今回はディストピア社会をテーマにした稀代の傑作にして迷作TRPG「パラノイア」をご紹介します。
パラノイアは初版が1984年にアメリカで発表された、コンピューターに支配された未来都市を舞台としたSF作品。他に類を見ない仲間同士の裏切りを前提としたTRPGです。
しかしそんな重いテーマでありながら、ゲーム自体はブラックユーモアにとんだバカバカしい内容に仕上がっており、是非一度は触れていただきたい傑作となっております。
なお、TRPG初心者向けの記事、用語集なども掲載しておりますので、よろしければ併せてご覧になってください。
「パラノイア(TRPG)」ってどんなゲーム?
コンピューターに管理された未来都市で裏切りと策謀をユーモラスに描いた傑作
パラノイアは、1980年代当時アメリカで蔓延していた「共産主義」への行き過ぎた恐怖心、敵愾心への皮肉を根底において生み出された作品です。
その舞台はコンピューターによって管理された未来の地下都市「アルファ・コンプレックス」。
小惑星の衝突によりネットワークから孤立した地下都市のコンピューターは、それを「共産主義」による核攻撃によるものと誤認してしまいます。
その結果、コンピューターは市民を「共産主義」とその「汚染」から守り抜くという「偏執病(パラノイア)」にとりつかれ、市民に対し「独裁的、専制的、全体主義的な支配」を行いだしたのです。
それはまさしく、当時のアメリカ人が抱いていた「悪の共産主義国家」という妄想そのもの。
共産主義から市民を守るために共産主義的支配を行うというのは大いなる矛盾にして皮肉ですが、既に都市のコンピューターは狂ってしまってそのことに気づくことができません。
市民たちはコンピューターが狂っていることに気づいていますが、それを指摘すれば反逆者とし処刑されてしまうので何もできず、コンピューターに唯々諾々と従っています。
そして、このゲームのプレイヤーは秘密結社に属するミュータント(そうでないものも一部存在します)。
しかしプレイヤーたちは決して仲間ではありません。プレイヤーたちはコンピューターから与えられる任務を達成するために表向きは協力しているように見えますが、その裏では自分以外の反逆者を見つけ出して陥れようと企んでいるのです(そうすることで自分は善良な市民だとアピールする)。
普通、裏切り合いというと重いギスギスしたものをイメージしますが、予め予定された裏切りはもはやただのブラックジョーク。
愉快でバカバカしい裏切り、騙し合いがこのゲームの本質なのです。
パラノイアでの基本用語
コンピューター
舞台となる地下都市、アルファコンプレックスの管理を担う超大型コンピューター。
その行動原理は善意に基づいてはいるものの、共産主義から市民を守るという偏執病にとりつかれて完全にイカレてしまっている。
自身のことを完全な為政者にして市民の庇護者、親愛なる友人であると信じている。
アルファコンプレックスの絶対権力者にして法であり、それに反すれば反逆者として処刑される。
処罰理由はもはやギャグであり、それを逃れるために市民(プレイヤー)は任務に必死になり(失敗は完璧な社会への反逆)、他人を密告したりする(密告される者がいないと全員がグル=共産主義者と見なされる)。
ミュータント
突然変異種で、ミュータントパワーが使える。
プレイヤーの大半がミュータントだが、突然変異なのでコンピューターにバレるとまずい。
コンピューターに申告して二等市民扱いで生きる者もいるが、大半は隠して生きている。
秘密結社
反コンピューター的な違法組織。
大抵のプレイヤーが所属していて、やはりコンピューターにバレとまずい。
コミー(共産主義者)
もはやいるかどうかも分からない架空の存在、都市伝説。
クリアランス
コンピューターが市民をどの程度信頼しているかを光の色で9段階で示したもの。
上から紫外、紫、藍、青、緑、黄、橙、赤、赤外。
任務上の階級を示すこともあり、またクリアランスの階級によって触れられる情報も制限される。
ルールブックの情報もこれに含まれるため、非常に振る舞いが面倒くさい。
「パラノイア(TRPG)」はここが面白い!
