深津、理想を謳って未来を切り開こうとする能見の対立軸は、そのまま女子サッカー界を取り巻く現実そのもの。

 クラマー氏は本作の連載が始まる前年(2015年)に亡くなっており、タイトルは恐らくクラマー氏への感謝と哀悼、女子サッカー界へのエールを謳ったものではないでしょうか。


「さよなら私のクラマー」主な登場人物(ネタバレ注意)

恩田 希(おんだ のぞみ)

 本作の主人公でワラビーズに所属する1年生。ポジションはMF。

 黒髪ポニーテールの快活な雰囲気の少女で、中学時代は男子サッカー部に所属していた。

 そのため試合経験は少ないが、男子と渡り合ってきたフィジカルと高いテクニックは作中でも極めて高く評価されている。

 一方、好不調の波は激しく、プレーも直接関係がない場面ではサボりがち。

 作者の前作であり、本作の前日譚「さよならフットボール」の主人公でもある。

周防 すみれ(すおう すみれ)

 ワラビーズに所属する1年生。ポジションはFW。

 スピードに長けた優秀な選手だが、中学時代は周囲に足を引っ張られ実力を発揮することができなかった

 色素の薄い髪をショートカットにした鋭い目つきの少女で、一見クール(というか不愛想)だが非常に気が強い。

曽志崎 緑(そしざき みどり)

 ワラビーズに所属する1年生。ポジションはMF(ボランチ)。

 U-15代表にも招集された実力者で、ライバルだった周防とともにプレーがしたいと、周囲の反対を押し切ってワラビーズに入る。

 広い視野と高いシュート力を持ち、守備だけでなく攻撃でも活躍する。

 マロ眉が特徴のツインテールの少女でオタク。

越前 佐和(えちぜん さわ)

 ワラビーズに所属する1年生。

 恩田希の友人で、中学時代は彼女が所属していた男子サッカー部のマネージャーだったが、高校では恩田と共に女子サッカー部に入って選手となる。

 経験が浅く、物語序盤は試合には出場せず応援やサポートに回ることが多い。

 外見はほんわかした雰囲気の癖のない可愛らしい少女。

能見 奈緒子(のうみ なおこ)

 ワラビーズの新コーチに就任した元日本代表選手。

 17歳で日本代表入りして以降、日本女子サッカー界をけん引してきたスターで、蕨青南高校の卒業生だった縁でコーチとなった。

 選手時代は「なまはげ能見」とも呼ばれた熱血タイプ。

 鋭利な雰囲気のかっこいい美人だが、日常生活はルーズで美的センスは壊滅的と割と残念。

深津 吾朗(ふかつ ごろう)

 ワラビーズの顧問をしている男性。

 外見は三白眼でチンピラっぽい。

 サッカーに興味を示さず、いつも競馬雑誌を読みふけっていてあまりやる気は見えないが、その戦術眼は極めて高い。

 元は将来を嘱望されるサッカー選手だったが、怪我で引退。その後、監督の道に進むも周囲との不和が原因でサッカーへの情熱を失う。

井藤 春名(いとう はるな)

 高校女子サッカー界の頂点、久乃木学園女子サッカー部の1年。

 ポジションはMFで、高いパスセンスとボールキープ力、多彩な発想力を武器に天才と称される。

 ワラビーズとの練習試合以降、恩田希のプレーに惹かれるものを感じており、恩田のライバル的な立ち位置のキャラクター(になるはずだった)。

佃 真央(つくだ まお)

 高校女子サッカー界の頂点、久乃木学園女子サッカー部の1年。

 ポジションはDFで、運動量が持ち味のパワフルなサイドバック。

 そばかす顔が特徴の気の強い少女で、周防とは喧嘩するほど仲がいいを体現する関係。

 趣味は謎のポエム。

梶 みずき(かじ みずき)

