今回は「週刊モーニング」で連載中、プロ野球選手のゼニ勘定をメインテーマに据えた異色作「グラゼニ」について紹介します。
タイトルの「グラゼニ」とは、南海ホークス黄金時代を築いた名将、鶴岡監督が言った「グラウンドには銭が埋まっている」という言葉を略したもの。
決して一流とは言えない中堅投手のお財布事情をリアルに描いた作品……だったのですが、あれよあれよと出世して、2021年12月からついに大リーグ編が開始されました。
本記事ではそんなグラゼニのあらすじ、登場人物を中心に、みんな大好き「お金の話」の魅力について語ってまいります。
「グラゼニ」あらすじ(ネタバレ注意)
あらすじ①無印編(神宮スパイダーズ時代)
主人公の凡田夏之介はプロ野球神宮スパイダーズに所属する8年目の中継ぎ投手。
年俸は1800万円で決して一流とは言えず、このままでは引退後はコーチになることもできず、年収100万円台の生活に陥ってしまうと将来を危惧していました。
名将鶴岡監督の「グラウンドには銭が埋まっている」の精神を胸に野球生活に邁進し、骨折や重要な場面での押し出し四球などトラブル・失態はあったものの、徐々に成績が上向いていき、年俸も向上していきます。
また私生活では、片思いをしていた行きつけの定食屋の看板娘ユキちゃんにプロ野球選手であることが知られ、定食屋の女将さんのアシストもあり、なんと結婚を前提に付き合うことに。
順風満帆かに思えた夏之介ですが、8000万円の年俸を勝ち取るため、スパイダーズに駆け引きとしてポスティングシステムによるメジャー挑戦の意向を伝えたところ何と球団側はそれを了承。
トラブルの末にメジャーとマイナー契約を結ぶことになるのですが、それも大人の事情で開幕前に解雇の憂き目にあってしまいます。
その後、すったもんだの末に日本球界の盟主、文京モップスと年俸8000万円で契約を結ぶことができ、なんとか現役生活を続行することができたのです。
あらすじ②東京ドーム編
モップスの一員となった夏之介は、ユキちゃんと入籍し、新しい環境で野球に励むことになります。
しかし入団当初は名門球団のプレッシャーに負けて調子を崩し、中々結果を残せずにいた夏之介。
シーズン後半になって何とか調子を取り戻したものの、その時になると他の投手が調子を崩してしまい監督から過剰な期待をかけられるようになってしまいます。
ユキちゃんの妊娠発覚などもあり、その期待に応えようと奮起した結果、「凡田のムダ使い」とも呼ばれた過度の登板に繋がってしまい、夏之介は肘尺側側副靭帯損傷を負ってしまったのです。
2年目はトミー・ジョン手術を受け、育成枠でリハビリに専念した夏之介。
復帰した3年目は過剰に過保護な「中10日以上、5イニング限定」の先発投手として起用され、何と10勝0敗という結果を残すことに成功します。
4年目も先発投手として起用され、防御率は悪いもののクオリティ・スタートのできる投手として周囲から評価されるようになります。
そのまま先発としてやっていきたいと考えるようになった夏之介ですが、次シーズンのモップスでは夏之助が先発として残る余地がなかったためFAを宣言。
名乗りを上げたのはスパイダースと仙台ゴールデンカップス。
スパイダーズの方が年俸は良かったのですが、これまで対戦機会の少なかったパ・リーグの方が良い成績が残せるだろうと、仙台ゴールデンカップスへの移籍を決めるのです。
あらすじ③パ・リーグ編
仙台ゴールデンカップスに移籍し、キャンプで紅白戦に登板した夏之介ですが、2回途中8失点という最低の結果で降板させられてしまいます。
ボロボロの状態の夏之介ですが、コーチのプッシュもあり地元開幕戦では先発登板を任されます。
しかし4回6失点とボロボロの内容。普通なら降板させられそうなものですが、夏之介に高い年俸を貰うチームの中心選手としての責任を自覚させたかった首脳陣は、そのまま夏之介を続投させます。
試合そのものは打線が奮起し、7対6でゴールデンカップスが勝利。
夏之介も勝ち投手となりますが、その表情に喜びはありませんでした。
そしてアナウンサーの子供から「給料泥棒」という言葉を投げかけられ、自分自身からハングリー精神が抜け落ちていたことに気づくのです。
自分の原点を取り戻した夏之介は調子を取り戻し、気持ちを新たにパ・リーグの打者相手に自分の力を試していくことになるのでした。
「グラゼニ」主な登場人物/球団(ネタバレ注意)
凡田 夏之介(ぼんだ なつのすけ)
本作の主人公。作中開始時は26歳。
左投げ左打ちの投手で、178cm、79kg。
外見は太い眉と黒縁メガネが特徴の老けた顔立ちのオッサン。
投手としてはコントロール重視の軟投派で、最速148mのストレートと、スライダー、シンカー、フォーク、チェンジアップなどの多彩な球種を駆使する(大リーグ編では新たに習得した魔球ナックルを武器にメジャーへ殴り込みをかけています)。