「幸福は義務です」「市民、それは反逆です」
まず大前提として、コンピューターのイカレっぷりが非常にぶっ飛んでいて面白いです。
「幸福は義務です」
この作品で最も有名なセリフがこれですが、何が凄いかと言うと……幸福でないものは処罰されてしまうんです。
何故なら、コンピューターの統制の下、市民は幸福に暮らしているはずで、幸福でないものは反逆者に違いない、と判断されてしまうからです。
「市民、それは反逆です(ZAP! ZAP! ZAP!)」
ちなみに、「ZAP!」は銃の発射音を表す擬音です。
悪の共産主義国家をイメージして作られたと言いますが、恐ろしいほどに誇張されていますね。ここまでぶっ飛んでいると、共産主義者ですらもはやジョークとしか認識しないでしょう。
いや、ひょっとして1980年代アメリカで考えられてた共産主義って、こんなバカバカしいものだったって可能性は……
かつてこんなにもバカバカしい裏切り合いがあっただろうか?
コンピューターがイカレているので、プレイヤーたちの行動もイカレざるを得ません。
コンピューターからの下される任務をプレイヤー同士で協力して達成するのは大前提(何せ失敗したら不完全と見なされ処罰対象ですから)。
しかしみんなで仲良く任務達成してそれでゲームクリアとはいきません。
何せ反逆者が一人も発見されないと、コンピューターはプレイヤー全員をグル(=共産主義者)と見なして、全員が処罰されてしまうんですから。
そのためプレイヤーたちは、任務の最中から互いに騙し合い、策謀を巡らし、他のプレイヤーたちを陥れようと企んでいるのです。
ここまでぶっ飛んでいると、ギスギスするどころか笑うしかありませんよね。
ちなみに、プレイヤーには最低6体のバックアップクローンがあるので、処罰されてもまた復活できますし、失ったクローンを購入することもできるので安心仕様となっています(そういう問題か?)。
「パラノイア(TRPG)」を遊ぶには
ルールブックは「トラブルシューターズ」から
さて、パラノイアのルールブックは4種類存在しますが、海外版のルールブックは比較的高価なのでどれを購入すべきか迷うところ。
結論から言うと、「トラブルシューターズ」が一番スタンダードでおすすめです。
それぞれの特徴を簡単に説明すると、
①トラブルシューターズ
下層市民であるトラブルシューターズ、何でも屋となってアルファコンプレックスの問題を解決する一番スタンダードなルールブック。
パラノイアTRPGで最も普及し、知られているのがこれ。
②インターナルセキュリティ
都市の中流層である警察官となってプレイするルールブックです。
中間管理職の苦労と悲哀を感じさせる内容です。
③ハイプログラマーズ
都市の最高権力者である紫外のハイプログラマーとなり、利権を貪りつくす内容です。
できることが多くなる分、シナリオが複雑になり、プレイに時間がかかるのが特徴です。
④リブーテッド
パラノイアの後継版であり、ルールが全て一新されています。
ゲームが分かりやすくはなったのですが、パラノイアらしさが残っているかというと……
ノリの良いバカな仲間がいれば良し
そしてパラノイアで最も必要なものは、ノリ良くバカな話ができる仲間たちです。
パラノイアというゲームは、とにかくバカ騒ぎしてコンピューターのお気に召すように事件を収束させ、色々やらかした責任を仲間たちに擦りつけるというのが醍醐味ですから、気心の知れた仲間は必要不可欠。
良く知らない人相手にやろうとしても、どこか中途半端で白けたものとなってしまうでしょう(いや、それでも全然陥れるよ、という剛の者は別にして)。
そういう部分やアメリカ製という敷居の高さも含めて、パラノイアはやや上級者向けのTRPGと言えるかもしれません。
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