「あくたの死に際」感想&評価(ネタバレ注意)~粘着質で胸にヒタヒタくる感じが絶妙に面白い~

引用元:裏サンデー

 今回は「裏サンデー」や「マンガワン」で連載中の「あくたの死に際」について解説します。

 「あくたの死に際」は大手企業に勤め順風満帆な日々を送っていた主人公が、突然心を病んだことを切っ掛けに小説家を目指すという物語。

 主人公は人気作家として活躍している後輩の期待と安定を求める恋人との間で苦しみながら、少しずつ小説家になりたいという自分の本心と向き合っていくことになります。

 本記事では「あくたの死に際」のあらすじや登場人物の紹介も踏まえ、その魅力について深掘りしてみようと思います。

「あくたの死に際」あらすじ

 主人公の黒田マコトは大手企業に勤める31歳の会社員。

 仕事は順調、付き合って3年のかわいい彼女もいて、そろそろ結婚も考えていました。

 しかしある日の朝、彼は突如として心を病み、会社に行く道が分からなくなってしまいます。

 以降、仕事は休職。

 会社や彼女は暖かく復帰を見守ってくれますが、黒田はどうすれば立ち直れるのかわからず、ずっと暗闇の中にいました。

 そんな時、黒田が再会したのが、大学時代の文学部の後輩で、今は人気小説家として活躍中の黄泉野季郎。

 大学時代、黒田の文才に期待していた黄泉野は、黒田に小説を書けと焚きつけます。

 実は元々黒田は文芸部の部長で周囲からその文才を認められていたのですが、本人は自分には才能がないと線を引き、小説家になろうなどとは考えていませんでした。

 しかし後輩だった黄泉野が在学中に文学賞を受賞したことで自分も自覚していなかった嫉妬心を掻き立てられ、その後部誌に書いた一作を最後に小説を書くのはやめていました。

 黄泉野に心の奥底にある小説家になりたいという願望を見抜かれ、動揺しながらも休職中の手慰みという建前で文芸賞に投稿する黒田。

 残念ながら受賞こそかなわなかったものの、編集者の目に留まり、小説家デビューが現実味を帯びていきます。

 しかし実際にデビューして売れるには、単純な作品の面白さ以外にも様々なハードルが。

 休職期間という小説家を目指せる期限の存在も、黒田を苦しめていきます。

 そして黒田が小説家になることを熱望する黄泉野と安定を求める彼女との間に挟まれ、

「なんかもう、めんどくさい…」

 黒田は一度すべてを放り投げ、一人になります。

 そしてただただ小説を書き続ける日々を送り、自分の本心を自覚した黒田は会社を辞め、退路を断って小説家になるために動き出したのでした。


「あくたの死に際」主な登場人物

黒田マコト

 本作の主人公。

 大手企業に勤める31歳男性会社員で、仕事も出来て周囲から期待されていたが、ある日突然心を病んで会社に行けなくなってしまう。

 プライベートでは付き合って3年になる彼女がいて、そろそろ結婚も考えていた。

 大学時代は文芸部の部長として小説を書いており、周囲から文才を認められていたが、自分には才能がないと言って小説家を目指したりはしていない。

 しかし後輩である黄泉野に小説家になりたいという願望を見抜かれ、焚きつけられて改めて小説家を目指すことになる。

 色々と溜め込む性格で、突然爆発してとんでもない行動に出るタイプ。

 作風は純文学、粘着質で胸にヒタヒタくる感じ。

 本人がどう言おうが才能はある。

 だが自分に自信がないことが影響し、今一つ作品の主人公に魅力が足りない。

黄泉野季郎

 黒田の大学の文学部の後輩で、メディア展開もされる「探偵月詠」シリーズの作者として知られる人気小説家。

 大学時代から黒田の才能に強い興味を持っており、再会した黒田をなりふり構わず小説家にしようとする。

 中性的な雰囲気のイケメンで何事もズバズバ言うタイプ。

 天才肌ではあるが、同時に小説のためなら何でもする努力家でもある。

 作風としては世のニーズを捉えて売れる小説を書くタイプで、作中で直木賞にノミネートされている。

ミライ

 黒田の彼女。

 付き合って3年で同棲している。

 一見物腰柔らかで黒田のすることを暖かく見守っているように見えるが、安定志向の持ち主で、黒田が小説家を目指すことに否定的。

 黒田の文芸大賞への投稿を妨害したことがあるが、それが故意なのか運の悪い事故だったのかは不明。

犬飼

 黄泉野の担当編集者。

 眼鏡をかけた狐のような雰囲気の男性で、仕事はできるがズバズバものを言うタイプ。

 黄泉野に目をかけ、人気作家である彼のことを上手く囲い込んでいるが、決して甘やかすことはない。

幸田サチ

 黒田の担当となった25歳の新人女性編集者。

 学生時代は家庭に色々と問題があり、いじめもあって自殺を考えたこともあるが、黄泉野の探偵月詠に出会って生きる気力を取り戻した。

 当初は黒田に全く興味が無かったが、彼の作品を読んで以降は彼をデビューさせようと二人三脚で歩んでいくことになる。


「あくたの死に際」感想&評価

追い詰められるような心理描写が秀逸

 この「あくたの死に際」は30過ぎで、今まで自分が小説家になりたいと考えていたことさえ自覚していなかった主人公が、心を病んだことを切っ掛けに小説家を目指すという物語。

 学生時代の自由に夢を追える期間がとっくに終わった人間が、会社や恋人、年齢といったいろんなしがらみに苦しみながら奮闘していく姿が描かれています。

 モラトリアムを過ぎて、色んなものに追い詰められ苦悩する主人公の心理描写が秀逸。

 作中で編集者が主人公の作品を「粘着質で胸にヒタヒタくる感じ」と評していますが、まさにそんな独特の面白さがある作品となっています。

 大人が夢を目指すことの難しさと苦しみ、それでも夢を捨てられない良い意味でのみっともなさみたいなものが丁寧に描かれている良作です。

こんな人におススメ

 この作品はやはり社会人経験のある大人、しかも創作活動をしたことのある人間に刺さる内容となっています。

 いろんなしがらみのある年齢、立場ならではの苦しみや、創作活動に伴う「他人にどう見られるか」の不安など、経験のある人間ほど共感し、刺さる。

 ちょっと暗めの内容なので読む人を選ぶ部分はありますが、刺さる方にはとにかく刺さるタイプの作品ではないのかな、と。

 まだ学生でも、年齢を重ねてから挑戦する難しさみたいなものも描かれているので、創作活動をしている方には是非読んでみて欲しいですね。

 



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