今回は「ハコヅメ」の作者・泰三子先生がモーニングで連載中の本格幕末コメディ「だんドーン」について解説します。
この作品の主人公はほぼ知名度ゼロの男「川路利良」。
後に「日本警察の父」と呼ばれる幕末の薩摩藩士で、「ハコヅメ」ファンには「天パじゃない源」と言えばイメージしやすいかもしれません。
話そのものはコミカルで読みやすい一方、複雑な時代の物語故の難しさもあるこの「だんドーン」。
本記事ではそのあらすじや登場人物の解説を踏まえ、忌憚のない感想を語ってみようと思います。
「だんドーン」あらすじ
龍馬が薩長同盟を仲介し、新選組が御用改め、薩摩が英国に結果を売った時代、幕末。
その激動の歴史のど真ん中にひっそりと隠れて、しっかり『仕事』をした男がいた。
彼は「愛国者」か「裏切者」か。
物語の主人公は、時の薩摩藩主・島津斉彬(しまづなりあきら)に目をかけられ、お伴として連れられていた下級藩士・川路正之進(かわじしょうのしん)。
後に川路利良(かわじとしよし)と改名し、日本の近代警察を作ることになる男です。
あらゆることに察しがいい川路は、陣列太鼓の皆伝を得るなどよく分からない才能を開花させ続け、島津斉彬に気に入られていました。
島津斉彬は西洋の列強国に脅威を抱き、藩単位でバラバラの日本を一つにまとめ皆で力を合わせたいと考えていました。
そんな彼が人々の心をまとめる英雄として目を付けたのが、純朴で空気が読めない西郷隆盛。
島津斉彬から西郷の補佐を命じられた川路は、戸惑いながらも島津斉彬の思いを汲んで西郷を英雄に仕立て上げることを決意。
情報工作と印象操作で西郷を変革の旗印に仕立て上げようと真っ黒なっことを考えます。
しかしいくら川路が黒くても簡単にはいかないのが幕末という時代。
島津斉彬の政敵である大老・井伊直弼と彼に仕える忍び・多賀者(たがもの)が川路たちの前に立ちふさがり、主君である島津斉彬も彼らに暗殺されてしまいます。
それでも川路は島津斉彬の遺志を継ぎ、西郷たちと共に国を一つにまとめるべく奮闘するですが……
「だんドーン」主な登場人物
川路利良(かわじとしよし)
本作の主人公で薩摩藩の郷士出身の青年(ギリ武士身分)。
幼少期に時の薩摩藩主・島津斉彬の前で膝太鼓を見せ彼を笑わせたことが切っ掛けで、お伴として取り立てられることになる。
島津斉彬に深い忠誠心を抱いており、彼のためなら何でもやれる真っ黒な男。
物事の本質を察する力が高く、陣列太鼓を始め様々な才能を開花させることになるが、一番すごいのは人がされて嫌なことがわかっちゃう才能。
見た目や性格を一言で言うなら「天パじゃない『ハコヅメ』の源誠二」。
後に初代大警視(現警視総監)を務め、日本近代警察を構築した「日本警察の父」と呼ばれる男。
西郷が下野した際、多くの薩摩藩士は西郷に付き従ったが川路は、
「私情においてはまことに忍びないが、国家行政の活動は一日として休むことは許されない。大義の前には私情を捨ててあくまで警察に献身する」
と政府に残留。
その後西郷暗殺を指示したり、西南戦争時は政府軍として西郷軍と戦ったことから、地元鹿児島県では「裏切者」として長らく評価が低めだった。
西郷隆盛(さいごうたかもり)
薩摩隼人の代名詞として知られる幕末の有名人。
本作では空気が読めない朴訥で真っ直ぐな男として描かれている。。
島津斉彬に気に入られて取り立てられ、川路を補佐に様々な密偵を任せられるようになる。
空気を察せないことが逆に「嘘のつけない人間」だと騙し合いの世界に身を置いているお偉方に気に入られる。
島津斉彬(しまづなりあきら)
時の薩摩藩主で川路や西郷を取り立てた主君。
気さくで温厚な人柄であり、国を憂う英明な頭脳の持ち主。
西洋列強国の脅威に対抗するため国が一つにまとまるべきと訴えていた。
しかしそれ故に藩内外に敵が多く、子供は次々謎の夭折を遂げ、寝所が放火されたことさえある苦労人。
ある意味本作序盤のヒロインであり、彼のために川路たちは命を懸けた。
タカ
大老・井伊直弼の密偵・多賀者(たがもの)の頭領を務める女。
見た目は美しいが本物の化け物であり、情報戦を担う川路の最大の敵。
敵よりも部下の方が彼女を恐れている。
薩摩藩主・島津斉彬を暗殺する。
「だんドーン」作者インタビュー(タイトルの意味など)
「モーニング」で「だんドーン」が連載開始された直後、秦三子先生が「だんドーン」を描こうと思った切っ掛けや当時の状況などについてインタビューで語っています。
元々「ハコヅメ」連載終了後、もっと早く「だんドーン」が始まる予定でしたが、ご主人が亡くなったことなどもあり、「だんドーン」の連載開始が遅れたそうです。
というかそもそも「だんドーン」は秦三子先生の妄想を連ねた川路の同人誌という位置づけらしく、最初はホントに同人誌としてやろうと思っていたみたいですね。
インタビューでは印象的なタイトルの意味についても触れられており、
「川路の陣太鼓から始まるのと、鹿児島弁の“どん”、あとはダン! ドーン!っていう勢いのある感じ、からきているんですけど、それ以外にも結構凝った意味があるんですよ。試しに姉に話したら『なんでそんなタイトルをつけるの……』ってポロポロ泣いたんです。大成功だ、と思いました(笑)。最後にタイトルを回収できるように、頑張って描きます!」
https://gendai.media/articles/-/110716?imp=0
「だんドーン」感想&評価(面白い?つまらない?)
コメディタッチながら本格的な歴史もの
「だんドーン」は史実をベースに川路たちの暗闘をコミカルに描いた作品。
随所に作者の妄想というか創作が混じってはいますが、基本的には幕末の政変の流れをキチンと描いた内容となっています。
川路のキャラがハッキリしているので読みやすく、彼らがやっていることの政治的な意味が分からなくてもゲラゲラ笑いながら読めるのが特徴。
ついでに意味不明な下ネタとかがちょいちょい挟まれているところも良いですね。
ただ今はコンビで仲良くやっている川路と西郷が、史実通りならいずれ決別し、西南戦争で戦うことになってしまうというのが、歴史を知っている身としては悲しいところ。
果たして二人が今度どのような道を辿って決別することになるのか、注目ですね。
複雑さについていけない可能性も?
「だんドーン」は単話、単話で見れば非常に読みやすい作品なのですが、そうはいってもやはり歴史もの。
時代が複雑な幕末ということもあり、その流れはそれなりに難解です。
秦三子先生は非常に分かりやすく描いてくださっているのですが、やはりこの時代の日本の歴史を描くのは大変ですからね。
途中で何をやっているのか分からなくなって、それを「つまらない」と言い換え離脱する人というのもやはり一定数いるようです。
これはもう、作品のテーマ上どうしようもないことなのかな、と。
同じ歴史ものでも戦国とかは天下統一とか国盗りとかやってることが分かりやすいんですが、幕末はねぇ……
こればっかりは合う合わないがあるのでどうしようもありませんから、まずは1巻分読んでみてからそれを判断してもらうしかないのかな、と。
週刊で細切れに読むよりは、コミックスで通して読んだ方が分かりやすいとは思います。
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