今回は「コミックDAYS」で連載中、異色のデバッグファンタジー「この世界は不完全すぎる」について紹介します。
この作品は「SAO」などに代表されるRPG世界に閉じ込められた人々を描いた物語。
それ自体は今ではありふれた設定なのですが、「この世界は不完全すぎる」の特徴は主人公のハガがデバッガーで、舞台となるゲーム世界がバグだらけだというところ。
VRでNPCの思考ルーチンも非常に高度なのに初歩的なバグが満載で融通がきかない、変なところでリアルな「ゲーム世界」。本記事ではその魅力と謎に可能な限り迫っていきたいと思います。
「この世界は不完全すぎる」あらすじ(ネタバレ注意)
村を襲うドラゴンを撃破 → ヒロインが燃える!?
物語フェルナーク大陸の南方、クレボーン島の西の端にあるベイル王国、その辺境の村から始まります。
村に住む少女ニコラは、ある日草原を歩くドラゴンの群れに遭遇。
そこをハガと名乗る赤髪の奇妙な青年に救われます。
ドラゴンの生態を含め、世界のあらゆることがらを調べて回っているというハガ。
村人はハガのことをキングス・シーカー(王の探究者)なのではないかと噂します。
ハガに興味を持ったニコラは村の外の話を聞きたいとハガのテントを訪ねます。
しかし話をしている最中、突如大きな揺れが彼らを襲います。
昼間のドラゴンが村を襲いに来るからと、ニコラに村人を連れて逃げるよう指示をするハガ。
そしてハガは襲い来るドラゴンに対し一人戦いを挑みます。
崖の上に陣取り、火薬樽でドラゴンを怯ませ、その隙に弓矢で少しずつダメージを与える。
非常に地味な戦い方でしたが、村人たちの協力もあってドラゴンの撃破に成功したハガ。
しかしドラゴンを倒した直後、ニコラを含めた村人たちは突然燃えだしてしまったのです。
この世界は「VRゲーム」、ハガは閉じ込められたデバッガー
実はこの世界は異世界ではなく、未発売のVRゲーム「キングス・シーカー・オンライン」。
ハガはそのデバッガーとしてゲームをプレイしていたのですが、ログアウトができなくなり、1年以上外部と連絡が取れないままこの世界に閉じ込められていたのです。
一緒に閉じ込められたデバッガーたちは散り散りになり、ハガだけがクソ真面目にデバッガーとして調査を続け、ひたすらバグ内容を報告し続けていました。
そしてニコラの村をドラゴンが襲った一件はゲームの負けイベント。
ドラゴンに無理矢理勝ったとしても、村が全滅するという結果は決して変えることができないものだったのです。
ニコラの死にショックを受け、この村の調査はもうやめようと決めたハガでしたが、彼の前に死んだはずのニコラが現れます。
ニコラは死んだことを忘れていて、どうやら「シーカーを追って村を抜け出し旅に出た」という設定になっている様子。
異常事態に驚きながらも、ニコラとともに旅を続けるハガ。
しかし彼らの前にはシステムを悪用する悪質なデバッガーたちが現れて……
「この世界は不完全すぎる」主な登場人物(ネタバレ注意)
ハガ
本作の主人公でゲームの世界に閉じ込められたデバッガー。
ゲーム内の設定では、王の命令で世界の異常を調査する「王の探究者(キングス・シーカー)」ということになっている。
ゲーム内でのアバターは赤髪でゴリマッチョの青年(リアルでの外見は黒髪で小柄な普通の少年)。
心根は優しいが、かなり臆病で慎重な性格をしており、クソ真面目。
ゲーム世界に閉じ込められて外部と連絡が取れなくなっても、ひたすらバグの調査と報告を続けている変人。
ニコラ
ベイル王国の辺境の村に住む村娘……という設定のNPC。
黒髪で素朴な雰囲気を持つかわいらしい少女。
ドラゴンに遭遇した一件を切っ掛けに刺激的な日常に憧れ、自分を助けてくれたハガに弟子入りして村を出る。
どうして村人に過ぎないはずのニコラがゲームの設定を超えて旅立つことができたのかは不明。
アマノ
ハガと同じ閉じ込められたデバッガー。
フェザーという猫っぽい獣人のアバター。
「社長」たち悪質なデバッガーの仲間だったが、彼らに嫌気がさしてパーティを離れる。
病気のNPCの少女、ルゥと出会い、彼女に自分のマンガを認めてもらったことでこの世界で自分の居場所を手に入れるが……「社長」によってその幸せは壊されてしまう。
アキラ
(株)エンタメイション所属のデバッガー。
エルフの女性のアバター。
ログアウトできなくなったことから、この世界の住人としてまっとうに生きていこうと決意した前向きな人物。
基本的には優しく人当たりは良いが、悪質なデバッガーたちには一切容赦しない。
酒井(さかい)
ハガと同じ閉じ込められたデバッガー。
アバターは金髪の軽戦士風の男性。
「社長」の一味で、デバッグモードを悪用する男。
隅田(すみだ)
ハガと同じ閉じ込められたデバッガー。
アバターはフルヘルムの騎士。
「社長」の一味で、デバッグモードを悪用する男その②。
社長
ハガと同じ閉じ込められたデバッガー。
アバターは領主風のオッサン。
酒井や隅田を従え、ゲーム内で好き勝手に振舞っている。
「この世界は不完全すぎる」感想&評価(ここが面白い)
バグだらけのちぐはぐなファンタジー世界
まず第一印象は、これだけNPCの思考ルーチンも高度で発達したVR世界なのに、あらゆるところがバグだらけでちぐはくな世界だな、というもの。
まさにタイトルどおり「この世界は不完全すぎる」です。
そんなやけにリアルな「ゲーム世界」に対し、閉じ込められたデバッガーたちがそれぞれの価値観で向き合っているリアルさがこの作品の第一の魅力。
NPCを「人」として尊重する者もいれば、ゲームだと割り切って好き勝手にする人間もいて非常に多種多様。
そんな中、主人公のハガはNPCをゲームのキャラクターだと割り切れない優しい男。
当初はひたすらデバッガーとして真面目に業務をこなし続けていましたが、それはこの世界がゲームだと割り切らなければ心が持たなくなってしまうという防衛本能によるものだったのかもしれませんね。
心持つNPCたちの不自由さと自由さが尊い
もう一つの魅力は、ニコラをはじめとしたNPCたち。
この世界のNPCにはキチンと心(少なくともそれらしきもの)が存在していて、個として確立されています。
しかしその反面、その行動や生き方にはゲームらしく制限が加えられていて、普通の人間のように自由に生きることは叶いません(例えば村人として生まれたものは一生村人としてしか生きられない)。
心は自由に憧れ、しかしゲームシステムはそれを認めない。
その儚さと不自由さがとても尊くて、思わず「頑張れ」「何とかなんないの?」と感情移入してしまうのです。
ある意味でニコラたちは、この世界の不完全さと美しさを象徴する存在なのかもしれません。
彼女たちの今後がどうなるのか、非常に楽しみな作品です。
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