「マイホームヒーロー」感想(ネタバレ注意)~平凡なサラリーマンが家族のために罪を犯すクライムサスペンス~


 今回は週刊ヤングマガジンで連載中のクライムサスペンス作品「マイホームヒーロー」について紹介します。

 この作品では平凡なサラリーマンが半グレ組織から娘を守るために罪を犯し、半グレ組織と対決する様が非常にスリリングなストーリー展開で描かれています。

 本記事ではマイホームヒーローのあらすじや登場人物をネタバレ付きで解説するとともに、その魅力やドラマ化の可能性などについても深掘りしていきたいと思います。

「マイホームヒーロー」あらすじ(ネタバレ注意)

娘を守るための殺人、半グレ組織との戦いの始まり

 主人公の鳥栖哲雄は推理小説が好きなごく普通、善良な中年サラリーマン。

 哲雄は一人暮らしを始めた娘の零花に会いに行った際、その顔に殴られたような痣を見つけ動揺します。
 そして零花と別れた直後、偶然零花と付き合っているらしい男を見つけ、男が零花を殴ったのではと疑いを抱くのです。

 翌日、哲雄が会社を休んで零花のマンションを探っていると、そこに零花と付き合っている男が訪ねてきました

 咄嗟にクローゼットの中に隠れ男の話を盗み聞きしていると、男が妻の実家の財産に目をつけ零花に近づいたこと、過去に二人の女性を殺害していることなどが判明
 しかも、男は仲間から哲雄が周囲をうろついていることを知らされ、それが零花の差し金だと勘違いして零花を殺すと喚きだしたのです。

娘を守るため、咄嗟に哲雄は男を殺害。
 第一発見者となった妻の歌仙とともに証拠隠滅を図ろうとします。

 しかし哲雄が殺した男、麻取延人は半グレ組織の一員で、しかもその父親、麻取義辰は組織の上層部メンバーでした。
 半グレ組織は失踪した延人を探し、前後の状況から哲雄を疑い、彼を拉致して追い詰めていきます。

 哲雄は自分を追う半グレ組織の一員、間島恭一に対し巧みな心理戦を仕掛け、時間的猶予を引き出します。

 そしてその間に計画を練り上げ、命がけの攻防の末に恭一を延人殺害の犯人に仕立て上げることに成功するのです。

哲雄に伸びる捜査の手、カルト教団も加わり抗争は激化

 難を逃れたかに思えた哲雄でしたが、半グレ組織は変わらず零花をつけ狙っていました

 零花は半グレ組織によって攫われてしまいますが、哲雄に興味を持った高校生、小沢謙信の助けなどもあり哲雄はなんとか零花を救出します。

 しかし、哲雄が起こした数々の事件は、着実に警察の手によって暴かれつつありました

 自身の逮捕を予期した哲雄は、妻と娘を守るため離婚を決意。
 歌仙に零花を託すべく、帰郷していた妻の実家を訪れます。

 しかし、妻の実家がある村を訪れた哲雄は、村民によって到着早々に零花と引き離され、軟禁状態に置かれてしまいます。

 実は妻の歌仙の実家は神道系のカルト教団を運営しており、歌仙と零花にその巫女たる「オガミメ」を継がせることを望んでいました。

 若かりし日の歌仙はそれを嫌がり、脱走して哲雄と一緒になっていたんです。

 しかしカルト教団は歌仙たちを見逃すことなく、ずっとつけ狙っていました。

 哲雄たちを追って半グレ組織が村を訪れ、彼らの引き渡しを求めますがカルト教団はこれを拒否。

 半グレ組織とカルト教団、そしてその二つを潰し合わせ共倒れを狙う哲雄、三者三様の思惑が絡み合い、抗争はますます激化していきます。


「マイホームヒーロー」登場人物(ネタバレ注意)

鳥栖一家(哲雄、歌仙、零花)

鳥栖 哲雄(とす てつお)
本作の主人公であり、おおちゃメーカーに勤める平凡な47歳サラリーマン。
「うん」を「おん」と答える奇妙な癖を持つ。
家族思いの善良な男だが、娘を守るため殺人を犯し、どんどんドツボにハマっていく。
推理小説知識を元にした証拠隠滅や半グレ組織相手の心理戦など、頭の回転は速い。
実は婿養子なのだが、妻の実家がカルト教団と知りながら養子に入るのはどうかと思う。
ちなみに、趣味である小説投稿サイトへの投稿に関し、本人は「中の中」と自己評価しているが、悲しいかな平均100pvというのは底辺作家と呼ばれる部類である。

鳥栖 歌仙(とす かせん)
主人公の妻であり、41歳の専業主婦。
外見はメガネをかけたごく普通の品の良い女性で、実家は資産家の呉服屋(とされていた)。
殺人を犯した夫を見て、全く動揺せず即座に証拠隠滅を提案できるあたり相当頭がおかしい。
それもそのはず、実は実家はカルト教団の元締め。
幼い頃は閉鎖環境で育ち、一般社会の常識を全く知らなかったという。
結局のところ、全ての発端は彼女が哲雄と結婚したことにある。

鳥栖 零花(とす れいか)
主人公の一人娘で18歳の大学生。
本当にごくごく普通で今時なかわいい女の子。
反抗期真っ最中のため哲雄には冷たく当たるが、それでも毎年誕生日には凝った手作りのものを送っているあたり、普通に良い子。
歌仙の実家から5億円の遺産相続受取人にされ、半グレ組織に狙われることとなる。
最初は普通の少女であったが、父親の血筋か徐々に行動がアグレッシブになっていく。

半グレ組織(間島、窪、志野、麻取義辰・延人)

