「笑顔のたえない職場です。」感想&評価(ネタバレ注意)~登場人物の関係性が尊い少女漫画家ワーキングコメディ~


 今回は「コミックDAYS」で「くずしろ」先生が連載中のワーキングコメディ「笑顔のたえない職場です。」について紹介します。

 この作品は新人少女漫画を取り巻くアシスタントや編集者たちの日常を描いた群像劇。

 タイトルからはほんのりブラックな香りがしますが、全然そんなんじゃないですよ(業界的にはそうかもしれんけど)。

 絵や登場人物がかわいらしいのは勿論、漫画家ならではの苦悩をリアルに描いた読み応えのある作品となっておりますので、この期に興味を持っていただければ幸いです。

「笑顔のたえない職場です。」あらすじ(ネタバレ注意)

新人少女漫画家を取り巻くアシスタントや編集者の日常を描いた群像劇

 主人公の双見奈々は、少女漫画雑誌で将棋漫画「昴へ」の連載を始めたばかりの新人少女漫画家。

 才能はあるものの能力全てが漫画に極振りされている双見は、妄想癖が激しく人見知りで日常のほんの些細なやり取りにもおっかなびっくり、トラブル続きです。

 ある時は、締め切り7日前の深夜にネームを完成させたものの、こんな時間に担当編集者の佐藤に送って嫌われたらどうしようとネームの確認ができずにいました。

「佐藤さん美人だしプレイの最中だったら……邪魔して嫌われたら……」

 そんな双見に冷静にツッコむのがアシスタントの間瑞希。

 今は緊急事態、遠慮して原稿オトす方が迷惑だろと、あっさりFAXでネームを送ってしまいます。

 その後もあらぬ妄想を繰り広げて落ち着かない双見ですが、しばらくすると佐藤さんからネームOKの連絡があり、佐藤さんで邪推してしまった自分を恥じて大泣き。

 ただネームを編集に確認してもらうだけなのに……

 

 と、このように新人少女漫画家とその周囲が、日常のちょっとしたやり取りに大騒ぎしながら繰り広げるワーキングコメディ。

 双見だけでなく、編集の佐藤さんやアシスタントの間など、様々な人物の視点から、少女漫画に携わる人々の日常のたわいのないやり取り、喜びと苦悩が描かれています。

作者「くずしろ」先生と他作品(永世乙女の戦い方)との関連

 作者の「くずしろ」先生は岩手県出身の女性漫画家で、元々は「葛城一」という別名義で少年漫画家としてデビューしました。

 その後、4コマ漫画や青年漫画にも手を伸ばすようになり、こちらは「くずしろ」名義、少年漫画は「葛城一」とペンネームを使い分けて活動されています。

 非常にかわいらしい女性キャラクターとほんのり百合風味の作風が特徴で、この「笑顔のたえない職場です。」と並行して「兄の嫁と暮らしています。」や「永世乙女の戦い方」など複数の作品を連載されているパワフルな作家さんですね。

 その中でも「永世乙女の戦い方」とは世界観がリンクしており、あちらに登場する女流棋士の角館塔子が、主人公・双見の連載する将棋漫画「昴へ」の監修をしている、という設定で本作にも登場しています。


「笑顔のたえない職場です。」主な登場人物(ネタバレ注意)

双見 奈々(ふたみ なな)

 本作の主人公で、25歳の女性漫画家。

 作品開始当初、少女漫画誌で将棋をテーマにした「昴へ」の連載が始まったばかりの新人。

 外見は黒髪ロングの可愛らしい雰囲気の女性で、年齢以上に幼い印象を受ける。

 非常に才能あふれる漫画家だが、自分に自信が無く、人見知りで妄想癖があり、常におどおどしている。

 現担当編集者の佐藤に拾われる前は、前担当との相性が悪かったこともあり、全く橋にも棒にもかからない状態だった。

 そのため、自分を拾ってくれた佐藤に対し恩義を感じて過剰に気を遣っており、度々敬意とも愛情ともつかない意味不明な言動を見せる。

 アシスタントの間が業務連絡のため双見の知らないところで佐藤と連絡を取っていたことを知った際など、「NTR感……!」と嫉妬を露にしていた。

間 瑞希(はざま みずき)

 双見のアシスタントを務める20歳の少女。

 本作のツッコミ役を務めるしっかり者で、双見からは「はーさん」と呼ばれている。

 色素の薄い髪をサイドテールにした今風の美少女。

 元々イラストを描くことが好きで、漫画家を目指してTwitterにアップした漫画が出版社の目にとまり、連載の話を受けたこともある。

 が、そこで自分に漫画家として描きたい物語やテーマがないことに気づき、自分には「漫画家としての才能がない」と考えるようになった。

 そんな時、姉の友人で元々顔見知りだった双見から連絡を受け、双見のアシスタントとなる。

佐藤 楓(さとう かえで)

