今回は「ジャンプ+」の話題の将棋漫画「目の前の神様」について解説します。
この作品はプロになったものの、すっかり自分の将棋に自信を見失ってしまった若手棋士の葛藤と脱皮の物語。
「ジャンプ+」では「盤王(完結済)」が先に連載し将棋漫画のトップを走っていたため、早々に打ち切りが噂されるなど中々苦しい時期もあった作品です。
ただキャラが非常に立っていて自信をもって面白いとおススメできる良作。
本記事ではあらすじや登場人物の解説を踏まえ、その魅力を深掘りしたいと思います。
「目の前の神様」あらすじ(ネタバレ注意)
物語の主人公・大刀遥一郎は20歳でプロ入りしたばかりの将棋の棋士。
過酷な奨励会を突破してプロになっただけでもすごいことなのですが、彼はすっかり自信を失っていました。
幼い頃は自分を天才だと疑っていなかったものの、才能あふれる同世代の人間にドンドン置いていかれ、自分のことを凡人だと思うようになっていました。
デビュー戦の相手・上方は三歳年下ながら中学生でプロ入りし、様々な記録を打ち立て世間から注目される大天才(もちろん大刀の負け)。
同期の小出もその連勝記録を止めた俊英として注目されています。
自分は所詮モブ棋士、そう自分に言い聞かせていた大刀は、しかし口ではネガティブなことを言いつつも、本音はとんでもない負けず嫌いで誰にも負けたくないと思っていました。
そして自信を失い定石通りの将棋を打つようになってから埋もれてしまっていましたが、大刀遥一郎は常識外れの発想力を持つ本物の天才だったのです。
それこそ、世間から注目される上方も認めるほどの。
自分が敵わない感じる同期や大先輩、憧れの名人、師匠との対戦。
勝ったり負けたりを繰り返し、大刀は少しずつかつての自由な将棋を取り戻していきます。
ネガティブな気質はそのままに、しかし神様にだって負けたくないと強い想いを胸に秘めて。
「目の前の神様」主な登場人物(キャラクター)
大刀遥一郎
本作の主人公で棋士。
初登場時20歳で、プロ入り直後。
彼を端的に表現するなら、才能はあったのに微妙に躓いて自信を喪失し、その才能を活かせていない天才。
幼い頃は定石を外れた自由な奇手を得意としていたが、自信喪失してからは無難な手を打つようになっていた。
集中しすぎて川に落ち、ザリガニをくっつけて将棋会館に来るなど悪い意味で天才っぽいところは残っている。
ちなみにプロ入り初勝利でカメラに向かってピースしてしまい、「ピース大刀」とのニックネームがついた。
伊部さん
大刀の三歳年上の姉弟子。
かつて大刀と共に奨励会に入りプロを目指したが、現在は女流に転向した。
お金がないので同郷の大刀と同居している。
上方亮(上様)
世間から注目を浴びる天才棋士。
大刀より三歳年下だが、中学生で先にプロ入りし、デビュー後30連勝など様々な記録を打ち立てている。
おっとりした雰囲気の少年で、昔から大刀の才能に注目していた。
高天恒彦名人
大刀の世代のヒーローで憧れの人。
かつて七冠を制覇したこともあり、現在は四冠。
周囲からは物凄い人のように思われているが、将棋以外何もできないダメ人間で、しかもその将棋すらしんどいからやめたいと口にしている。
両親は会社を経営しているが、後継者となれなかった彼は既に絶縁済。
自分には将棋しかなく、将棋をしている時だけ人は自分に向き合ってくれると感じている。
また面倒見のよい同期の田原九段(後述)が大好き。
田原信彦師匠
大刀や伊部さんの師匠でぽっちゃりメガネのオジサン。
あまり凄そうには見えないが、九段でタイトル経験もある凄い人。
結構ずばずば言いたいことを言うタイプだが、面倒見がよく周囲から慕われている(特に高天名人から)。
スイーツ大好き。
村井巧
AIを駆使する若手頭脳派棋士。
上方との対戦で自信を失い、大刀との対戦で将棋への熱を取り戻す。
大学院に通い、AIの研究をしている。
小出
大刀の奨励会の同期で、2年先にプロ入りした若手の俊英。
上方の連勝記録を止めた人間として注目されている。
現在の大刀のことは見下しつつも、その才能は認めており、何だかんだ仲が良い。
安河内昂臣九段
初登場時竜王で、高天に次ぐ現将棋界のNO2。
作中で上方に敗北し竜王を失冠している。
色々と屈折しており、相手の嫌がる将棋を指すタイプ。
「目の前の神様」感想&評価(ここが面白い)
自信を失ったプロ棋士の葛藤と脱皮
将棋漫画は数多くありますが、その主人公は大抵は「物凄い天才」か「プロにも成れない挫折した凡人」の2パターン。
ドラマを作ろうと思えばどうしたってそうなります。
しかしこの作品の主人公・大刀は、20歳でプロ入りとさほど凄くもなく、プロにはしっかりなれているので挫折というほどの挫折を経験しているわけではありません。
言うなれば「凡庸なプロ」。
プロになれた時点で天才には違いないのですが、仮にここから這い上がっても世間的にあまり「凄い」とはなりませんよね。
実際、この微妙な設定から連載当初は度々ファンの間で打ち切りがささやかれていました。
しかしこの難しい設定を上手く料理し、漫画として面白くしたのがこの作品。
絵が上手いわけでもストーリーが特別凄いわけでもないけれど、漫画として面白い、そういうタイプの良作です。
こんな人におススメ
将棋好きは勿論ですが、内容的にはキャラクターの内面や人間模様を描いた描いたヒューマンドラマの側面が強いので、将棋が分からない方でも問題なく読める作品です。
性別年齢を選ばない内容ではあるものの、主人公がウジウジ系で、本気モードに入っても必ずしも勝てるとは限らないので、爽快感のある話を求めている方には向かないかもしれません。
作風で少し好き嫌いが分かれると思いますが、「漫画として面白い作品が読みたい」という方には是非読んでいただきたい作品です。
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