「全部救ってやる」感想&評価(ネタバレ注意)~動物保護のリアルを描いた不完全なヒーローの物語~


 今回は「マンガワン」で連載中の動物保護活動のリアルを描いた話題作「全部救ってやる」について解説します。

 この作品はスタイリストを目指すも現実の厳しさに打ちのめされ自分を見失っていた女性と、破天荒な動物保護活動家の視点からペットビジネスの闇や動物保護活動のリアルを赤裸々に描いた作品。

 そこには全てを救う完ぺきなヒーローなどおらず、ただ厳しい現実の中でもがく迷子ばかり。

 本記事では「全部救ってやる」のあらすじや主な登場人物の解説を踏まえ、その魅力を語ってまいります。

「全部救ってやる」あらすじ

例えば猫は、毎日26匹が殺処分されている。例えば犬は、毎日6頭が殺処分されている。さまざまな理由で殺される動物たちを少しでも減らそうと日夜奮闘する人々がいる—— そして、どんな世界にも”ヒーロー”は存在する!!

 本作の語り部であり主人公の一人、星野スズはスタイリストを目指して上京し、超人気ヘアサロンのメジャーカットでアシスタントとして働いていました。

 五年目でついに後輩を蹴落としてスタイリスト試験に合格したものの、星野は自己嫌悪と罪悪感で押し潰されそうに潰されそうになってしまいます。

 そのせいで体調を崩し一時実家に帰宅した星野は、気分転換に軽い気持ちで動物保護の現場に顔を出すのですが、そこで見たのは崩壊した飼育現場でボロボロになった猫たちと、それを救助するボランティアたち。

 その中でも一際異彩を放っていたのが久我という個人ボランティアの男でした。

 その身を顧みず動物たちの保護活動に全てを捧げる久我に興味を持つ星野。

 動物たちのためにどうしてここまでできるのか。

 そう訊ねた星野に、久我は一言。

「何も考えていない」

 それは正気ではできないということなのか、考える前に身体が動いていたということなのか。

 久我と関わっていく中で、星野は保護活動を利用して金を稼ぐ悪徳業者やペットビジネスの闇、厳しい保護動物たちの現状など様々なものを目の当たりにしていきます。

 そこに真っ向から立ち向かう久我の姿に、やがて星野は本当になりたかった自分を取り戻していくことになります。


「全部救ってやる」主な登場人物

久我

 本作の主人公の一人で個人で動物保護活動を行っている青年。

 眼鏡で長髪の垢ぬけない雰囲気だが、かつらを被って短髪にしていた時は星野からイケメンと評されており、顔立ちはとても整っている模様。

 年齢は27~28歳。

 動物保護活動に生活の全てを捧げており、保護動物の餌代などを捻出するためにウーバーやヌードデッサンのモデルなど複数のバイトを掛け持ちしている。

 中学生の時に飼っていた犬が統合失調症の父のせいで行方不明になってしまい、15年経った今でもその行方を捜している。

 そしてそのことが切っ掛けで動物保護活動に全てを捧げるようになる。

 自分の手の届く範囲で必死に動物たちを救い続けているが、決してスーパーマンではなく、傍からはとても危うく見えることも多い。

星野スズ

 東京の超人気ヘアサロンのメジャーカットでアシスタントとして働く女性。

 五年目にしてついにスタイリスト試験に受かるが、その際に合格していた筈の後輩を蹴落としてしまい、一時的に心を病んで帰郷する。

 そこで久我と出会い、動物保護活動を通じて本当になりたかった自分の姿を取り戻していくこととなる。

 外見は内側にメッシュを入れたボブカットのお人よしそうな女性。

 ネガティブな性格で、大抵ウジウジ悩んでいる。

 作中ではメジャーカットを辞めて故郷に戻り、介護施設などを訪問してカットの仕事をしながら久我の活動に関わっていくことになる。

鈴木(五十嵐會?)

 ペットビジネスを悪用して金を稼いでいる犯罪者。

 外見は黒髪糸目で帽子をかぶった青年。

 作中では鈴木と名乗っていたが恐らく偽名。

 保護活動名目で募金を横領したり、飼育崩壊した繁殖場の人間を騙して山にペットを不法投棄させて金を貰ったりと、久我と対照的な外道として描かれている。


「全部救ってやる」感想&評価

ヒーローは存在する……?

どんな世界にも”ヒーロー”は存在する!!

 とあおり文に書かれていましたが、果たして彼らをヒーローと呼んでいいのか……

 スーパーヒーローが動物たちを「全部救える」話ではなく、迷子のような不完全な主人公が「全部救ってやる」ともがき続ける物語。

 久我が絶対的に正しいわけではなく、むしろ問題のある部分も多数あります。

 久我は身銭を切って活動していますが、そのやり方で救えるのはほんの一部。

 どこかで破綻するのは目に見えています。

 また世間ではペットショップの罪を高らかに謳うことも多いですが、この作品ではペットショップは動物と縁を繋ぐ場所と、一概にその存在を否定することはありません。

 フラットな視点で、動物保護活動やペットビジネスの光と闇を丁寧に描いた作品と言えるでしょう。

こんな人におススメ

 動物を飼っていたり、これから飼おうと考えている方には是非一度読んでいただきたい作品です。

 どうせ飼うなら保護動物を、などという話ではなく、そこにどんな現実や問題があるのかを知る上で、よい教科書になる作品ではないかな、と。

 逆に動物がキレイに救われてハッピーエンドという話ではないので、爽快感のある展開を欲している方にはおススメしません。

 また久我自身も危うく救いのない生き方をしている人間なので、彼がどんな風に変化していくのか、そうした頑なな人間の変化をじっくり楽しみたいという方にもおススメです。



コメント

タイトルとURLをコピーしました