今回はヤンマガ本誌で連載中の図書館お仕事コメディ「税金で買った本」から、弁償を希望する善の利用者「鈴木さん」について解説します。
鈴木さんは主人公の石平くんが働く図書館を訪れた女性利用者。
子供の頃に借りていた本を紛失し、怒られるのが怖くて図書館と疎遠になっていましたが、勇気を出して10年ぶりに来館。
きちんと弁償してケジメをつけたいと望む善良な女性です。
本記事ではそんな鈴木さんのプロフィールや登場話、彼女のエピソードに込められた原作者の思いを中心に解説してまいります。
「税金で買った本」鈴木さんのプロフィール
基本プロフィール
鈴木さんは主人公の石平くんが働く図書館の利用者の一人。
作中では子供の頃に借りていた本を紛失し、それ以降怒られるのが怖くて図書館と疎遠になっていましたが、勇気を出して約10年ぶりに図書館を訪れています。
外見は少しクセの有る髪をサイドでまとめた真面目そうな雰囲気の女子大生。
年齢は12歳の時に本を紛失し、10年ぶりに図書館を訪れたというエピソードから22歳前後と推察されます。
善良で責任感が強い真面目な性格。
厳しい祖父や母親の下、抑圧的な環境で育った影響か、過度に自分を責めてしまう傾向があります。
弁償を望む”善”の利用者
基本的にこの「税金で買った本」で登場する利用者は、迷惑なクソ利用者が中心ですが、鈴木さんは作中では稀少な「善」の利用者。
子供の頃に借りていた本を紛失して弁償できずにいたという経緯はあるものの、そのことにずっと罪悪感を感じていた良心的な女性です。
詳しくは後述しますが、子供の頃に弁償できなかったこと自体は鈴木さんの責任ではないですしね。
ちなみに図書館としては10年も前に無くなった本を今更弁償されても、正直不要なことが多いのですが、互いのケジメのためにもきちんと弁償してもらうというスタンス。
弁償しない限り図書カードが貸出停止となってしまいます(第1話の石平くんのように)。
「税金で買った本」鈴木さんの登場話(初登場)
みつけよう! まちの歴史(15話)
鈴木さんの初登場は第15話「みつけよう! まちの歴史」。
鈴木さんは小学生の頃、夏休みの宿題のために図書館で借りた本を紛失してしまい、以来怒られるのが怖くてずっと図書館から足が遠のいていました。
しかし勇気を出して10年ぶりに図書館を訪れ、紛失した本を弁償したいと申し出たのですが、早瀬丸さんや白井がいくら調べても彼女のカードで未返却の本は見つかりません。
そんなはずは無い、なんとか探してほしいと頼み込む鈴木さん。
そこで石平くんが、子供の頃の話なら親のカードで借りたのではないかと気づき、鈴木さんが紛失していた本は鈴木さんの母親のカードで借りられていたことが判明します。
弁償の督促はあったのですが、鈴木さんの母親が無視していた形ですね。
弁償の目途が立ちホッとする鈴木さんに、早瀬丸さんは是非また気兼ねなくご利用いただければと告げ、鈴木さんはお礼を言って去っていったのでした。
新訳マクベス(27~28話)
弁償手続きを終えてまた頻繁に図書館を利用してくれるようになった鈴木さん。
ある日彼女は、本に僅かな雨の染みをつけてしまったことを理由に自ら弁償したいと申し出ます。
この程度の汚れであれば弁償不要と言う早瀬丸さんでしたが、鈴木さんは申し訳ないので弁償したいと食い下がります。
いったんその場は修理を試みてみるということで弁償はせず帰っていく鈴木さんでしたが、全く納得した様子はありませんでした。
そのことを不思議に思った石平くんは鈴木さんにどうして不要な弁償をしたがるのかと訊ね、「マクベス」に登場したマクベス夫人に近いのではと指摘します。
何故自分が弁償したいのか気になった鈴木さんは、自分が消したい汚れとは何か考え、それは「失敗したみっともない自分」であると気づきます。
幼い頃に祖父や母親から厳しい教育を受けていた鈴木さんは強迫観念に陥っていました。
汚染を過剰に恐れ、他人に害を及ぼしたのではと不安になる加害脅迫。
そのことを自覚した鈴木さんは、白井が修復してキレイになった本を見て、そうした強迫観念から解き放たれたのです。
「税金で買った本」鈴木さんと弁償
この「税金で買った本」と「弁償」は切っても切り離せないテーマです。
そもそも主人公の石平君が図書館と深くかかわるきっかけとなったのが、彼が昔失くした本の弁償を拒もうとしたこと。
「『税金』で買った本だぞ 返せよ」
という白井の魂の叫びが、この弁償と言う言葉には込められています。
一方で、鈴木さんは石平君とは真逆で自ら進んで、しかもする必要のない弁償をしようとしていました。
弁償とは誰のために、何のためにするのかというテーマを深堀する形で登場したのがこの鈴木さんと言うキャラクターです。
「税金で買った本」鈴木さんはずいの先生の願い
原作者のずいの先生は実際に図書館勤務の経験がある作家さん。
ずいの先生はファンブックでこの作品には「長期延滞していた人も返却か弁償して、また来てくれたらいいのにな~」という願望が込められているとコメントしていました。
この「また来てくれたらいいのにな~」がこの作品の大きなテーマの一つ。
作中では石平くんや鈴木さん以外にも、本を紛失したり汚損したり、図書館に迷惑をかける利用者はたくさんいますが、作中ではたたの一度も職員たちが「二度と来るな」と発言したことはありません。
弁償したりしてケジメをつけたら、また気兼ねなく図書館を利用して欲しいと最後は笑顔で利用者をお見送り。
みんなに来てもらうのが図書館、という作品の骨子がここに込められています。
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