間島 恭一(まじま きょういち)
半グレ組織に所属する20歳の青年で、実働部隊のリーダー。
非常に頭の回転が速く、延人失踪後、早々に哲雄に目星をつける。
母子家庭で母親想いだったり、作品が違えば主人公になってもおかしくない逸材。
哲雄にハメられ殺人犯に仕立て上げられ、友人が半グレ組織に殺されたりと不憫な男。

志野(しの)
半グレ組織のトップと言いつつ、実は暴力団員という詐欺のような男。
警察内部やカルト教団に手の者を忍ばせるなど、非常に狡猾。

窪(くぼ)/本名:佐武 辰巳(さたけ たつみ)
半グレ組織のリーダー。
スキンヘッドの強面で、フリーの殺し屋。傭兵経験もあるという。
徹底した合理主義者で、古株である間島であっても、延人殺害の疑いが強まるとあっさり切り捨てている。
逆に稼ぎ頭である麻取義辰とその息子である延人はかなり特別扱いしている。

麻取 義辰(まとり よしたつ)/本名:山内 義辰(やまうち よしたつ)
半グレ組織に所属する腕利きの詐欺師。
頭は非常にキレるが、実際のところ社会性に欠けていて、人づきあいが苦手。
その反動か息子の延人を溺愛しまくっている
息子を殺した哲雄を殺そうとするが、それが叶わず最後は自殺する。

麻取 延人(まとり のぶと)/本名:山内 延人(やまうち のぶと)
半グレ組織のメンバーで零花の彼氏。
親のコネで半グレ組織に入った、粗暴かつ非常に頭の悪い男。
第一話で哲雄にあっさりぶっ殺される。
「何でこんなバカと付き合ったんだよ?」と多くの読者が零花の見る目のなさに呆れた。

その他(警察、小沢謙信、カルト教団)

安元 浩司(やすもと こうじ)
警視庁の警部補で、かつて哲雄の父親の部下だった男で哲雄とは旧知の中。
「犯罪者には人権はない派」の信者で、そのためには犯罪すら辞さない自滅系の男。
哲雄に疑いを持ち、追い詰めることとなるが、志野に買収された部下の裏切りなどにより、半グレメンバーの取り調べ中に首を切られ死亡する。

小沢 謙信(おざわ けんしん)
哲雄の小説の読者という変わった趣味を持つ高校生。
哲雄の小説が実体験に基づくものではないかと疑い、哲雄にまとわりつく。
実は元反社の父親が組織を抜けたことで窪に殺された過去を持ち、恨みを持っている。
当初は哲雄に警戒されていたが、色々便利で役に立つため徐々に信頼されていく。

鳥栖 郷一郎(とす ごういちろう)
歌仙の父親でカルト教団の教祖
色々とお盛んな人であり、村には彼の多くの非嫡出子が存在する。
なお、その性欲の対象は実の娘である歌仙にさえ向けられており、最後は哲雄によって殺される。

鳥栖 天照(とす てんしょう)
歌仙の母親でカルト教団の巫女「オガミメ」。
詐欺師筆頭のオカルト憑依女だが、がんで先は長くない。

鳥栖 胡蝶(とす こちょう)
歌仙の異母姉。歌仙の表向きの実家である呉服屋を実質的に取り仕切っている。
妹である歌仙を裏切り者と考え、後に歌仙に対し村からの永久追放を告げる。


「マイホームヒーロー」感想&評価

平凡なサラリーマン? 普通の家族? いやいや……

 最初は主人公に共感して物語に引き込まれ、続いて徐々に明らかとなる主人公たち家族の異常さに裏切られる。良い意味で詐欺のような作品だな、というのがこの作品の感想です。

 まず、ごくごく平凡で気弱なサラリーマンが家族を守るためにやむを得ず殺人を犯すという展開が読者をグッと物語に引き込みます。

 家族を守るためという殺害の動機、自首しても家族が危ういという証拠隠滅の必要性、被害者である延人のクズっぷりもあって、哲雄の感情や行動は犯罪でありながらひどく共感できるものなんですよね。

 しかし物語が進むに連れ、哲雄の頭の回転の速さに「え? こいつ凄くない?」と驚かされ、歌仙の実家の事情が明かされると「え? おかしいとは思ってたけどそういうこと?」と奇妙な納得を感じることとなります。

 半グレ組織と渡り合える知識と頭の回転を持つサラリーマンと、カルト組織で育った妻。

 一番おかしいのは主人公夫婦だった、ってオチでした。

スリリングな展開と頭脳戦が面白い!

 息をつかせぬスリリングな展開がこの作品の最大の魅力です。

 哲雄は頭が回りはしますが、それでも超人的な頭脳を持っているわけではなく、失敗もすれば裏をかかれることもあります。

 作中では頻繁に敵に捕まって、ピンチになって、死にそうになっています。

 しかしちょっとした幸運に助けられ、その頭脳で苦境をはねのけていくわけですが、それが非常にスリリングで爽快感があるんですよね。

 次の展開はどうなるのか、読んでいていつも次が待ち遠しくなるような良作です。

ドラマ化(映画化)の可能性は?

 ドラマ化も期待される内容ですが、現時点で具体的な話は聞こえてきません。

 その最大の要因は、ストーリー最大の伏線である歌仙の実家が原作でもまだ消化されていないことだと考えられます。

 適当に区切って、オリジナルストーリーとして完結させれば現時点でドラマ化することも出来るのでしょうが、それだとどうしてもこの作品の魅力が薄れてしまいますよね。

 原作が完結するか、もう少し区切りのいい所まで話が進めばいつドラマ化(or映画化)されてもおかしくない作品ですから、その日を楽しみに待つことにしましょう。



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