一塁に柔らかい送球ができないというイップスを患っている。
ドラフト7位指名でスパイダーズに入団し、8年目に入っても年俸1800万円とさえない自分の将来を不安に思い、名将鶴岡監督の「グラウンドには銭が埋まっている」との言葉を胸に奮起するところから物語は始まる。
年俸マニアで、自身の年俸以下の選手相手なら余裕をもって投げれるが、それ以上の選手相手だと委縮してしまう。ただし、年俸5000万円以上の一流選手相手だと開き直れる模様。
ユキちゃん
恵比寿の食堂で働く看板娘で、作中開始時は24歳。
外見は黒髪を肩のあたりまで伸ばした透明感のある美人。
大阪出身で大阪テンプターズの大ファン。
野球観戦の際は性格が変わり、大声で野次をとばすため、一緒に観戦に行った人はたいてい引く。
ただ、テンプターズ以外の選手のことはよほどの有名選手でない限り知らず、夏之介のことも当然のようにプロ野球選手とは気づいていなかった。
常連としても、野球選手としても夏之介とは何度か会話をするが、それが同一人物とは気づかず、最後は食堂の客が気づいてようやくそのことを知る。
第一部終盤で夏之介のプロポーズを受け入れ、第二部で結婚。
夏之介が食堂で注文していた「から揚げチャーハン」なる頭の悪い料理の考案者(サンドウィッチマンも推薦)。
神宮スパイダーズ(モデル:ヤクルトスワローズ)
モデルはヤクルトスワローズで、セ・リーグ。
夏之介が最初に所属した球団で、選手の待遇に関してはかなり渋い。
作中では1年目にリーグ制覇、2年目はリーグ3位ながらCSシリーズで勝利し日本シリーズ制覇、3年目はリーグ優勝を果たすもCSシリーズ敗退と、チームとしての成績はかなり良い。
ただ、それだけの結果を残していながら、選手への待遇が一部を除いて改善されなかったため、夏之介が諸々駆け引きをやらかし、外部へ移籍することになる。
文京モップス(モデル:東京ジャイアンツ)
モデルは読売ジャイアンツで、セ・リーグ。
夏之介が第二部で所属した球団で、モデルとなった球団と同様、年俸と待遇はかなり良い。
モデルとなった球団と同様、取り敢えず何でも欲しがるため、裏で色々手を回して夏之助を獲得した。
高年俸な分だけイメージには非常にうるさく、夏之介も髭を剃らされている。
仙台ゴールデンカップス(モデル:東北楽天ゴールデンイーグルス)
モデルは東北楽天ゴールデンイーグルスでパ・リーグ。
夏之介が第三部で所属した球団。
監督もコーチも夏之介と同じ山梨県出身ということで気心が知れており、ある意味で非常に夏之介を思った采配をする。
実は地元TVアナウンサーの老山花子も山梨県出身で、不調の夏之介には非常に厳しい質問を投げかけるが、それも周囲のガス抜きのためで、環境としては非常に優しい。
「グラゼニ」感想&評価
夢を排したリアルなプロ野球選手のお金事情が面白い!
まず最初に、この作品は「野球選手のお金の話」がテーマであって、「野球」そのものはエッセンス程度にしか取り上げられていません。
野球漫画を期待している方には「そうじゃないんだ」ということを最初にお伝えしておきます。
どんな作品でもそうですけど、みんな「お金の話」は大好きですよね。
TV番組とかでも有名人が年収とか月収の話すると何でかわかんないけど興奮しちゃいますし、某農業エッセイでは農家の年収の話をした回は人気が高いそうです。
そんな中、主人公の夏之介は年俸1800万円。
サラリーマンなら凄いと思いますけど、プロ野球選手じゃ稼げる期間が限られてるし、税金もがっぽり抜かれます。
一番稼ぎ時の8年目で1800万円は……うん、ガチで将来厳しいなぁ、と。
そんなある意味ギリギリの夏之介が将来のために奮起する。
テーマは誰しも興味のあるお金の話で、主人公には非常に親近感がわいて、これや面白くないはずがないわけですよ。
いつの間にか大リーグ挑戦!? リアルもアニメ、パワプロアプリと大活躍!
そんな庶民派左腕、夏之介もいつの間にかスルスルと出世して、第三部では億単位の年俸を稼ぎ出す名選手となっています。
別に投手としての能力がずば抜けて高くなったとかではないんですが……まあ、このあたりもお金の不思議というやつですかね(リアルプロ野球でもままあること)。
とうとう大リーグへの挑戦も始まり、あの庶民派が本当に通用するのか不安ではありますが、温かく見守っていくことにしましょう。
リアルでもグラゼニはBSスカパーでアニメ化を果たし、パワプロアプリにも登場するなど、青年漫画としては異例の躍進を遂げています。
果たしてグラゼニは、そして凡田夏之介はどこまで行くのか……こうご期待です!
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