「銀の匙 Silver Spoon」感想~何度でも読み返したくなる完結済漫画、あらすじ・登場人物の解説付き~


 今回はかつて少年サンデーで連載され、2019年に完結した荒川弘先生の傑作学園漫画「銀の匙 Silver Spoon」について紹介します。

 本作はアニメ化、実写映画化もされた人気作で、例え原作漫画を読んだことがなくとも、何らかの形で作品を目にしたことがある方は多いのではないでしょうか。

 北海道の大蝦夷農業高等学校を舞台に、受験戦争から逃げ出し目的もなく農業高校に入ってしまった主人公・八軒の奮闘と成長を描いたハートフルな青春物語。

 何度読み返しても新鮮な感動に包まれる名作ですので、知らない方にも知っている方にも改めて解説させていただきます。

「銀の匙 Silver Spoon」あらすじ(ネタバレ注意)

北海道の農業高校を舞台に繰り広げられる青春学園ストーリー

 物語は主人公の八軒勇吾が受験戦争に敗れ、そこから逃げ出すため何の目的もなく大蝦夷農業高等学校(通称:エゾノー)に入学したところから始まります。

 エゾノーの授業は大半が実習で体力勝負。
 これまで勉強しかしてこなかった八軒は朝から晩まで続く家畜の世話・強制労働に全くついていけません。

 加えて同級生たちは、しっかりとした夢や目標を持ってエゾノーに入学しており、余計に八軒は引け目を感じてしまうのです。

 そんな八軒の最初の転機は校内清掃の最中に石窯を発見したこと。

 ピザを焼けるんじゃないかという一言から、ピザを食べたことがない同級生(地域柄ピザの宅配が届かない)の要望でピザ作りをすることになるのですが、これが大盛況。

 周囲の喜ぶ様子に八軒は確かな充実感を感じることになるのです。

 

 そしてそんな八軒のエゾノー生活と並行して進んでいくのが、八軒が一目惚れした同級生の少女・御影アキとの恋。

 アキの方も比較的序盤から八軒のことを憎からず思っていたのですが、彼女がとんでもなく鈍く、察しない女だったため、恋物語の進展はとてもじれじれしたものとなっています。

 

 物語は八軒たちがエゾノーを舞台に過ごす3年間の日々がメインで描かれており、その全てをここで語ることはできませんが、一部を抜粋すると次のような出来事が。

・入学早々場内で遭難。助けに来てくれたアキに一目惚れ。
・アキに誘われ全く興味のない馬術部に入部。
・ピザ作りを請負い、以後、校内でイベントがある度駆り出されることに。
・豚に名前を付けて食べる時に凹む。
・豚一頭まるごと買い取る豚肉ファンドを設立。
・バイト先で牛乳をぶちこぼして損害を出して凹む。
・巨大コンバインを見るため夜中に寮を脱走しバツ当番。
・校内で拾った子犬の世話をする。
・人の頼みを断れずオバーワークで学祭当日に倒れる。
・友人に借金のためにカニ漁船に……(?)
・インターハイで馬術部史に残るワースト記録を叩きだす。
・3年の12月になって突然大学受験をすると言い出す。
・下宿爆発事件。
・アキとの交際をアキの父親に反対される。
・在学中に起業。

 「銀の匙」は、そんな八軒たちの波乱万丈な日々と成長を描いた物語です。

解説(「銀の匙」の意味、作者「荒川弘」先生、物語の舞台)

●「銀の匙」の意味

 「銀の匙」とは英語で富・幸福などの意味を持っています。

 欧米では初めて食べるものを「銀の匙」で食べると一生食うに困らないと言われており、出産祝いに「銀の匙」を贈る風習があるそうです。

 本作ではエゾノーの食堂入口に「銀の匙」が飾られており、1年生の終わり(コミックス8巻)で校長先生が更に踏み込んだ「銀の匙」に関する訓示を語っていました。

 第一次産業と呼ばれる農業従事者も、その為の道具を作る人を始めとした多くの人々の想いに支えられている、という意味が込められているようです。

 

●作者「荒川弘」先生

 荒川弘先生は言わずと知れた「鋼の錬金術師」の作者で、「銀の匙」は鋼の錬金術師の連載終了後に先生が自身の経験を活かして執筆された作品です。

 荒川弘先生は元々北海道の酪農家出身で、上京される前は実家の酪農と畑作を手伝いながら「エドモンド荒川」のペンネームで漫画を執筆されていました。

 アイコンにメガネをかけた牛を使われており、これも酪農家だったことと自信が牡牛座であることに由来するのだとか。

 ちなみに誤解されやすいですが女性です。

 

●舞台「大蝦夷農業高等学校」

 「銀の匙」の舞台となる大蝦夷農業高等学校は実在しない架空の学校です。

 このエゾノーは荒川弘先生が実際に通っておられた「帯広農業高等学校」がモデルとなっており、資料を見ると作品に登場する建物や風景など、かなり共通点が多いですね。

 実際に学生さんが学んでおられる場所ですから、制作サイドからも聖地巡礼などは自粛するよう要請が出ています。


「銀の匙 Silver Spoon」主な登場人物

八軒 勇吾(はちけん ゆうご)