 高校女子サッカー界の頂点、久乃木学園女子サッカー部の2年。

 ポジションはFWで、U-15代表の元主将でもある。

 非常に厳しい人物で、伊藤たち直属の後輩はもちろん、元U-15代表で後輩だった曽志崎も頭が上がらない。

桐島 千花(きりしま ちか)

 埼玉県高校女子サッカー界の強豪、浦和邦成女子サッカー部の2年。

 ポジションはDF(ボランチ)で、高い運動量とセンスで広域をカバーする守備の要。

 曽志崎の中学時代の先輩でもあり、中学時代はダブルボランチを組んでいた。

 ちょんまげ頭が特徴で、試合中はスポーツ用のゴーグルを着用している。

 自分の誘いを蹴って弱小校に行った曽志崎には複雑な思いを抱いている。

天馬 夕(てんま ゆう)

 埼玉県高校女子サッカー界の強豪、浦和邦成女子サッカー部の2年。

 ポジションはFWで、高いセンスを持つ攻撃の要。

 見た目は完全なロリータ系美少女だが、中身はかなりキツイ毒舌家でもある。

 能見奈緒子のファンというかわいらしい一面も持つ。

安達太良 アリス(あだたら ありす)

 埼玉県高校女子サッカー界の強豪、浦和邦成女子サッカー部の2年。

 ポジションはFWで、天馬とコンビを組む。

 ボサボサの長髪と長身の猫背が特徴の貞子系女子で、オタク。

 天馬に誘われてサッカーを始める。


「さよなら私のクラマー」感想&評価

少女たちの青春と女子サッカー界へのエールが描かれた良作

 本作は、不遇な環境にある女子サッカー界の現状を描きつつ、そこで躍動する少女たちの青春を描いた物語です。

 序盤は特に「このままでは女子サッカー界そのものに将来がない」といった、問題提起的なニュアンスが強かったですね。

 女子サッカー界の将来を憂い、それを変えようと奮闘する大人たちや強豪校のライバル選手たち。

 しかしそれと対比するように、作中では主人公たちワラビーズがシンプルにサッカーを楽しむ姿が描かれており、あまり説教臭くないところが良かったです。

 女子サッカー界に色々と課題はあるにせよ、まずはこうしてサッカーを楽しむ少女たちが増え、競技人口の裾野が広がることが何より大切、ということなのでしょう。

アニメ化、映画化の概要

 本作は2021年4月にアニメ化、そして2021年6月には映画化もされています。

 TVアニメは1クールで、序盤の浦和邦成戦とその後のインターリーグに挑む前のワラビーズの姿が描かれています。

 そして映画は「さよなら私のクラマー ファーストタッチ」というタイトルで、恩田希の中学時代、男子サッカー部時代を描いた物語です。

 つまり実際には、「さよなら私のクラマー」ではなく、前日譚「さよならフットボール」が映画化されているということですね。

打ち切り完結と言われる理由、その最終回とは?

 さて、このようにメディア展開も進み、非常に人気のあった「さよなら私のクラマー」ですが、その最終回は非常に唐突で消化不良な内容であり、ファンからは「打ち切り」を疑う声も上がっていました。

 最終回は埼玉県予選に挑むワラビーズの試合内容がダイジェストで描かれ、決勝で浦和邦成といざ再戦、というところで唐突に終了。

 「俺たちの戦いはまだまだこれからだ」的な、典型的な打ち切り最終回となっています。

 それまでが非常に良かっただけに、これについてはシンプルに残念ですね。

 ただ、実際には打ち切りではなく、連載当初からこういった形で終わることが作者の中で決まっていたのだとか。

 つまり出版社側はもっと続けて欲しかったけど、作者が打ち切った(本人的にはやり切った?)という感じなんでしょうかね。

 繰り返しますが、ただただラストは残念でした

 しかし、それまでのストーリーは非常に面白いものとなっていますので、間違いなく読んで損のない内容です。

 ラストは……期待する声が増えれば続編でねぇかなぁ?



コメント

タイトルとURLをコピーしました