「新約カニコウセン」感想&評価(ネタバレ注意)~「蟹工船」をSFリメイク? これもう「蟹」じゃねぇし!~


 今回はプロレタリア文学の傑作「蟹工船」をSFリメイクした問題作「新約カニコウセン」について紹介します。

 「新約カニコウセン」は全ての海が蒸発し、巨大水棲生物たちが空を飛ぶ架空未来を舞台に、蟹工船で働かされる底辺労働者たちの苦悩と闘争を描いた物語。

 小林多喜二の「蟹工船」のテイストは残しつつ、世界観を大胆にリメイクした問題作です。

 本記事では「新約カニコウセン」のあらすじ(原作の解説含む)や登場人物の紹介を交えつつ、その魅力を深掘りしていきたいと思います。

「新約カニコウセン」あらすじ(ネタバレ注意)

底辺労働者たちと暴虐監督・九条の争いを描いたSFサバイバル

 数千年前に海が蒸発した未来の地球。

 そこでは独自の進化を遂げた巨大な水生生物たちが”空流”に乗って空を泳いでいました。

 資本主義国家・大極亜帝国は、国の威信を懸けて危険な蟹漁に力を入れており、そこでは他に行き場のない底辺労働者たちが蟹工船という劣悪な労働環境で酷使されています。

 主人公の流伽は借金を課されそんな蟹工船で働く底辺労働者の一人。

 流伽は先の見えない劣悪な環境に絶望し、自暴自棄になっていましたが、親友の柊が自分を庇って監督の九条に殺されたことで、何が何でも借金を返し、生きてこの蟹工船を降りてやると決意します。

 しかし巨大水棲生物との戦いは死と隣り合わせ(蟹を狩る手段は、肉体を強化する薬品を注射してのサブミッション)。

 その上、流伽は九条に目をつけられてしまい、ことあるごとに危険な目にあわされます。

 仲間たちの助けもあり、辛うじて日々を生き抜く流伽。

 そんな中、流伽たちの乗る蟹工船に「アカ」と呼ばれる共産主義者、敵対するガゼル共和国連邦の影響が及び……?

小林多喜二・原作「蟹工船」とは?

 「新約カニコウセン」の原作(元ネタ)となった「蟹工船」とは、1929年に小林多喜二が発表したプロレタリア文学の小説で、蟹工船で酷使される底辺労働者を描いた物語です。

 プロレタリア文学とは、虐げられる貧しい労働者の現実を描いた物語。

 これを書いた小林多喜二は当時の政府からは厳しい眼を向けられ、作品が発禁処分となっただけでなく、最期は逮捕され厳しい取り調べ(拷問)を受けて死亡しています。

 物語としては特定の主人公が存在しない群像劇。

 当初は唯々諾々と上に従うだけだった労働者たちが、異国の価値観に触れたことで権利意識に目覚め、労働者としてストライキ闘争に踏み切る、という内容となっています。


「新約カニコウセン」主な登場人物(ネタバレ注意)

流伽

 本作の主人公。

 外見は黒髪でがっちりした体格の少年。

 孤児院出身で馬鹿みたいな額の借金を背負わされ、蟹工船に売り飛ばされた。

 先の見えない過酷な暮らしにより自暴自棄となっていたが、親友の柊が自分を庇って九条に殺されたことで、生きて蟹工船を降りることを決意する。

 流伽の幼馴染。

 流伽と同じく蟹工船に売り飛ばされるが、生きる希望を失わず流伽を元気づけていた。

 第一話で、九条に逆らった流伽を庇い、撃ち殺される。

九条

 流伽たちが乗る蟹工船・鶯谷丸の監督。

 外見は右目に眼帯をつけたロリ巨乳の美少女。

 ただしその中身は悪逆な支配者で、自身に逆らう労働者を容赦なく痛めつけ、処分していく。

 どれだけ痛めつけても心が折れることのない流伽に執着し、ことあるごとに自分のモノにしようとする。

悠浬

 アカ(共産主義者)の暴動で墜落した蟹工船から移ってきた青年。

 見た目は中性的な美青年で物腰も柔らか。

 ただしその戦闘能力は高く、男色(両刀)もこなせる謎めいた存在。

 何らかの目的を持ち、流伽にその旗頭になって欲しいと考えている。

大門

 流伽たちの6班の班長。

 モヒカン頭の屈強な男で、班員から頼られている。

 実はガゼル共和国連邦の血が流れており、それ故に蟹工船ぐらいしか働ける場所がない。

 蟹工船の中でも更に底辺、殻剥き班で働くアル中老人。

 元は凄腕の船長だった。

 最後は船長として流伽たちを救い命を落とす。

戸倉

 九条の部下。

 流伽たち工員の監視役で、自分より立場が弱い者をいたぶって悦に入る下衆。

田嶋

 上流階級出身の青年だが、蟹工船の過酷な現状を変えるルポ記事を書こうと、社会勉強のために蟹工船に乗る。

 志は立派だったが、基本上から目線だったため周囲から見放される。

 最後は戸倉達の男色のお相手をさせられ、恨み辛みを書きなぐって自殺した。


「新約カニコウセン」感想&評価

SF要素を除けば、意外と「蟹工船」に忠実

 SFリメイクということで、いきなり主人公たちが巨大なタラバガニにサブミッション(関節技)で立ち向かうという荒唐無稽さはありますが、意外と内容は「蟹工船」に沿ってるな、というのが第一印象。

 巨大水棲生物とのバトルはどちらかと言えばおまけで、蟹工船内の人間関係に主眼が置かれています。

 SFだと割り切れば国家など背景設定はしっかりしていますし、画力も高水準で読み応え有り。

 工員間の男色については賛否有りますが、過酷な環境下における性〇処理として原作「蟹工船」でも描かれている内容です。

 単なる一発ネタ作品かと思いきや、読んでみると意外に真面目にリメイクしているな、というのが正直な感想。

こんな人におススメ

 とにかく「熱い」物語が読みたいという方におススメです。

 バトル、人間関係共に読み応えがある作品ですから、そういったニーズには間違いなく応えてくれるのではないかと思われます。

 一方、男色などやや過激でグロ目の展開が多く、そういうのが苦手な方は注意が必要ですね。

 少し気になるのは九条を除いて登場人物の個性が弱めなことですが、これは特定の主人公がいない原作「蟹工船」を忠実に再現した結果なのかな?

 とにかく物語として「熱い」作品。

 これを機に原作「蟹工船」を読んでみると、より一層楽しめるかもしれません。

 



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