「ひらやすみ」感想&評価(ネタバレ注意)~29歳フリーターと18歳美大生が阿佐ヶ谷の平屋を舞台に紡ぐモラトリアム~


 今回は「ビッグコミックスピリッツ」で真造圭伍先生が連載中の話題作「ひらやすみ」について紹介します。

 この作品は知り合いの老婆から阿佐ヶ谷に平屋の一軒家を譲り受けた29歳のフリーターと、その従妹の18歳美大生が穏やかな日常モラトリアムストーリー。

 阿佐ヶ谷つながりで阿佐ヶ谷姉妹が「のんびり暮らしの達人」と推薦文を書いたことでも話題となっていました。

 本記事では「ひらやすみ」のあらすじと登場人物の紹介を交えつつ、その魅力・感想を語ってみようと思います。

「ひらやすみ」あらすじ

 主人公の生田ヒロトは役者の道を諦め、日々目的もなくのんびりと生きる29歳フリーター。

 ヒロトは何故かご老人には好かれるタイプで、お世話になっていたお婆ちゃんから遺言で阿佐ヶ谷に平屋の一戸建てを譲り受けることになります。

 そしてその三か月後、美大進学のために山形から上京してきた従妹の小林なつみと一緒に暮らすことに。

 それを切っ掛けに少しずつヒロトの周囲には色んな悩みを抱えた人々が集まってきます。

 フリーターで、誰より将来を悲観して悩んでいなければならないはずなのに、全く気にすることなく日々を気ままに過ごしているヒロト。

 そんなヒロトより恵まれているはずなのに、生きづらそうな人々。

 あまりにマイペースなヒロトに感化され、周囲の人々にも少しずつ変化が訪れていきます。

 そして時折語られる、ヒロトと平屋を譲ってくれたお婆ちゃん・和田はなえさんとの思い出。

 阿佐ヶ谷の古びた一軒家を舞台に、ちょっと変わった人々の心解きほぐされるヒューマンドラマが紡がれていきます。


「ひらやすみ」主な登場人物

生田 ヒロト(いくた ひろと)

 本作の主人公で29歳フリーター。

 のんびりとした雰囲気の黒髪の青年で、性格は優しく非常にマイペース。

 元々役者を目指して上京しましたが、タイプの女性を前にすると緊張してNGを連発してしまうため、役者の道を諦め、現在は釣り堀のバイトで生計を立てている。

 ちなみに、回想シーンを見ると役者時代は怪しいベッドの上で美女と抱き合いガチガチになるヒロトが描かれており、何系の役者を目指していたかは怪しまれるところ。

 好物はたこ焼き。

 お年寄りにはやたら好かれるタイプで、身寄りのないお婆ちゃん・和田はなえさんから遺言で阿佐ヶ谷の一軒家を譲り受けることになる。

小林 なつみ(こばやし なつみ)

 ヒロトの従妹で18歳の美大生。

 山形から美大進学を機に上京し、ヒロトが譲り受けた平屋で一緒に暮らすようになる。

 外見は黒髪ショートカットのあか抜けない雰囲気の少女。

 都会の洗練された生活への憧れが強く、ヒロトとの古びた平屋での暮らしにはやや不満げな様子を見せることも。

 田舎者という劣等感からか、周囲の同級生たちに気後れして中々友人を作れずにいる。

 漫画家志望。

和田 はなえ(わだ はなえ)/ばーちゃん

 遺言でヒロトに阿佐ヶ谷の平屋を譲った年金暮らしの老婆。

 物語が始まる(ヒロトとなつみが一緒に暮らし始める)3か月前に心筋梗塞で亡くなっている。

 結婚はしておらず、一人暮らしで身寄りもない。

 何故かヒロトと意気投合し、ヒロトに月木の週二日夕飯をごちそうしていた変わり者。

 偏屈そうで口は悪いものの、根は優しくヒロトのことを心から心配していた。

 元給食のおばちゃんで料理上手。

 ある意味ではこの作品におけるヒロイン。

野口 ヒデキ(のぐち ひでき)

 29歳家具店勤務の濃ゆい顔の男。

 高校時代からのヒロトで高円寺在住。

 結婚一年目でもうすぐパパになる。

 ヒロトとは家が近いのでしょっちゅう一緒に遊んでいる。

 気障な性格で割とクズ。

 だからこそ、ヒロトとしても気にせず友人づきあいが出来ているという面もある。

横山 あかり(よこやま あかり)

 なつみの大学の同級生で友人。

 三つ編みそばかすメガネの真面目でかわいらしい雰囲気の少女。

 福岡出身で一浪して美大に入学しており、年齢はなつみの一つ上。

 なつみと同じく美大入学後、しばらく友人が作れずにいた。

立花 よもぎ(たちばな よもぎ)

 不動産会社に勤務するOL。

 黒髪の美人さんで、営業成績はトップだが色々余裕がない。

 ヒロトとは彼が駅のエスカレーターの歩く方(右側)で止まっていたことが切っ掛けでトラブルになり、面識を持つ。

 その後、ヒロトが譲り受けた平屋のことで正式に知り合うが、ギクシャクしっぱなし。

 一応本作のヒロイン役と考えられ、ヒロトのことを気にはしているが、トロトロしているヒロトとの相性はあまり良くなく、作者の趣味から考えてもそっち方面での進展は期待薄。


「ひらやすみ」感想と評価

作者が「人として正しい」を突き詰めた結果がこの主人公

 作者の真造圭伍先生に対しては、前作「ノラと雑草」を読んで人の負の部分を描くタイプの作家さんなのかなという印象を持っていたのですが、「ひらやすみ」は前作とは対照的に正の部分にスポットが当たった作品だなと感じました。

 単純に善人を描いているというわけではなく、普通の人が持つ普通の良さがしっかり描かれているなと。

 作者のインタビューでは「主人公を『人として正しい』人間にしようという思いがあった」と語られており、それを読んで思わず「正しいって何だ?」と考えさせられてしまいました。

 将来とかより良い「幸せ」とか何も考えておらず、彼自身は何も変わらないのに、自然と周囲の人間に変化を与えていくヒロト。

 そんな変わっていく周囲を見て、ヒロトは何を感じ、どうあろうとするのか、今後が非常に楽しみな作品です。

こんな人におすすめ

 「ひらやすみ」は悩み多き現代社会に住まう人々には、大なり小なり刺さる作品だと思います。

 内容的にも作風的にも男女年齢を問わずおすすめできますが、特に20~30代の悩み多き年代の方々には是非一読いただきたい。

 決してこの作品が悩みを解決してくれるわけではありませんが、ストレスでガチガチに固まった心を優しく解きほぐしてくれる一助にはなるのではないかな、と。

 基本は日常物で、話の繋がりを意識せず空いた時間に読むことができます。

 疲れたな、と感じた時に、過度に期待し過ぎるのではなく、ふと手に取って読んでいただきたい作品ですね。



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