 本作の主人公で、外見はメガネ以外特に特徴のない少年。

 元は札幌出身で、中学時代に受験戦争のプレッシャーに負けて失敗し、家から逃げ出すために寮制のエゾノーに入学する。

 お人好しで人の頼みを断れず、面倒ごとを自分から抱え込みに行く面倒くさい性分。

 しかしその人柄故に人が集まり、周囲に良い影響を与えていくことに。

 御影アキに好意を抱いており、周囲にもそれはバレバレだったが、アキ本人が鈍いことと彼女の父親に邪魔をされたことで、結ばれるのにはかなり時間がかかった。

 在学中に養豚をメインとした「㈱GINSAJI」を起業し、副社長に就任する。

御影 アキ(みかげ あき)

 本作のヒロインで、黒髪ショートカットのスタイルの良い少女。

 実家は酪農家。幼い頃から馬が好きで馬術をしている。

 性格は素朴で心優しいが、とんでもなく鈍く、人からの好意を察しない女。

 馬に関わる仕事に就きたいと考えていたが、家族からの「跡を継げ」という無言の圧力に押され、それを言い出せずにいた。

 しかしその夢を応援してくれた八軒のお陰で家族に自分の想いを伝えることができ、八軒に好意を抱くことになる。

駒場 一郎(こまば いちろう)

 御影アキの幼馴染で八軒たちの同級生の少年。

 野球部でピッチャーを務める野球大好きな脳筋(農筋)。

 実家は酪農家だが、父親が過労で亡くなり、借金で倒産寸前。

 駒場本人はプロ野球選手になって借金を返そうとしていたが、厳しい実家の現状と1年の秋大で負けて甲子園に出場できなかったことでその夢を諦める。

 実家は離農し、本人も高校を辞めて借金返済のために働くことに。

 後にロシアに渡り、ロシアで農家として一旗あげることになる。

稲田 多摩子(いなだ たまこ)

 八軒たちの同級生で丸々とした体型の少女。

 実家は大規模農場を営んでおり、本人もお金、経営大好き。

 虎視眈々と実家の経営を乗っ取ることを画策している。

 痩せれば美人だが、体調を崩してしまうからと本人は痩せた姿を好んでいない。

 実写映画版のキャストは安田カナさんで、そのはまり役ぶりはファンを大いに沸かせた。

相川 進之介(あいかわ しんのすけ)

 八軒たちの同級生で獣医を志す爽やかな少年。

 血やスプラッタが苦手で、それを克服しようと苦労している。

 「ホルスタイン部」という意味不明な部活に入っており、非常にモテそうな外見をしているが、部の先輩の風評被害もあって彼女はいない。

常盤 恵次(ときわ けいじ)

 八軒たちの同級生でお調子者のバカな少年。

 実家は養鶏場を営んでおり、その跡を継ぐからと将来には一切悩んでいない。

 勘違いで様々なデマを流しては罰則を受けている。

 意外と使える動けるバカだがモテない。

 高校卒業後、海外実習生でめんこい娘がいたため猛アタックし、無事に嫁さんをゲットする。

その他同級生

西川 一(にしかわ はじめ)
寮で八軒と同室の少年で、農業科学科。
非常に気の良いオタク。
肉食女子の池田といい感じになるが、実家が芋農家だったため肉好き池田のストライクゾーンから外れており、フラれる。

別府 太郎(べっぷ たろう)
寮で八軒と同室の少年で、食品科学科。
恰幅の良い坊主頭の少年で、見た目通り大食漢。
高校卒業後は「札幌ラーメン別府サンクトペテルブルク店」設立のためロシアに渡る。

吉野 まゆみ(よしの まゆみ)
八軒たちの同級生女子。
チーズ大好きでチーズ工房の立ち上げを目指している。
高校卒業後、就職先がブラックだったため就職を蹴って無職となることを選択。
そのままフランスに渡りチーズの勉強をし、現地でチーズ好きの彼氏を作る。


馬術部

大川 進英(おおかわ しんえい)
八軒たちの2歳年上で馬術部の部長を務めた少年。
非農家出身で、適当かつ楽天的な感性の持ち主。
実に器用で、物づくりが上手く、数々の履歴書に書けない特技を持つ。
後に「仕事さえ与えておけばまとも」だと見抜いた八軒の誘いを受け、彼と共に起業。
㈱GINSAJIの社長に就任する。

豊西 美香(とよにし みか)
八軒たちの2歳年上で馬術部の副主将を務めた少女。
非常にサバサバした性格のアネゴ肌。
卒業後は札幌の大学に進学し、菓子業界への就職を検討中。
大川に対するツッコミ役。

