今回は大人気漫画「ゴールデンカムイ」から、物語の中でも異色を放つ傑作回「シマエナガ」について解説したいと思います。
シマエナガと言えば、雪の妖精と呼ばれ色んな所で大人気のあの真っ白な小鳥。
ゴールデンカムイではシマエナガと主人公・杉元佐一の交流が丸々一話を使って描かれており、その意味不明な展開とゴールデンカムイらしい結末で読者の話題を攫っていきました。
本記事ではその概要や、話中で使われている元ネタ(パロディ)などを中心に、この回が話題となった理由を語ってまいります。
「ゴールデンカムイ」シマエナガ回とは(何巻・何話)
23巻228話、遭難した杉元とシマエナガの交流が描かれた箸休め回
ゴールデンカムイにおいてシマエナガ回が描かれたのはコミックス23巻228話。
物語で言えば、杉元たちが刺青囚人の一人、海賊房太郎を探して空知川を訪れた際の出来事です。
一種の箸休め回だったのでしょうが、ゴールデンカムイとかわいい動物、これほど混ぜたら危険なものもありません。
捜索の途上で霧が濃くなり、アシリパは杉元が松田平太との交戦で骨折していたこともあり、近くのコタン(集落)に戻って霧が晴れるまで待とうと提案します。
平気だと強がる杉元は、足元で怪我をして動けなくなっている「シマエナガ」を発見。
かわいいなぁと乙女な杉元がシマエナガに話しかけている間に、杉元はアシリパたちとはぐれ、遭難してしまいます。
霧の中に取り残された杉元はシマエナガとともにサバイバル生活を送ることに。
一話丸々使って、杉元とシマエナガの心温まる交流とその悲しい結末が描かれています。
何故そんなに話題になったの?
この回が特に話題となった理由は大きく二つあると考えています。
一つは杉元佐一という男の極限の姿が描かれていた点。
この回では最終的に空腹で追い詰められた杉元がシマエナガを食べてしまうのですが、そこに至るまでの葛藤が本当に切ない。
シマエナガもかわいいし、杉元は乙女だし、一話丸々使って交流を描いているから情も湧いているし。
これがアシリパだったら、せいぜい1~2ページであっさり食してるので感慨もくそもないですよね(アザラシのように)。
もう一つは箸休め回ということで作者が好き放題やっているのか、がっつりパロディが織り込まれている点。
一話に二つもパロディが入っている回というのは他にないんじゃないでしょうか(詳細は後述)。
「ゴールデンカムイ」シマエナガ(ウパシちゃん)と杉元佐一
怪我をしたシマエナガを保護して遭難した杉元
「あらあらどうしたの?」
「こんなところで」
「飛べないのかい?」
「羽を怪我したのかな?」
足元で鳴くシマエナガにそんな乙女な言葉遣いで話しかけ、優しく保護した杉元。
しかし呑気に話しかけている間に、彼はアシリパたちとはぐれ遭難してしまいます。
杉元は遭難当初はすぐにアシリパが迎えに来てくれると安心し、手持ちの食料をシマエナガに分け与えるなど、優しさ溢れる姿を見せていました。
シマエナガのことはアイヌ語で「ウパシチリ(=雪の鳥)」と呼ばれていることにちなんで、「ウパシちゃん」と呼んでいましたね。
遭難中はずっとシマエナガに話しかけ、シマエナガもそれに返事をするような仕草をみせるなど、本当にハートフルな触れ合いが描かれていたのです……途中までは。
かわいい動物とゴールデンカムイ……結末は最初から見えていた
親交を深めていく一人と一羽。
しかし、訓練されたゴールデンカムイの読者たちは「かわいい動物」と「ゴールデンカムイ」の組み合わせが如何なる結末へと至るのか、最初から察していたのです。
当初はすぐに霧が晴れて助けが来ると思っていた杉元ですが、一週間経っても霧は晴れず、アシリパ達の救出もありません。
杉元からも徐々に余裕が失われていき、次第に情緒不安定な言動が目立つようになります。
そして彼はついに一つの真理を思い出すのです。
「俺は不死身の杉元だ!」
それはつまり、生きるためならどんなことでもできる人間だということ。
空腹で追い詰められた杉元は、ついに可愛がっていたシマエナガを食べることを決断します。
「ふいいいいい~」
「ごめんなさいごめんなさい……」
狂気に満ちた表情でシマエナガの羽をむしっていく杉元は生きるという決意に満ちていました。
そしてとうとうシマエナガを口にする杉元。
その瞬間、背後には杉元を探しにやってきたアシリパの姿が。
彼はシマエナガを食べなくても助かっていたという事実を理解し、悲しみの絶叫を上げたのです。
「ゴールデンカムイ」シマエナガと元ネタ「ミスト」「ドラえもん」
話の展開が完全に映画「ミスト」
このシマエナガ回は、話の展開が完全に映画「ミスト」のパロディだということでも話題となりました。
「ミスト」とは2007年に公開されたアメリカのSFホラー映画。
不思議な霧の中に包まれた街で襲い来る怪異と、そこに閉じ込められた人々が徐々に正気を失っていく様を描いた物語です。
この作品はスティーヴン・キング原作ですが、映画化にあたって結末が変更されており、キングがその内容を絶賛したことでも知られています。
ラストでは、怪物に襲われ生還を諦めた主人公たちは自ら死を選ぼうとしますが、5人の生存者に対して手持ちの銃には4発しか銃弾がありません。
主人公は息子を含めた4人を射殺し、自分は怪物に食われて死のうと飛び出しますが……何とそのタイミングで救助が訪れ、助かってしまうのです。
後ほんの少し待っていれば、仲間も息子も助かっていたのに……主人公の慟哭が響く、とんでもないバッドエンドで有名な映画。
「霧の中」「狂気」「ラスト」
話の展開がシマエナガ回と完璧に共通しています。
救助を待つシーンのコマ割り・セリフは「ドラえもん」の「無人島へ家出」
またこの回、パロディは「ミスト」だけかと思いきや、一ページだけ「ドラえもん」のパロディも含まれていました。
該当のシーンは杉元がアシリパの救助を待つシーン。
霧が晴れず、救助もなく、時間経過で少しずつ不安にさいなまれていく杉元の変化が描かれていますが、このシーンのコマ割りやセリフが、ドラえもんの「無人島へ家出」に描かれているシーンそのものなのです。
「無人島へ家出」はのび太が家出した無人島で家に帰る手段を失い、救助を待って何年も無人島で過ごすという物語。
救助を待つ杉元とのび太の姿は本当にそっくりで、元ネタへのリスペクトが感じられましたね
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