「セシルの女王」感想&評価(ネタバレ注意)~エリザベス女王と重臣ウィリアムを描いた史実に基づく歴史ロマン~


 今回は「あさひなぐ」の作者「こざき亜衣」先生が描く歴史ロマン「セシルの女王」について解説します。

 この作品はエリザベス1世の重臣、ウィリアム・セシルの若き日の姿を描いた物語。

 謀略と愛憎に満ちたイングランド王家を、史実に基づき重厚なタッチで描いた本格歴史ロマンです。

 エリザベス1世を女王にした男。

 本記事では「セシルの女王」のあらすじと登場人物の解説を踏まえ、その魅力を深掘りしてみようと思います。

「セシルの女王」あらすじ

女王の母、アン・ブーリンとの出会い

 物語の舞台は1533年のイングランド。

 当時12歳だったジェントリの息子ウィリアム・セシルは、衣装担当宮内官として働く父親に連れられ、王宮へと登ることになります。

 しかしそこで彼が目にしたのは暴君として振る舞うヘンリー8世。

 ウィリアムは王妃の名前を間違え、ヘンリー8世に殺されそうになってしまいます。

 命は助かったものの強いショックを受けたウィリアム。

 そんな彼が出会ったのは、現王妃で懐妊中のアン・ブーリンでした。

 気丈で優しいアンを慕うようになるウィリアム。

 しかし男児を産むことを周囲に求められるアンの立場は不安定なものでした。

 父親はウィリアムがアンと親しくなることを良く思いません。

 結局、アンが産んだのは女児。

 アンはヘンリー8世に責められ、その立場は極めて危ういものとなっていきます。

 ウィリアムは故郷のスタンフォードに送り返されるのですが、その際、彼はアンに彼女の娘エリザベスを女王にすると誓いました。

ウィリアム・セシルの成長とアン・ブーリンの処刑

 王宮での経験を経て少しだけ大人になったウィリアム。

 彼はその後、お付のラルフと共にケンブリッジ大学で学ぶことになります。

 そこで彼が直面したのはイングランドを揺るがすカトリックとプロテスタントの対立。

 ウィリアム自身はプロテスタントの立場をとりますが、どちらにもそれぞれの正義があり、簡単に割り切れるものではありませんでした。

 カトリック(ローマ)とプロテスタント(イングランド王家)の対立に巻き込まれ、迫害を受けるカトリックとフィッシャー司教の死はウィリアムの心に深い傷を残します。

 さらに追い打ちをかけるように届けられたのは、アン・ブーリンが不貞の濡れ衣を着せられ、処刑されるという凶報でした。


「セシルの女王」主な登場人物

ウィリアム・セシル

 本作の主人公であり、後にエリザベス1世の重臣として40年以上に渡り国政を主導した人物。

 スタンフォードのジェントリ(地方地主)の生まれで、衣装担当宮内官の父を持つ。

 本作では少年時代に王宮で出会ったアン・ブーリンを慕い、彼女の娘エリザベスを世界一の女王にすると誓った、ということになっている。

 剣は苦手だが手先は器用。

 年齢の割に少し子供っぽいところがある。

 プロテスタントではあるがカトリックに対する態度は穏当。

 メアリー・チークを妻に迎える。

エリザベス

 イングランドの黄金期を作り上げたテューダー朝最後の君主。

 作中では聡明で涙を見せないタフな少女として描かれている。

 王女として生まれたが、2歳の時に母が処刑されて以降は庶子に落とされ、不遇な少女時代を過ごした。

アン・ブーリン

 ヘンリー8世の二人目の王妃。

 元は貧乏貴族の娘だったが、王に気に入られその妻となる。

 周囲からは娼婦の様だと蔑まれながら、それでも前を向いて生きる気丈な女性。

 王宮で出会った無垢なウィリアム・セシルを気に入り、可愛がる。

 作中では彼女の子供を正式な王子とするため、前王妃キャサリン妃との結婚をそもそも無効だったことにしようとしたことがローマとイングランド、そしてカトリックとプロテスタントの対立につながっている。

 しかし生まれた子が女児だっためめアンの立場は急激に悪くなり、最後は流産を切っ掛けに兄を含めた他の男との不貞の濡れ衣を着せられ、処刑されることになる。

ヘンリー8世

 イングランド王。

 作中では女好きで癇癪持ちの暴君として描かれている。

 元々兄が王位を継ぐ予定だったが、その兄が死んだことで、兄の妻だったキャサリンを娶り王位を継ぐ。

 亡き兄や父に対する劣等感ゆえか、権力に対する執着が強く、自分の感情を抑えられない。

 ある意味では作中で最も孤独な男。

トマス・クロムウェル

 貧しい生まれから努力で王の側近にまで上り詰めた人物。

 ウィリアム・セシルの憧れの人物であり、若い頃から彼に目をかけていた。

 王に対する忠誠は全くなく、あるのはこの国を富ませ、安定させることだけ。


「セシルの女王」感想&評価

史実と創作のバランスが絶妙

 第一印象はドロドロした王宮と権力を巡る人の想いやうねりがダイナミックに描かれた作品だなというもの。

 歴史ものとしても非常に良質ですが、その上で物語における史実と創作のバランスが絶妙です。

 主人公のウィリアム・セシルはエリザベス1世の重臣ではありますが、史実では彼女との個人的な特になく、彼が彼女を女王にするために動いていたなんて話はありません。

 しかし物語を読んでいくと「ひょっとしたらこれが史実だったのかも」と思ってしまうぐらい、物語に説得力があるのです。

 良質な大河ドラマを見ているような気分になってくるから不思議ですね(最近の大河は……アレですし)。

こんな人におススメ

 年齢層はそこそこ高め。

 かなり理不尽な人間模様を赤裸々に描いていますので、ある程度「そういうもの」と割り切れる人であることが読む上での絶対条件です。

 また隙間時間にちょろっと読むタイプの作品ではないです。

 今のところはまだそこまで複雑ではありませんが、それでも流れをしっかり理解していないと話が分からなくなります。

 基本的には歴史や歴史ものに興味がある方向けの作品。

 かなり史実に忠実に描かれていますので、史実との違いなどを探りながらじっくり時間をかけて読める方にこそ読んでいただきたいです。



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