栄 真奈美(さかえ まなみ)
八軒たちの同級生の少女。
アキの親友で非常に面倒見が良く、二人の恋路を応援していた。
卒業間際に馬糞の前で馬術部の円山に告白され、付き合うことに。

後輩ちゃん(名前は敢えて未設定)
八軒が企画した学祭での馬術部の出し物に感動してエゾノーに入学した少女。
八軒たちの一歳年下で、馬術部に入り、とても丁寧に馬の世話をしていた。
非農家出身で農高馬術部コースという経歴に共感が集まり、ファンレターが殺到。
その結果、彼女はあなたたちの分身だと敢えて名前が未設定のままに。

教師

桜木 義久(さくらぎ よしひさ)
八軒たちの担任教師で糸目オールバックの中年男性。
非常に大らかで面倒見が良く、生徒たちを温かく見守っていた。

富士 一子(ふじ いちこ)
豚舎を管理する若い女性教師。
常にサングラスを身に着け、軍人のようなきびきびとした振る舞いが特徴。
見た目に似合わず非常にビール好きでノリが良い。
八軒たちに感化され、彼らの3年生への進級に併せて退職。
夢であった猟師に転身する。

中島 美雪(なかじま よしゆき)
馬術部顧問の菩薩のような見た目をした男性教師。
しかし見た目と裏腹に競馬好きで俗まみれ。
チーズ好きで学内設備を使用して密かにチーズを作っていた。
吉野に目を付けられ、ひたすらたかられる。

校長:北加 伊道(きたか このみち)
コロポックルのような見た目をした男性。
何があっても怒ることなく、穏やかに生徒や教師を見守っている。

八軒家

八軒 数正(はちけん かずまさ)
八軒父。
見た目ヤクザで中身は見た目以上に厳しい。
根は善良で、八軒の夢も積極的に支援する。

八軒 美沙子(はちけん みさこ)
八軒母。
ごくごく普通の優しい主婦。

八軒 慎吾(はちけん しんご)
八軒兄。
非常に天才肌でちゃらんぽらんな性格。
東大に現役入学した後、すぐに中退。
その後料理修行のため日本各地を放浪していた。
とんでもない料理べた。
八軒のコンプレックスの元凶。

アレクサンドラ
八軒兄が捕まえた美人ロシア人嫁。
コサック兵の末裔で、北海道民をも瞠目させるほどタフ。

御影家

御影 豪志(みかげ ごうし)
アキの父親で豪快な雰囲気の男性。
アキを溺愛しており、八軒を常に威嚇している。
作中8巻でに大作から社長を譲り受ける。

御影 政子(みかげ まさこ)
アキの母親。
アキによく似た雰囲気の明るい女性。

御影 大作(みかげ だいさく)
アキの祖父。
気の良い馬好きの老人で、アキの馬好きは彼に影響を受けている。
作中では駒場家の借金の保証人となった影響で、大好きな牧場の馬を手放している。

御影 サト(みかげ さと)
アキの祖母。
かなりの高齢だが、全く衰えなく農業をこなしている。

御影 志乃(みかげ しの)
アキの曾祖母。
登場時点で107歳と高齢で、非常に小柄。
開拓時代の生き字引で、今でも頭はしっかりしている。
八軒たちがエゾノーを卒業した4年後、物語のラストでは故人となっていた。


「銀の匙 Silver Spoon」感想&評価

農業と北海道の魅力が詰まった名作

 北海道の農業という普段触れることのない世界が、荒川先生の実体験を元に描かれており、とにかくその内容がリアルで新鮮な作品です。

 単なる農業漫画は他にもありますけど、それを高校生の視点で、進路とか将来の夢を交えて描いているところが、読んでいる側としては非常に入り込みやすくて良いですね。

 良いところ、魅力ばかりを詰め込むのではなく、農業の厳しさや現実にきちんと触れている点もまた良し。

 筆者も農家出身なため、読んでいて非常に親近感がわきました(まあ、北海道の農家はまた別世界なんですけど)。

 登場するキャラクターがどれも良い人たちばかりで、安心して読んでいられる点も良いです。

 しいて言うなら、起業絡みの話は正直少し甘いと感じましたが、そもそも八軒はちは高校生ですし、実際の起業家・経営者も9割方そんなもんですから、そこは仕方ないかなぁ(銀行員時代の経験談)。

こんな人におすすめ

 基本、万人受けする作品だとは思います。

 ただ今流行りの「ざまぁ」的な話とか、とにかく尖った話が好きだという人には合わないかもしれません。

 登場人物が単なる物語のためのギミックでなく、きちんと人として描かれるハートフルな作品が好き、という方には是非読んでいただきたい。

 そして何より、昔「銀の匙」を読んだことある、という方。

 是非もう一度読みましょう。

 時間をおいて読み返してみると、当時とはまた一味違った味わいがある、と個人的には強く実感しています

 何度読み返しても新鮮な感動に包まれる、「銀の匙」とはそんな作品です。



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