「リボーンの棋士」感想&評価(ネタバレ注意)~打ち切り完結済でも読んで損のない名作将棋漫画、その魅力や結末を解説~


 今回は、「ビッグコミックスピリッツ」で2018年から2020年まで連載された名作将棋漫画「リボーンの棋士」について紹介いたします。

 この作品は才能豊かで将棋に全てを捧げてきた男が挫折し、一度は将棋から完全に離れたものの、再び辛く険しい将棋の世界に向き合い、改めてプロを目指すヒューマンストーリー。

 ファンからの評価は非常に高かった作品なのですが、将棋、男たちの挫折と苦悩という暗めの題材のせいか単行本販売が伸び悩み、全7巻で打ち切り完結となっています。

 本記事では、リアルで天才棋士が活躍する今だからこそ読んで欲しい「リボーンの棋士」の魅力について、ネタバレも含めて語ってまいります。

「リボーンの棋士」あらすじ(最終回・結末のネタバレ含む)

 将棋のプロ棋士養成機関「奨励会」。
 そこには「26歳までにプロ(=四段)になれなければ退会」という厳しい年齢制限がありました。

 主人公の安住浩一はかつて天才少年と呼ばれ、その青春の全てを将棋に捧げてきましたが、とうとうプロになれないまま26歳を迎えてしまい、奨励会を退会、プロへの道を絶たれてしまいます。

 そして3年後、安住は将棋から完全に離れ、カラオケ店で働いていました。

 どんな仕事でも前向きに、新しい人生を歩もうと笑顔をつくる安住。
 しかしそれまで将棋しかしてこなかった安住は、時間を持て余し、何をしても楽しいと感じることができません。

 そんなある日、同じカラオケ店で働く森麻衣から将棋のイベントに誘われます。

 そこでプロ棋士と平手で指導対局を受けることになる安住。
 相手は史上五人目の中学生プロ棋士として名を馳せた明星六段、実は安住のプロ入りを阻んだ因縁の相手です。

 プロになるというプレッシャーから解放され、本来の実力を取り戻した安住はなんとプロ相手に勝利をおさめます。

 再び将棋の楽しさを思い出した安住は、かつて奨励会で共に学び、プロになれず挫折した土屋と再会します。

 安住と土屋は自分たちが決して将棋から離れられないことを自覚し、再びプロを目指すことを決意しますが、その道のりはとても険しいものでした。

 奨励会以外にもプロ編入試験によりプロになる方法はありますが、その受験資格は「プロとの公式戦において最も良いところから見て10勝以上、なおかつ6割5分以上の成績」というもの。

 プロ相手に勝ち越さなければならないだけでなく、そもそもアマチュアがプロと対戦できる機会自体が少ないのですから、それがどれだけ困難なものかは言うまでもありません。

 ほとんど唯一のチャンスが「アマチュア将棋竜皇戦」で勝利し、プロの棋戦に参戦すること(現実でいう竜王戦ですね)。

 その少ないチャンスをものにし、プロ相手に躍進する安住と土屋。

 しかしその安住の前に立ちふさがったのは若き天才棋士、五十嵐律。
 後に将棋界を席巻する若き才能を前に、プロ編入試験まであと1勝というところで安住は敗北してしまいます。

 けれどその後も安住は諦めることなく、再びアマチュア大会に出場し、プロを目指して抗いつづけるのでした(というところで、物語は終幕を迎えます)。


「リボーンの棋士」主な登場人物(ネタバレ注意)

安住浩一(あずみ こういち)~モデルは瀬川さん? 今泉さん?~

 本作の主人公。
 若い頃から将棋の天才少年と呼ばれ、青春の全てを将棋に捧げてきたが、あと一歩のところで三段リーグを突破することができず、年齢制限で奨励会を退会した男

 外見はあまり将棋指しには見えない普通の好青年。

 生真面目でストイック、ポーカーフェイスが下手糞で不器用。

 モデルは2005年にプロ編入試験でプロになった瀬川さん(その軌跡は「泣き虫しょったんの奇跡」として映画化された)、あるいは2014年に合格した今泉さんと考えられる。

