今回は空木哲生先生が「ハルタ」で連載中、大学山岳部の活動を描いた青春群像劇「山を渡る-三多摩大岳部録-」について紹介します。
この「山を渡る」は、崖登りもこなすガチ登山家の上級者たちが、山岳部存続のために貧弱新入生3人組に登山の魅力を伝えていく物語。
初心者丸出しのピクニックから上級者向けの本格登山、そして学生特有の金銭的な問題まで丁寧に描いた良作です。
本記事では、物語のあらすじや登場人物を中心に、若干のネタバレも交えながら「山を渡る」の魅力を語ってまいります。
「山を渡る-三多摩大岳部録-」あらすじ(ネタバレ注意)
あらすじ(1巻~2巻部分)~入部と三種の神器入手、そしてまずはトレーニング~
伝統ある三多摩大学山岳部は、この春存続の危機を迎えていました。
理由は部員不足。
新入部員を確保できなければ部室も大学の登山用具も使えず、部員たちは山に登ることができなくなってしまいます。
上級生でガチ登山家の黒木、草場、金田の3人は何とか新入部員を確保しようとしますが、入ってきたのは登山経験どころか運動経験もろくにない南部、入間、加賀の虚弱女子3人。
黒木たちは登山の過酷さを巧妙に(?)隠しつつ、新入生たちに山の楽しさを伝え、何とか廃部を免れることに成功します。
初めは高尾山でのオリエンテーション。
続いて高価な登山の三種の神器(雨具、靴、ヘッドランプ……なお、普通はヘッドランプではなく、ザックが神器に挙げられます)をOBのお古を修理するなどして入手。
少しずつ新入生たちは登山の準備が整っていき、登山のための体力作りも進めていきます。
その一方で、上級生たちはクライミングを交えた自分たちだけのガチ登山を行ったり、新入生たちとの緊張感の違いが凄いことに。
あらすじ(3巻~4巻部分)~テント泊、高山での経験、新入生たちの成長~
新入生たちに与えられた次なる課題はテント泊。
自分たちでテントを立てて、ご飯を作って、夜を明かす。
初体験尽くしの3人はテント泊を終え朝日を見ながら感動し、山の魅力にとりつかれていきます。
一方、上級生たちはいつも通りガチ登山を繰り広げており、魔の岸壁と呼ばれる谷川岳の奥壁に挑む様子が描かれています。
2年生女子ながら主将を務める黒木の真骨頂が発揮されていましたね。
そしていよいよ夏目前。
夏合宿を前に、新入生たちには次なる課題「高山」での経験が与えられました。
そこで新入生たちは、ステーションビバーク(駅での野宿)という通常では考えられない体験をし、高山病など山の厳しさに触れることになります。
そして山の本当の姿を知った新入生たちは、更なる成長のための貴重な経験を積むことになるのです。
「山を渡る-三多摩大岳部録-」登場人物(ネタバレ注意)
南部 真菜(一学年)
虚弱担当女子。
外見はメガネで気弱そうな雰囲気の女子で、実際に非常に内気。
身体が弱かったため運動経験は一切ないが、登山にはノルマも何もなく、自分のペースでできるのではと(勘違いして)山岳部の門を叩く。
新入生の中では一番常識人であり、一般人寄りの感性を持つ。
長野県出身(上級生にとって新入生の実家は登山のための拠点としての意味を持つため、日本アルプスに近いことは歓迎されている)。
入間 聡子(一学年)
ゲーム好きインドア担当女子。
外見は黒髪おかっぱの鋭い目つきをした少女で、非常にマイペースな性格をしている。
金田の書いたポスターを見て山岳部に興味を持ち、登山はRPGの冒険のようなものと(騙され)山岳部に入部する。
登場人物の中で最も方言がきつい秋田米農家出身(食料が期待される)。
加賀 直美(一学年)
文系担当女子。
外見は色素の薄い茶髪とソバカスが特徴で、性格はかなり夢見がちでしばしば周りが見えなくなる。
冒険家・植村直己の本に感化されて登山を体験してみようと高尾山に向かい、そこでオリエンテーションを行う山岳部に遭遇、そのまま部に引きずり込まれる。
北海道出身(北海道遠征の際に……以下略)。
黒木 世都子(二学年)
山岳部の主将。
外見は黒髪ポニーテールの活発系女子で、性格は非常に雑で適当。3年の男子からはゴリラと認識されている。
いつか未踏の山を踏破してみたいと願うガチ登山家で、岩登りの技術は一流。
新入生を確保に情熱を向けるが、性格が雑で適当なため空回りし、周囲がそれを上手くフォローしている。
草場 透(三学年)
山岳部の副主将。
イケメン、爽やか担当の上級生。
比較的クセのないまともなキャラクターではあるが、山男らしくデリカシー的な物は欠けていて結構適当。
元々はボルダリングをしていた。
金田 良雄 (三学年)
くどくて面倒くさいタイプの山男担当。
メガネ、オッサン顔が特徴で、性格は山に関して語りだすと長くてウザいタイプ。
ただ、部員の中で一番常識を弁えた人物でもあり、雑で適当な黒木のツッコミも担当している。
ジャンケンが無茶苦茶弱い。
「山を渡る-三多摩大岳部録-」感想&評価
山ガールですらない虚弱女子たちが登山の魅力を知っていく様子がリアルで面白い!
昨今は、かわいい女の子(主に4人組)が海とか山とかアウトドアの魅力にハマってワキャワキャ楽しむタイプの作品が流行っていますが、この「山を渡る」はそれとは一線を画します。
正直言って、南部たち新入生女子は「かわいい女の子」ってタイプじゃありません(かわいくないとまでは言わないし、これはこれで魅力があるんですけど)。
そんな貧弱な3人が、レベルの違うガチ登山家の上級生たちに指導を受けながら登山の魅力を知っていくわけですが、この「山を渡る」はその魅力への引き込み方が非常に秀逸なんです。
実際に読者が新入生と一緒になってオリエンテーションや指導を受けているように、登山の魅力だけでなく様々なハードルやその乗り越え方も紹介されていて、説明が非常に丁寧。
学生特有の資金不足とかは、非常に共感できる内容でしたね。
登山にちょっと本気で行きたくなる魅力
「山を渡る」は実在のモデルがいたり、聖地巡礼が盛り上がるタイプの作品ではありません。
初心者から上級者まで、本当に丁寧に登山のリアルが描かれていて、ちょっと本気で登山始めてみようかなと思わせてくれるような作品とでも言いましょうか。
登山の教本や導入書としても非常に良いんじゃないでしょうか(筆者は昔、まともな知識も道具もないまま結構キツメの登山を繰り返して力尽きた経験有り)。
ガチ登山家の姿が並行して描かれているところも、何というか目指すべき姿の一つみたいで非常に憧れるんですよね(本気であそこまで目指すかは別にして)。
地域との提携とかコラボとか、爆発的に人気が出るような作品ではありませんが、できるだけ長く続いて欲しいと思える良作です。
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