「異世界マンチキン」感想&評価(ネタバレ注意)~D&D(TRPG)風システムによる異世界転生モノ、なろう原作に見えるが~


 今回は「水曜日のシリウス」などで連載中の異世界転生ファンタジー「異世界マンチキンーHP1のままで最強最速ダンジョン攻略ー」について紹介します。

 この作品、タイトルからすると完全に”なろう系”ですが、「小説家になろう」や「カクヨム」原作の作品ではなく、漫画オリジナルの物語。

 物語の中軸に古典TRPG「D&D(ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ)」のシステムが用いられており、TRPG好きにはたまらない内容となっております。


「異世界マンチキン」あらすじ(概要・ネタバレ注意)

あらすじ~定番の神様転生系、しかし主人公のHPは”1″~

 物語の主人公は16歳の少年・桐原行人(以下、ユキト)。

彼は学校でいじめられ引きこもりとなっていましたが、自分を慕ってくれる妹の佐奈の存在によって精神的に救われていました。

 しかしユキトはある日突然現れた怪物に殺され、ネフィリアと名乗る女神によって、剣と魔法の異世界「エバーワールド」へ転生することになります。

 転生の際、ユキトがネフィリアに佐奈はどうなったかを尋ねると、ネフィリアは佐奈は無事だと答えます。

 しかし転生の手続きを進める中で、ユキトはエバーワールドの全てが記載された「世界書(ワールド・マスターズ・ガイド)」に佐奈が載っていること、佐奈もユキトと同じように死んで異世界転生していることに気づいたのです。

 ネフィリアに不審を抱き、彼女から世界書を奪ってエバーワールドへ転生したユキト。

 エバーワールドでユキトたちは「ゲームのキャラクター」としてコンバートされており、ユキトはウィザードとなり魔法が使えるようになっていました。

 ユキトは世界書を頼りに佐奈を探しだそうとしますが、そこには大きな問題が立ちふさがります。

 何とユキトは「HP1」、日常生活のちょっとしたトラブルでも死亡してしまいかねないほど虚弱な存在だったのです(しかもLVアップしてもHPは1のまま)。

 しかしユキトはそこで諦めることなく、持ち前のゲーム脳と世界書の知識を駆使し、ルールの穴をついて戦い続けます。

 そして、貧弱聖騎士のシャルロッテやエルフのルミリアらを仲間に加え、妹を救うためマンチキン(=卑怯者)となって、エバーワールドをとりまく強大な悪意に立ち向かっていくのでした。

異世界転生”なろう系”だがオリジナル(なろう、カクヨムに原作小説は存在しません)

 この「異世界マンチキン」は典型的な異世界転生”なろう系”作品で、この漫画を知った方の多くは元ネタとなった原作小説はどうなっているのだろうと、小説投稿サイト(小説家になろう、カクヨムなど)を検索したのではないでしょうか?

 しかし検索すれば分かりますが、この「異世界マンチキン」に原作小説は存在しません。

 商業化に伴い削除されたわけでもタイトル変更されたわけでもなく、最初から存在しないのです。

 つまりは”なろう系”ではあっても、純粋なオリジナルストーリーの漫画ということですね。

「異世界マンチキン」の主な登場人物(ネタバレ注意)

桐原 行人(キリハラ ユキト)

 本作の主人公で16歳の引きこもり男子高校生。

 自分を慕ってくれる妹の佐奈を何より大切に思っている。

 元々の世界では毎日ゲーム三昧の生活を送っており、縛りプレイ大好き。

 ある日突然モンスターに襲われて死亡し、邪神ネフィリアによって剣と魔法の異世界「エバーワールド」に転生する。

 エバーワールドでは魔法職であるウィザード。

 HP1という文字通り致命的な弱点を抱えつつも、ネフィリアから奪った「世界書」と持ち前のゲーム脳を頼りに佐奈を探す冒険に出る。

シャルロッテ・R・ブラウニア

 公爵家の三女にしてパラディンたる可憐な少女。

 ユキトがエバーワールドで最初に出会った仲間。

 極めて善良かつ世間知らずな少女で、見ず知らずの胡散臭い男(ユキト)の求めに応じて、佐奈を探す旅に同行する。

 パラディンは言うまでもなく前衛職であり、この世界のシステムでは「筋力」が何より重要視されるのだが(命中判定・ダメージ判定・重鎧の装備など)、彼女はとんでもない貧弱で「筋力」が平均を大きく下回っている。