 双見の担当編集者を務める29歳の女性。

 少女漫画誌「クローバー」で、多くの人気作家を担当に持つ敏腕編集者。

 外見はボリュームのある髪を結い上げ、前髪で右目を隠した色気のある美女。

 ただ中身は非常にお堅く、クールそうに見えて意外とドジっ子で乙女。

 双見の投稿作を見た際から彼女の才能を買っており、担当になりたいと手を挙げたが編集者同士のジャンケンに敗れ一度は担当になり損ねている。

 しかしその後、双見の前担当が異動になったことを期に直談判して双見の担当を勝ち取った。

 双見が佐藤の同期で他誌編集者の瀬戸内が双見に誘われたと知った際には「寝取られにあった気分」と落ち込んでおり、ある意味双見と似た者同士で相思相愛。


角館 塔子(かくのだて とうこ)

 将棋の女流棋士(三段)で20歳。

 双見が連載する「昴へ」の将棋に関する監修をしている。

 外見は黒髪ロングで明るい雰囲気の美女。

 双見の漫画のファンでもあり、奨励会時代のエピソードを少し話しただけで新キャラのネームをあっという間に作り上げた双見の才能を尊敬している。

 間とは同い年ということもあって仲良し。

 「くずしろ」先生の別作品「永世乙女の戦い方」にも登場しているが、あちらとは違って本作ではひたすら明るく人当たりの良いお嬢さんとなっている。

梨田(なしだ)

 双見のアシスタント時代の先輩だった25歳の女性漫画家。

 茶髪の勝ち気な雰囲気の女性で、見た目通りお調子者でチョロく、やや面倒くさい。

 双見に先駆けて週刊誌で連載デビューしていたが、作中で打ち切りが決まり、双見の家に押し掛けて入り浸ることに。

 努力の甲斐あって新連載も決まるが、今度は連載中止の脅迫が来たりと、中々苦労人。

ねこのて

 双見のデジタルアシスタント。

 黒髪ツインテールで常に黒いマスクをつけた16歳の少女だが、アシスタントになって当初3か月間はデータのやり取りしかしたことがなかったため、双見もどんな人か知らなかった。

 その正体は青森県在住で引きこもり気味の気弱な美少女。

 漫画家を目指して投稿した作品が、選外だったものの佐藤の目にとまり、それが切っ掛けで双見のアシスタントとなる。

 労働基準法に引っかからないよう、労働時間帯には気を付けよう。

滝沢(たきざわ)

 双見や梨田の漫画家としての師匠で、人気作品を連載している売れっ子少女漫画家。

 外見は黒髪ショートカットで鋭い目つきの美女。

 クールそうに見えて非常に情に厚い親分肌の人で、双見の連載が決まった際には、即アシスタントをクビにし、激励と共に送り出した。

 天才肌で最初から順風満帆だったかと思いきや、実は過去に別名義で少年漫画家としてデビューし、打ち切りとなって挫折した過去を持つ。

戸田(とだ)

 双見の前担当編集者で、現在は少年漫画誌に移っている。

 外見は常に胡散臭い笑顔を浮かべたメガネの男性。

 王道のコテコテ純愛漫画が大好きで、その好みを双見に押し付け、ダメ出しを繰り返していた。

 悪気なく作家の才能を潰していくタイプの編集者で、双見を始めとした周囲からはガッツリ恨まれ嫌われている。


「笑顔のたえない職場です。」感想&評価

登場人物の関係性が尊い良作(ほんのり百合)

 登場人物の掛け合いが軽快で読みやすく、気軽にクスクス笑って読めるタイプの作品です。

 登場人物はほぼ全員が女性で、ギスギスした様子もなく互いに尊敬し、協力し合って作品を作り上げていくお仕事モノで、変にドキドキすることなく安心して読んでいけるところも良いですね。

 お互いがお互いのことを大好きで(尊敬的な意味で)、そうした感情が溢れ出ている感じのやり取りは尊いの一言。

 画力も安定して高く、登場人物はどの子も可愛くて魅力的。

 ほんのり百合風味ではありますが、あくまでフレーバー程度で直接的な描写はありませんのでご安心を(???)。

 日常のゲラゲラ笑える馬鹿話と、お仕事モノとして描かれる漫画家の喜びと苦悩のバランスも良く、正しく良作と呼べる作品です。

こんな人におすすめ

 日常モノのほのぼのしたやり取りが大好き、という方には安心しておすすめできる作品です。

 キャラクターのかわいさ、やりとりの面白さ、どちらも文句なしの高水準。

 主人公のエッジの効いた妄想癖と言葉選びのセンスは一読の価値ありですよ。

 後は、漫画家に興味がある方にもおすすめ。

 まさしく本職が書くお仕事モノ、ワーキングコメディというだけあって、漫画を作る過程だけでなく、コミックスの装丁デザインや書店とのやり取り、トラブルなど非常にリアル。

 思わず「なるほど」と感心してしまうようなやり取り、裏事情なども描かれています。

 「コミックDAYS」で一部無料公開されていますので、興味を持った方はまずは試し読みから。



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