「相続探偵」感想&評価(ネタバレ注意)~早くもドラマ化の期待がかかる西荻弓絵原作の話題作~


 今回は「SPEC」「民王」「妖怪シェアハウス」など人気ドラマの脚本家として知られる西荻弓絵先生原作の遺産相続ミステリー「相続探偵」について紹介します。

「人の数だけ相続があり、相続の数だけ事件がある」

 「相続探偵」は主人公の私立探偵が、その推理力と法律知識を以って遺産相続に隠された闇を暴き、故人の想いを守るドラマ仕立ての痛快ミステリー作品です。

 相続する(させる)財産があるって、必ずしも幸せな事じゃないのかも。
 思わずそんなことを考えてしまう作品でした。

「相続探偵」のあらすじ(ネタバレ注意)

或る小説家の遺言

 物語は大御所ミステリー作家、今畠忍三郎が亡くなったお通夜の場から始まります。

 そこには今畠氏のお通夜の席で振舞われたワインを、遠慮なくバカスカ飲んでいる若い男の姿が。

 おかしな男が紛れ込んでいると今畠氏の秘書、桜庭が声をかけると、男は私立探偵の灰江七生と名乗ります。

 灰江はワイン好きだった今畠氏が主宰するワイン研究会の仲間でした。

 今畠氏のワインの話で盛り上がる灰江と桜庭でしたが、今畠氏の三人の娘がまだ葬儀も終わっていないのに遺産相続のことで騒ぎ出します

 仕方なく今畠氏のビデオ遺言(これが物語の鍵です)を公開する桜庭。
 そこに映る今畠氏から語られたのは、自分の面倒を見てくれた秘書の桜庭に遺産を全額相続させるというものでした。

 娘たちと桜庭の間で引き起こされる「争族」。

 法的効力を持たないビデオ遺言、それと同じ内容の正式な遺言、相続と遺贈の違い、遺言執行者の有無など、法律知識を交えたトリック、そしてそのトリックを仕掛けた人物も含め、実に意表を突かれる内容でした。

鎌倉の屋敷と兄妹と

 多額の借金をしており、ある日高利貸しから逃げ回っていた灰江。

 彼は偶然避難したアパートの空き部屋で、有名ラーメン店「ラーメン五楼」で働いていた葉月さん母子と出会います。

 ラーメン店が閉店したとこで働き口を無くし途方に暮れていた葉月さんですが、彼女は元々鎌倉の名家の出身。両親に頼ることを決意します。

 しかしすでに両親は亡くなっており、実家にいた兄から相続させられる遺産は無いと言われます。

 兄は両親の残した家を売れば多少のお金(嘘)にはなるけれど、そのつもりはないと言うんですね。

 手切れ金として百万を渡す代わり、遺産分割協議書へのサインを迫る兄。

 葉月さんは生活費に困ってその協議書へサインしてしまいます。

 後から話を聞いてそれは相続詐欺だと見抜く灰江。

 両親が残した家は非常に価値が高く、また兄はFXで失敗した借金を生前両親に補填してもらっていました。

 灰江は半端に法律知識のある兄に対し、正しい法律知識でもって葉月さんの正当な相続人としての権利を主張していきます。

 物語の鍵は生前贈与と相続放棄ですね。


「相続探偵」主な登場人物(ネタバレ注意)

灰江 七生(はいえ なお)……ハイエナ?

「あんたの遺産は泣かせねーぜ」

 本作の主人公で「灰江相続調査事務所」を営む相続専門の私立探偵。

 ややもっさりしたボリュームのある髪が特徴の若い男で、常に飄々とした態度を崩さない。

 元は弁護士だったが、ある事件が切っ掛けで弁護士会から除名され弁護士資格を剥奪されている。

 色んな所で多額の借金をしているが、そこには亡くなった父親が関わっている様子、

 コーヒー豆をお菓子のようにボリボリ食べる意味不明な習性を持つ。

三富 令子(みとみ れいこ)

 「灰江相続調査事務所」の女性スタッフ。

 ショートカットの明るい雰囲気の美女で、作中ではバイクを軽々乗り回すなど非常に活発。

 灰江の事務所からまともに給料が振り込まれないため、プライムジムでアルバイトをしている。

 元医大生。

朝永(ともなが)

 灰江の友人で、ミステリに必要な科学調査担当。

 外見はマッシュルームヘアの小柄な男で、声が小さく人付き合いがあまり得意ではない。

 元警視庁で科捜研のエース研究員だったが、金に釣られてあっさり警視庁を辞めている。。

福士 遥(ふくし はるか)

 エリート弁護士。

 スラッとしたいかにもデキそうな若い男で、本作における噛ませ犬役。

 灰江とは彼が弁護士だった時からの知り合い。

 プライムジムに通っていて、そこで働く令子に好意を持つ。


「相続探偵」の感想&評価(ドラマ化の可能性は?)

推理と法律知識が見事に融合したドラマ仕立てのミステリー

 「相続=お金」というみんな大好きなテーマを軸に、推理と法律知識が融合したハイクオリティなミステリー。

 流石は西荻弓絵先生と言うべき傑作です。

 単なる推理モノだと、どうしても主人公の頭の回転の良さに置いて行かれて「ほへ~」と眺めてしまうことが多いのですが、この作品は相続に関する法律知識がそこかしこに散りばめられ、解説されているので、なるほどと感心しながら物語に引き込まれていきます

 自分にこんな「争族」が発生するような財産があるわけじゃないんですけど(田舎なんで厄介で処分に困る土地はたくさんある)、やっぱりお金とか法律知識とかって読んでて興味が湧くし楽しいですよね。

 そういう人の潜在的な心のニーズを上手くくみ取って、分かりやすいドラマ仕立てのエピソードを組み立てているのが「相続探偵」。

 西荻弓絵先生の作品が好きな方には間違いなくおすすめできる一作です。

ストックが溜まれば必ずドラマ化される!

 断言しますが、この作品はいずれ話のストックが溜まれば確実にドラマ化されます。

 間違いありません。

 というか、俳優さんが演じやすいキャッチーなキャラクター、各争族事件のショートエピソードと主人公・灰江の過去にまつわるグランドエピソードといういかにもドラマ向けのストーリ構成、物語の最後につくちょっとしたオチまで、この上なくドラマ向け。

 本当に全く手を加えることなくそのままドラマにできてしまうだろう作品です。

 多分、制作側も最初からそのつもりで動いてるんじゃないでしょうかね。

 事件のエピソードがドラマ1クール分溜まったころには認知度も上がっているでしょうから、俳優さんの手配とか含めて2~3年後ぐらいを目安にドラマ化の話が出てくるんじゃないかな、と予想しています。

 焦ることなく、俳優さん予想などしながらゆっくりとその日を待つことにしましょう。



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