 そのため初登場では颯爽と登場したはいいものの、ゴブリンにタコ殴りにされてしまう。

 後にユキトにより「筋力」が低くとも戦える前衛として(主にパラディンっぽくない方向へ)魔改造されていく。

ルミリア

 エルフでレンジャーの少女。

 元々は黒竜の生贄にされそうになっていたが、ユキトたちに救われる。

 しかしその際、ルミリアを救おうとした姉のセリーナが代わりに黒竜の生贄として連れ去られてしまい、セリーナを救うためにユキトたちの旅に同行する。

 妹属性が強く、何かと無防備な姿でユキトを戸惑わせ、シャルロッテを誘惑する。

 相棒としてタコのマーナガルムを召喚できる。

リヴェルナ・ダーク

 種族はドヴェルグ(闇ドワーフ)。

 邪神「ゾア=グ=ハイ」に仕えるプリエステスで、元は小国の王女だった。

 ゴブリン王シャマイザと共同で黒霧山脈の地下洞口を拠点としていたが、邪悪寺院の勢力に敗れて僅かな手勢と共に落ち延びる。

 同じ邪悪寺院に敵対する者としてユキトたちと共闘することに。

 王家の指輪を取り戻してくれたユキトにドキドキしているチョロイン。

ロシナンテ

 シャルロッテの愛馬の軍馬。

 ぶっちゃけシャルロッテより全然強い。

 ユキトに悪だくみに巻き込まれる不遇なポジションの馬だが、後にユニコーン化したため「なんだ、スケベ馬」かと(ユニコーンは乙女にしか背中を許さないという性質を持つ)、多くのTRPGプレイヤーからその扱いに関し「やむなし」との評価を下される(ただしロシナンテはメス)。

桐原佐奈(キリハラ サナ)

 ユキトの妹で14歳。

 エバーワールドでの職業はクレリックだが、事実上の囚われのお姫様枠。

 成績優秀、スポーツ万能、生徒会長と三拍子そろった優等生であり、その上引きこもりの兄を慕っているという現実にはあり得ない完璧な「妹」。

 多くの読者が、実は彼女に裏があることを期待している。

ネフィリア・カース

 ユキトたちを転生させた女神にして邪神。

 彼女の加護(呪い?)によりユキトのHPはレベルアップしても上昇しない。

 ユキトに「世界書」を奪われ、それを取り戻さんとユキトたちと敵対している。


「異世界マンチキン」感想(D&D、和マンチについて)

「D&D」システムが用いられ、TRPG好きは思わずニヤリとしてしまう作品

 この「異世界マンチキン」には「D&D(ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ)」という世界最初のRPGシステムが使われており、TRPG好きは思わずニヤリとしてしまう作品となっています。

 もちろん、全てがD&Dそのままというわけではないのですが、呪文やアイテム、各種用語、ウィザードの虚弱ぶり(D&Dにおいて低レベルウィザードの仕事は「生き残ること」「邪魔をしないこと」と言われている)は、まさにD&D。

 読んでいて自分がD&Dをプレイしているような気分になり、実際に昔の仲間を集めて久しぶりにD&Dをプレイしてしまいました。

 もちろん、D&Dを知らない方でも全く問題なく楽しめる内容となっていますが、知っていればより楽しめること間違いなし。

 興味のある方は是非、下のリンクからTRPG、そしてD&Dの紹介記事を読んでやってください。

関連記事>「TRPGって何?」という方向け、TRPG用語解説

関連記事>「D&D」紹介記事

マンチキン(和マンチ)を語るにはまだまだ甘い

 さて、タイトルにもなっている「マンチキン」という言葉、作中では「卑怯者」という意味で使われていますが、元々はTRPGの困ったプレイヤーに対する蔑称です。

 この使い方には「洋マンチ」と「和マンチ」の二種類があり、「洋マンチ」は自分のプレイヤーを目立たせたいと我儘を言い、ルールを超えた行為や要求をするプレイヤーのことを指します。

 この「洋マンチ」が日本に輸入され変化したのが「和マンチ」。

 ルールを徹底的に読み込んでゲームシステムの穴をつき、無理やり自分に有利な方向に持ち込もうとしたり、ゲームバランスを崩壊させかねないほど強力なキャラクターを作成したりする、理論武装したより厄介なプレイヤー。

 こちらについては「困ったちゃん」であることに違いはないのですが、日本ではある程度仲間同士の合意の下でこうした「和マンチ」を受け入れる文化が存在しており、一概に蔑称というわけでもありません。

 というか、一部の公式リプレイでは、原作者(某白粉エルフ)が和マンチプレイを実践している例もあるんですよね(そのせいでゲームルールそのものが後に改訂されたり)。

 そういう観点からすると、主人公であるユキトは「マンチキン」というにはまだまだ甘い。

 ルールの穴をついているというか、単に必死なだけという印象が強いですね。

 そもそも「HP1」という大きすぎる弱点が存在していますから、「マンチキン」というより「縛りプレイ」という方がしっくりきます。

 今後ユキトがより悪辣で質の悪いロールプレイを覚えてくれるかどうかが、この作品が進化する鍵を握ってくるのでしょうね(良い方向にいくとは言っていない)。



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