土屋貴志(つちや たかし)~真ヒロイン~

 ある意味、この作品の真のヒロインとも呼べる男。

 安住と同じ元奨励会員で、プロになれず挫折し、現在は親の経営する工場で働いている。

 外見はメガネをかけた気難しそうな雰囲気の男で、性格は根暗で後ろ向き。
 ある意味安住と対照的な男だが、将棋に関する情熱は本物。

 奨励会大会後も将棋を辞めることができず、将棋センターでアマチュア相手に勝利し、憂さを晴らしていたが、安住との再会を期に再びプロを目指すことを決意する。

森麻衣(もり まい)~ラストでは結婚、読者の度肝を抜いた~

 安住と同じカラオケ店で働く俳優志望の女性。

 外見は黒髪ショートカットの明るい雰囲気で、性格も見た目通り快活。

 将棋が好きで安住が再び将棋を始めるきっかけを作る。

 当初はヒロインかとも思われたが、土屋が安住に対して異常なヒロイン力を発揮した上、安住自身が女性に興味がなく、どんどん影が薄くなっていく。

 安住に好意を抱いていたようだが、最終巻では俳優の夢を諦め別の男と結婚という衝撃のラストで読者の度肝を抜いた。

加治(かじ)二冠~かつてのライバル~

 竜皇、玉座の二冠を持つトップ棋士。

 かつて奨励会に安住と同時に入会し、ライバルとして切磋琢磨していた。

 当時から実力的には安住より上と評されていたが、安住とは相性が悪く対戦成績は五分だった。

五十嵐律(いがらし りつ)~天才プロ棋士、モデルは藤井聡太さん?~

 天才高校生プロ棋士。

 モデルはどう考えても藤井聡太さんで、才能だけでなく将棋への情熱も並外れており、作中ではある意味別格の光輝く存在として描かれている。

 安住と対局した時点ではまだプロになったばかりの四段だったが、その後七段昇格、棋竜のタイトルを獲得するなど記録的な活躍を見せた。

 リアルの方が現実離れしているため、漫画の方が活躍は控え目という不思議な現象が発生している。


「リボーンの棋士」の感想&評価

非常にリアルで面白い将棋漫画だったが、単行本売り上げが伸び悩み打ち切り

 まず一言、将棋の世界が非常にリアルに描かれていて、文句なしに面白い作品です。

 将棋やプロの世界のことを知らなくとも十分楽しめる、一種のヒューマンドラマと言った方が良いかもしれませんね。

 スピリッツの読者の中では間違いなく評価の高い作品だったのですが、単行本売り上げが伸び悩み僅か7巻で打ち切りとなってしまいました。

 好調に見えてもコミックス売り上げが伴わないことがあるとは、何とも難しい世界ですね。

 強いて言うなら、作風が地味だったのかな。

 「3月のライオン」とか人気のある将棋漫画もあるのですが、ああいう華やかな雰囲気の作品と比較すると確かに「リボーンの棋士」はちょっと暗いですよね。

 「なろう系」とかが流行ってる現状をかんがみるに、今の人はもっとスカッとした躍進劇みたいなのが好みだったのかもしれません。

苦悩と挫折に喘ぎながらその道を進み続ける男たちの生き様

 それでも尚、今この作品を紹介するのは、「リボーンの棋士」が間違いなく傑作だからです。

 売り上げが伴わなかったということは、必ずしも作品の評価を下げる理由にはなりません。

 安住や土屋の苦悩は、将棋を知らない人間にもストレートに伝わってくる普遍的なもの。

 その上で、「元奨」に向けられる周囲の目や評価、そして将棋以外何も持たないまま社会に放り出されるという将棋界の現実を、この作品は逃げることなく真っ向から描いています。

 確かに栄光のない暗い世界を描いた物語なので読むのに少し体力が必要かもしれませんが、それでも読む価値のある、心に刺さる作品です。

 この「リボーンの棋士」は、人が苦しい時、挫折した時、迷った時、どう生きるべきか、その一つの在り方を示してくれたような気がしますね。



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